第6話 「一人よりも仲間とともに」
僕のあこがれは、正義のヒーロー。困っている人がいたら颯爽と現れて、敵を一人でやっつけて、さっと帰っていく。
そんな強いヤツになりたくて最近、キックボクシングを習いはじめた。
兵庫県三田市のナックルキックボクシングジム。この教室で僕は強くなって、一人で敵を倒せるヒーローになるんだ。
「ねえ! 一緒に帰ろうよ」
練習が終わると自分と同じくらいの歳の男の子に話しかけられたけど、僕は首を横に振る。
「いい。一人で帰る」
「えーっ。せっかく家の方向が同じなんだし、仲良くなりたいと思ったのになあ。ま、いいや。またね!」
そいつは僕に手を振って帰っていった。
「一緒に帰らなくてよかったの?」
後ろで僕らの様子を見ていたらしい先生にそう聞かれて、僕はうなずいた。
「一人がいいんです。だってさ、一人でなんでもできたほうがカッコよくない? 集団で群れてるヤツらが強くてもカッコ悪いだけじゃん」
「なるほどな、一匹狼ってやつか。でもね、先生はみんなと一緒に何かができたほうがカッコいいときもあると思うな」
「うっそだあ」
「嘘なもんか。そうだ、今度練習の後にみんなでロボットを作るイベントをするから、君もおいでよ」
「いや、僕はいい」
「カレーライスとかき氷もあるよ」
「……やっぱり行こうかな」
食べ物に釣られた僕を見て、先生がにやりと笑った。
次の日曜日、練習が終わると僕らは近くのお店「広島焼き たかしょう」へ移動した。今日はここで、地元のK大学の工学部の人たちにも教えてもらいながら、ロボット作りをする。僕たちはいくつかのグループに分かれて、グループごとにロボットを完成させることになった。僕のグループのリーダーは、このあいだ一緒に帰ろうと声をかけてきた蓮(れん)ってやつ。蓮は僕を見て、にこりと笑った。
「よろしくね、正樹(まさき)くん」
「……よろしく」
しぶしぶ返事をする。正直、ロボットくらい家で一人で作れると思う。どうしてグループでやらなきゃいけないんだろう。でも、このときの僕の疑問は実際にロボットを作ってみると答えがわかった。
僕は手先が器用なほうだ。だから、部品を組み立てたりするのは得意。
「すごいね、正樹くん!」
するすると動く僕の手を見て、蓮がそう言ってくれた。
「ホントだ、正樹くんって器用なんだね。ねえねえ、ここってどうするの?」
同じグループの他の子にも話しかけられて、変な気分だ。でも、みんなと話しながら何かをするのって、思っていたよりも嫌じゃない。
僕の他にも、みんなそれぞれ得意なことがあるのもわかった。蓮はみんなをまとめるのが得意。それから、ムードメーカーだったり、静かだけど僕らの様子をよく見ていて、大事なときには意見を言ってくれる子……。
僕たちは協力して、ロボットを完成させることができた。
ロボット作りの後に、お店のオーナーさんが用意してくれたカレーライスとかき氷をみんなで食べていると、先生に声をかけられた。
「今日、来てみて良かったでしょ?」
「……うん。楽しかった。それに、一人でやるよりも上手に作れた気がする」
「そうか。キックボクシングも同じかもしれないね。1対1のスポーツだから一人でも強くなれるけど、友達や仲間がいれば、一人のときよりも何倍も強くなれる」
先生の言う通りかもしれない。僕は先生の言葉にうなずいた。そして、隣でかき氷を食べていた蓮に思い切って話しかけてみる。
「あの……蓮くん。今日、一緒に帰らない?」
蓮がパッと笑顔になった。
「いいよ! 一緒に帰ろ!」
僕たちの様子を、後ろで先生とオーナーさんが見守っていた。
一人じゃなくて、友達と一緒に強くなるのも悪くないかもしれない。そのほうが、もっと強い強敵にも何倍もの強さで立ち向かえる。そんな気がするから。
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