第38話 精霊

「メブキ様が村に運び込まれた後、外出が困難になる程の雨が三日三晩降り続きました。そして四日目の朝……樹海が出来てました」

「はい?」


 ソワ村長が代わりに説明をしてくれたが、意味が分からない。


「そう言うわけじゃ。めでたしめでたし」


 黒曜の言い方! 何か含みがあるけれど……ソワ村長も喜んでいるし、悪い結果でないのならいいか。でも、もう少し詳しく何があったのか知りたい。


「衣療樹で私が倒れていたと言ったけど、詳しい状況を教えて欲しいな」

「気にするでない。それに先程、辛い思いをしたばかりではないか」

「黒曜!」


 空気が張り詰めお互い睨み合う。


「はぁ〜〜。変な所で意地を張るではないか……分かった、話をしよう。その前に芽吹が結界内で体験した出来事を思い出せる範囲で良い、教えてはもらえぬか?」


 黒曜が折れてくれた。それを聞いて、ソワ村長とフィレールさんが応接間から出て行こうとする。


「ここに残り話を聞くのじゃ。長年結界を見守ってきたのじゃろ、芽吹の話を聞き知る事があればアドバイスをしてはくれぬか」

「かしこまりました」

「じゃ、じゃあ覚えている事を話すよ。と、言ってもあまり記憶がないんだけどね」


 三人の真剣な顔が向けられる。


「結界内に入ると、黒い靄がかかってて呼吸しずらくなって同時に頭もクラクラしたかな。足元の野草は全部毒草だったから、触れないように慎重に進んでいたら頭がボーッと……ボーッとしてきて……」


 何か重要な出会い、そして出来事があった気がする。……けど。


「気がついたら借家の寝床で、黒曜が側にいたよ」

「つまり、全く覚えていないのじゃな」


 黒曜が腕を組み悩んでいる。


「ならば、裁縫をすると思い《影法師》を呼び出してくれぬか」

「《影法師》を呼び出す? 唐突だね。まぁいいけど」


《影法師》を召喚させる。けど、特に変わったようには見えない。


 何処からともなくピンポン玉サイズの青白い玉が、フワリフワリと応接間に入ってきた。それを目で追っていくと《影法師》の頭の上に乗った。なんとなくだが、青白い玉はここが自分の居場所だと主張しているようにも見える。


「そんな、まさか!」


 ソワ村長が驚きの声を上げた。あれは珍しい物なのか?


「《鑑定》」


〈 名 称 〉 ー


〈 分 類 〉 精霊


〈 備 考 〉 懐いた相手の能力向上


〈 強 さ 〉 ー


〈 稀 少 〉 C+ランク


 せ、精霊だって!? え、ぇぇえ? なぜ《影法師》に懐いているんだ!


「次は鍛治で防具を作ると思いながら、《影法師》を呼び出してもらえぬか」


 一度、《影法師》を戻し鍛治をすると考えながら《影法師》を新たに召喚する。青白い玉は《影法師》に興味を無くしたのか何処かへ飛んでいってしまった。


「……懐いているのは裁縫をする時に召喚した《影法師》なのか? 見分けが付くんだな」

「まだまだ生まれたばかりのヒヨッコじゃが、それでも精霊の端くれだ。その位わからぬでどうする。害はない放っておいてよかろう」

「懐いた相手の能力向上ってあったけど、これって私の能力も上がるの?」

「そんなわけ無かろう」


 鼻で笑われてしまった。


「これは覚えとるか?」


 黒曜は魔法の小袋から、淡い光を放つ鉄の盾を取り出し机の上に置いた。


「随分とシンプルな盾だね」

「……そうじゃな」


 この盾、何かあるのか??


「《鑑定》」


〈 名 称 〉 鉄の盾


〈 分 類 〉 防具


〈 備 考 〉 打撃に弱い


〈 稀 少 〉 Cランク


「打撃に弱い!? それって、盾として致命的じゃない?」

「芽吹が作った盾じゃ」

「またまた。火床は無いし、あったとしてもこんな整った盾は作れないよ」

「妾が貰って良いか?」


 そういえばこの世界は拾ったアイテムや装備の所有権とかどうなるのかな? 黒曜には知らないだろうし……迂闊には答えられない。返答に困りソワ村長の顔を見る。


「よろしいかと思います」


 いいの!?


「黒曜の好きにしていいよ。それで、いつになったら私を見つけた時の話になるの」

「まだ覚えておったか……」


 流石にそこまで物忘れは激しくないよ!


「芽吹の手足顔に多数の負傷がみられ、泥だらけで倒れておった。妾の想定していた瘴気濃度より高く《状態異常(中)》では耐えられず、途中で錯乱し記憶が飛んでしまったんじゃろ。服もボロボロで妾の判断で処分させてもらった……すまぬ」

「……そうか」

「《影法師》は芽吹の側に佇み、あの精霊もおった。どこかのタイミングで懐いたんじゃろうな。芽吹を村に連れ帰った後、ソワにフィル村の服を一着分けてもらったのじゃ」

「助けてくれてありがとう」

「元はと言えば、妾の調査が甘かったのが原因。責められこそすれ、礼を言われる筋合いは〜……ない」


 お、ぉぅ。私のせいで何とも言えない気まずい雰囲気になる。


「飲み物のおかわりと、折角ですからお菓子も何か持ってきますね!」


 フィレールさんが重苦しい空気を感じ取ったのか、わざとらしく明るい声を出して応接間から出ていった。


「そ、ソワ村長」

「なんでしょうか、メブキ様」

「ネックレスをお返し致します」


《空間収納》から緑のネックレスを取り出して、ソワ村長に返却する。ソワ村長が受け取り、緑のネックレスを身につけるといつもの人の姿に戻った。


「それと、お願いがございまして。様付けで呼ぶのを、やめてもらえないでしょうか。私は、高名な職人でもなければ高名な冒険者でもない。瘴気の件は黒曜がいなければ解決できませんでした。それどころかフィル村。いえ、ソワ村長が迎え入れてくれなければ野垂れ死んでいた可能性すらあります。感謝してもしきれません」

「それは……」


 ソワ村長が返答に躊躇ちゅうちょしたのか目を閉じる。


「分かりました。メブキさん」


 何か言いたげだったが、諦める様に納得してくれた。


「お待たせしましたー、どうぞ!!」


 フィレールさんが熱めのコチ茶と金平糖を持って戻って来る。……黒曜はまだ機嫌が悪そうだ。


「イタタタ。お菓子食べたいけど、急に腕が痛み出した。誰か食べさせてくれないかな〜〜」


 黒曜をチラ見しながら、わざとらしく演技をする。


「全く、仕方ないの」


 やれやれ。的な雰囲気を出しつつ、小さな手で金平糖を一粒掴み私の口へ運んでくれた。


「美味しい! こうやって食べれるのも黒曜のおかげだよ。やっぱ頼りになるね」

「こ、この程度の事でそのような事を言うでない!」


 照れ顔を押し殺した様な表情をする黒曜。機嫌は直った様だ。……これで気に掛かっていた事は全て済んだかな。


「芽吹、眠いのか?」

「ん? ああ。色々納得したら眠くなってきた」

「しょうがないの、病み上がりじゃならな。妾が寝床まで運んでやる。特別じゃぞ」

「ありがと」

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