第31話 調査報告


「おはようございます」

「いいタイミングで起きてきたな」


 テントから出ると、ルレイさんが朝食を作っていて、美味しそうな匂いがしてきた。


「もう少しで飯の用意が終わるから待ってな」

「朝から肉とは、わかっとるではないか」

「「!!」」

「こ、黒曜いつ戻ってきたの?」

「今し方じゃ」

「今って……。お帰り、調査はどうだった?」

「芽吹よ、そうがっつくで無い。先に食事じゃ」


 ルレイさんのため息が聞こえてきた。


「待ってろ。追加分を用意するから」


 ナイフを使い、手早く作っていく。


「ほら、スープは熱いから火傷するなよ」


 朝食は小ぶり肉と生野菜が挟まったナン。それと木の容器に入った、玉ねぎを刻んだようなスープが出てきた。


「コクヨウちゃんの分は特別に野菜多めにしておいたぞ」

「野菜……き、気がきくではないか」


 言葉と表情があってないぞ、黒曜。


 スープを一口……温かさが体に染み渡る。青空の下で焚き火を囲んでの食事、開放感もたまらない。


「調査は十分に行えた。後は報告するだけじゃ」

「一晩で終えたのか!? にわかには信じられん……だが……。ならば、早急に帰ろう」

「一刻を争うことではない」


 黒曜は気軽な口調で手をヒラヒラさせている。


「そ、そうか」


 返事をしたものの、ルレイさんはすぐに食事を終え、帰りの準備を始め出す。一方で、黒曜はマイペースにゆっくり食事をしている。何処となく私の板挟み感が拭えない。


 ルレイさんの無言のプレッシャーに負け、私はかきこむように朝食を食べた……。


「コクヨウちゃんの食事も終わったな」


 荷物は既に《空間収納》にしまい黒曜が食事を終えるのを待っていたがー、思った以上に時間がかったな。いつもなら頬張るように食べているのに。


 黒曜を背負い帰路を急ぐ。背中越しに黒曜の寝息が聞こえてきた、夜通し調査していたんだろうなお疲れ様。ルレイさんも寝てないはずだけど、足取りからは疲れを感じさせなかった。


「俺だ開けてくれ」


 村長宅を叩くルレイさん、アドニスさんが出てきた。


「どうした、何かトラブルでも起きたのか? ……まさか、石畳の通路にまで瘴気が!?」

「調査結果を報告したい。お前を含め村長に聞いてほしい」

「何を言っている。出発してから一日と経ってないぞ」

「妾の手にかかれば十分すぎる時間じゃ」

「……そうだったな」


 アドニスさんは何か言いたげだったが、黒曜の言葉を聞いて納得した様子でソワ村長を呼びにいった。てか、いつ起きたんだ黒曜!


 黒曜と共に応接間の椅子に腰掛けると、フィレールさんがコチ茶を持ってきてくれる。机の上に置くとそのまま出ていった。向かいの席にはソワ村長が座り、アドニスさんとルレイさんは後方で立っている。


「メブキさん、コクヨウさん。本当にありがとうございます。それで……どうでしたか?」


 空気が張り詰めるのが分かった。


「結界そのものの状態はかなり悪い。数十ヶ所で綻びが生じ、瘴気が漏れ出しておった。簡易的には塞ぎはしたが、……妾の見立てでは後一週間ともたん」


 沈黙が降りた。


「瘴気は結界の天井まで達しておった、結界が崩壊したらこの村など一飲みじゃ。幸いな事に濃度はさほど高く無い。吸い込んだとしてもすぐには死ねず、徐々に体を蝕まれ、苦しみながら死ぬだけ。瘴気に耐えられたとしても本質が変化して、似て異なる何かになるだけじゃ。故にとどまっておれば必ず後悔することになるじゃろうな」


 黒曜は村を捨て逃げろと暗に言っている。


「……そうですか。この場にいる者達と少しお話させていただけませんか? 後ほどお礼の品をお持ちいたします」


 ソワ村長が笑顔を見せてくれた。……強い人だな。


「分かりました。借家で待ってます」


 お礼の話はしてなかったし、求めるつもりも無かったけど……断れる雰囲気じゃ無かったな。


「ねえ」


 黒曜をおぶり借家へ戻る。


「何じゃ?」


 背中から返事が返ってきた。


「黒曜の魔法で新たに結界を張り直すことは出来ないの?」

「今の妾ではあの規模を作るのは無理じゃ。それにあの結界は単純そうに見え、複合効果が備わっておるからの」

「へ〜どんな効果が??」

「それはだな、認識阻害魔法を基礎とし、特定の場所以外から入れぬ空間断絶魔法。特定条件を満たした者のみ入れるようにする認証魔法、その他にもーー」


 背中が徐々に熱を帯び、加速し出す黒曜の魔法トーク。これは……やらかしたな。


「芽吹、聞いとるか」


 今回は私が振った話題、最後までしっかり聞くのが道理……。


「聞いてますよ」


 明るく、丁寧に返事を返す。


「そして結界内では、瘴気を浄化出来るほどの効果は持ち合わせてはいぬが、大気を整える浄化魔法。大地のには植物などの成長を早める促進魔法が備わっておる。更には!!」


 結界一つにそこまで入念に作り込むとはエストリア王国恐るべし。


 でも、そこまでして隠し整えていた場所を捨ててしまうのだろうか? エストリア王国の力を持ってしても瘴気は対応できないもの? それとも派閥争いがあって、瘴気を切り口として責め立てられ、別の場所で成人の儀を脈々と行われている?? ……確かめようがないか。


「芽吹!!」

「そ、促進魔法って凄いよね!」

「その話はだいぶ前じゃ、適当な返答をするでな〜〜〜い」

「肩を揺らすな、悪かったって。でも、それだけ凄い結界なら黒曜が洞窟いた時でも気がつきそうなもんだけどね」

「結界全盛期なら気づいたろうな。衣療樹に石畳の通路、共に結界としての効果がほぼ無くなくなっている」

「え、通路もガタがきてたの?」

「そうじゃ、通路はもって数ヶ月。じゃが衣療樹崩壊時の瘴気に耐えきれん」


 どうする、ソワ村長に伝えるべきか。いや、ソワ村長とアドニスさん、残っている村人達が全員逃げると決めた時でいいのかな……。


 愛しの借家が見えてきた。


「妾は少し寝る。子守唄代わりに工房で鍛治をしてくれぬか。音が出るので借家にいなくても気がつくじゃろ」

「はいよ、おやすみ」


 黒曜を寝床に下ろし工房に移動した。

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