実写多めのネタ系Vtuberグループ①

 奈央が受けたVtuber事務所は「みかくら高校」と言うらしい。

 彼女からみかくら高校について詳しく聞かなかったので、自分なりに調べて分かったことをまとめて振り返ろうと思う。


 みかくら高校——イラストレーター、青崎ぐんぐにる(彼女は個人でYouTubeチャンネルもやっていて、登録者数なんと50万人超え!すごい!)がプロデュースした新進気鋭のVtuberグループである。

 現在は3期生まで在籍していて、各Vtuberの個人チャンネルの登録者はほとんどが10万人を超えているらしい。これもすごい!


 特に、情報収集のためにみかくら高校でサーチしたらサジェストの一番上に出てきた「1期生デビュー配信」。

 これはファンの間でも伝説とされているらしく、マスクとサングラスをした1期生全員で夜の山に行って川の主を釣り上げるというなかなか他にはない試みだったらしい。

 もちろん全編実写。公式で発表されたメンバーの可愛いイラストに釣られて動画を観てみれば、マスク&サングラス姿の怪しい女たちが現れたものだから、戸惑った人も多かったみたいで。

 配信は翌朝まで続き、『1期生デビュー配信』『主釣り耐久』でトレンド入りした他、色んなアクシデントがあったり、涙あり笑いありの内容だったらしく。

 結局主は釣れなかったけれど、話題性としては大成功を収めたとWikipediaに書かれていた。

 その他にも、メンバーの年齢をクイズ形式で暴露したり、"中の人"を入れ換えたり、プロの緊縛師による亀甲縛り講座を受けたり(なぜか最後は縛られた状態で誰が一番早くハーモニカで「かえるのうた」を吹き終えるか勝負していた)、ゲームの野良キッズをエロで釣ったりとなかなかギリギリなことをしているみたいだった。

 

 奈央はそんな「みかくら高校」の4期生としてデビューする予定らしい。

 メンバーは既に公式サイトやTwitterで発表されていて、同期は「井手駒いてこまこます」「蓮道寺れんどうじかくりよ」の2名とのこと。

 各メンバーのアカウントは「みかくら高校」公式アカウントにより発表済みで、アカウントを確認するとそれぞれ「初めまして」と呟いていた。

 ただ、奈央のアカウントだけまだ発表されていなかった。

 公式がメンバーのアカウントを発表するよりも前に奈央から配信が難しいと連絡があったのだと思われる。

 こんなことになって、今頃事務所はバタバタしてるんだろうな。


 私は奈央とのラインを終えた後、妙にそわそわした気持ちでいた。

 奈央の提案がもし事務所に受理されたら、私は4期生としてデビューすることになる。

 まあ奈央が配信できるようになるまでの代理という形にはなるけれど、通常のデビューと状況的には変わらないだろう。

 新人のデビューを心待ちにしている視聴者からしたら、代理だろうが新人は新人。しっかり「みかくら高校」の新人Vtuberとして扱われるだろう。

 それはまずい。非常にまずいぞ。

 当たり前だけど配信なんかやったことないし、Vtuberの知識もない。

 そんな私がまともに活動できるのだろうか。

 考えたらお腹が痛くなってきた。


 奈央の提案が事務所に受理されてもされなくても、私の元に彼女から連絡が届くことになっている。

 ラインが終わったらすぐ事務所に掛け合うと言っていたので、今頃話し合いをしているところだろう。

 まあ事務所も忙しいとは思うけれど、内容が内容だけに優先されるだろうし。

 私はとにかく落ち着かなくて、YouTubeを観たりして過ごしていたけれど頭の中はずっとVtuberデビューのことでいっぱいだった。


 そして、晩御飯の味噌汁の味見をしていると、ついにラインの通知音が鳴った。

 普段的に話す人なんていないので、間違いなく奈央からだ。

 私はガスコンロを止めて、速攻スマホに飛び付いた。

 トーク画面の一番上に表示されている奈央の新着メッセージをおっかなびっくりで見た私は、へなへなとその場に座り込んだ。





 『陽南、事務所の人OKしてくれたよ!よかった!!』





 もう引き返せない。

 私は震える指で、「そっか、よかった」と思ってもいないことを送り、奈央の願いを受け入れたことを早くも後悔するのだった。

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