第34話 影法師の実力
◇
無理! テントの張り無理!! 生活力の無さ、不器用さに少し嫌気が差す。
「今夜は屋根なしで……」
「構わんよ。妾は元々その様な生活を送っとった、気にはならん」
「せめて黒曜はここで寝て」
テントを折りたたみ、敷布団変わりにする。
「少し広げれば一緒に寝れるじゃろ、そこまで気をつかうでない。それよりもほれ」
黒曜は、焚き火に当たりながら私を手招きをして地面を叩く。
「明日の打ち合わせをしようぞ」
ふらふらになりながら、黒曜の隣に座った。
「調査した結果、ここから離れた地中深くの場所で瘴気が発生し、それが地下を通り結界の中心である衣療樹から漏れ出ておる事が分かった。朝一、妾はそこに向かい発生元を断つ。併せ地下の通りに溜まっておる瘴気を衣療樹まで一気に押し込む」
「結界が崩壊しかけている状態で、大量の瘴気を一気に送って耐えられるの?」
「無理じゃな。じゃから芽吹にやってもらいたことがある」
黒曜が魔法の小袋から拳サイズで白色の石を取り出した。
「投げるから両手のひらで受け取るのじゃ」
投げる? 隣に座っているのだから手渡しすればいいのに。
「《
山なりに投げられた石が空中で小刻みにブレれ、私の両手のひらに収まると粉になった。
「何それ、凄い!!」
「その粉には高い浄化作用がある。瘴気の出口である、衣療樹の根本を囲うように撒くのじゃ。そうすれば妾が強制的に送る瘴気だけで無く、今ある瘴気も効率良く浄化できよう」
ドヤ顔で説明してくれた。
「《鑑定》」
〈 名 称 〉
〈 分 類 〉 粉
〈 備 考 〉 高い浄化作用
〈 稀 少 〉 Bランク
「竜力石?」
「長期にわたり竜脈の力を浴び続け、性質が変化した岩石の総称じゃ」
「どこで手に入れたの」
「妾が昔住んどった所でな、この辺りではまず手に入れることは出来ぬ」
「思い出の品じゃないの!?」
黒曜は少し困った顔をみせるが、
「明日、太陽が真上に昇る前までに撒けば良い。妾と共に目覚め向かえば十分過ぎる程に時間を取れる」
返答はせずに、そのまま話を進めた。
「妾は夕暮れには戻ってこれるじゃろ、ここで落ち合おうぞ。結界内は危険な存在も感知せんかった、本来王族しか入れぬ神聖な場所。折角なのじゃから時間までゆっくりと探索でもしながら待っておれ」
「意外に時間かかるね。もしかして、黒曜の体への負担大きんじゃない?」
「……事が済んだら少し休憩するだけじゃ、気にするでない」
黒曜が立ち上がり敷布団となったテントへ向かう。
「妾は寝る。明日は早い、芽吹もあまり遅くならないうちに寝るんじゃぞ」
「おやす……。待った! 今更だけど、瘴気が満たされている中に私は入っても大丈夫なの?」
「《状態異常耐性(中)》があるので大丈夫じゃて」
なら安心か。その言葉を聞いた後に、もう黒曜の寝息が聞こえてきた。寝つき良すぎだろ!
竜力石の粉、このまま《空間収納》へ入れて散らばらないかな? ……感覚的に大丈夫そうだな。
《空間収納》へ竜石粉をしまい、綿の布地と糸を取り出す。《万物流転》でハサミを出し綿の布地を大きめに二枚切り取った。
「さてと」
《万物流転》で針を出し、綿の布地のほつれ処理をしていく。薄手の掛け布団として黒曜に掛けるつもりだ。防具の作成では無いから縫うのに苦労すると思ったが、思いのほかスムーズに処理できている。
もう一枚はと……《影法師》にほつれ処理をさせるか。《影法師》を召喚し手渡した。
「うん。いい感じにできた」
縫い目は少し上下に乱れているが、逆にそれがいい味を出している。《影法師》もほつれ処理を終わったようで私に渡してきた。
「ん?」
心なしか……《影法師》の方が縫い目がの乱れが少なく綺麗に見える。……いや、認めよう綺麗だ。
私が縫った薄手の掛け布団を黒曜に掛けて、スーツの上着とネクタイ、緑のネックレス、《影法師》の縫った掛け布団を《空間収納》へしまう。新たに綿の布地を取り出し、二枚切り取りそのうちの一枚を《影法師》に渡した。
「オーケーオーケー《影法師》、君の実力は分かった。布の端までどっちが綺麗に、そして早く縫えるか勝負と行こうじゃないか。縫い方はそうだな……なみ縫いにしようか」
声に出さなくても《影法師》に伝わるが、あえて声に出していく。《影法師》の本体としては負けてたままではいられない。
足元に落ちている小石を拾う。
「これが地面に落ちたらスタートだぞ」
《影法師》を正面に見据え、親指で小石を上空へ弾いた。……小さな音が耳に届く。
布地に穴を開けるのでは無く、隙間を通すように針を刺していくイメージで手を動かせ! 丁寧にそして素早くーー。
よし、前回よりいい感じに出来上がった。隣をみると《影法師》も終わっている。速度はほぼ同じ、勝敗を決めるのは縫い目の綺麗さだ。
お互いのを見比べる、縫い目の乱れの具合はほぼ同じ。けど、《影法師》の方は縫い糸が等間隔に揃っていて見た目が良い。
「ぐっ……」
本体より性能がいい分身っておかしいだろ!!
再度勝負、と言うか勝ち越すまでやり続けたいが〜……。万が一、そう万が一負け続け睡眠時間が削られ寝不足に陥るわけにはいかない。
「今回はーー《影法師》の勝ち。だけど、次回は負けないからな!」
聞き用によっては、捨て台詞とも取れる発言をしながら《影法師》を帰した。
「明日か……」
目的地まで行って竜力石の粉を撒くだけ、単純な事なのに何故か不安を覚える。
寝ている黒曜の頭を軽く撫で、
「黒曜は凄いよな……。いつも頼りにしているよ。こんな私だけど、これからも宜しくね」
小っ恥ずかしくて、面向かっては言えない。
「さ〜て、寝るかーー」
掛け布団を掛け横になる。
布地から手袋を作ったけど、平面の素材が立体的に組み上がって行くのは楽しかったな。ソワ村長が同じ繊維でも染める原料を変えることで、防御力や特定耐性が向上すると言ってた。一体どれほどの組み合わせがあるのだろうか? 考えただけでも心が踊る。
服は作りかけ、鉄のインゴットは中途半端、ミスリルインゴットに至っては手付かずだ。やりたいことに追われるなんて前世では夢にも思わなかった。
……楽しい。瘴気問題は明日で解決する。そうしたら作業に没頭したいな。
掛け布団を頭まで掛け、目を瞑った。
◇
朝か……。
社会人の頃からの習慣で、絶対に遅刻できない仕事が入っている時は、目覚ましが鳴る前に自然と起きていたけど〜まさかそれが異世界で役に立つとはな。
「芽吹、おはよう」
少し遅れて黒曜も起きてきた。
「おはよう」
「なんじゃ、布団を掛けてくれたのか」
少し嬉しそうにする黒曜。
「すぐに朝食を用意するよ」
「いや、肉が無い朝食はいらぬ」
黒曜の背中から漆黒の翼が出てきた。
「芽吹、くれぐれも太陽が真上に昇る前までに撒くのじゃぞ!」
「任せて!」
親指を立て笑顔で答える。
「では、また会おうぞ」
黒曜は魔法の小袋に掛け布団をしまい、飛び去って行った。
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