第26話 鳴子鳴る
「あら、終わったのかしら?」
ソワ村長が、応接間に入ってくる。壁に掛けられている蝋燭に明かりを灯し、飲み物と主に黒曜が食べた金平糖を追加してくれた。
「物のついでだ。メブキ、ランタンの使い方手本を見せるぞ」
ランタンを受け取る時、魔力を送ればいいと軽く説明してもらったが、肝心の魔力の送り方を聞かなかったな。
《空間収納》からランタンを取り出して机の上に置く。
「物によって魔力を受ける場所は違うが、これは上部から受けるタイプだ」
ルレイさんがランタンの上部を包むように両手を広げる。
「魔力を送る方法は、ヘソの少し下に液体が溜まっているのをイメージして、ランタンにかざしている両手へ送り出す感じだ」
ランタンが灯りだした。
「ランタンには魔石が組み込まれている。魔力を送り続ければ魔石に魔力が蓄積されて、一定時間灯り続けるぞ」
ルレイさんがランタンから手を外すと、灯っていた光が弱くなりそして消えた。私も真似をしてランタンの上部を包むように両手を広げかざす。
「フッッ」
力を込めすぎたのか思わず声が漏れてしまった。……だがランタンに変化は見られない。
「むぅぅうぅ」
ルレイさんに教えてもらった通りに魔力を送り出す流れをイメージし続けていく。……頭から血の気が引くのを感じた頃、ようやくランタンがぼんやりと灯った。労力を考えると蝋燭でいい気もするけど……。でも、《万物流転》で出した小槌に魔力を纏わせた時は、意識しなくてもできたんだけどな〜。
「随分と新しいデザインのランタンじゃな、よく見せてもらえぬか」
いつの間にか目を覚ました黒曜は、ルレイさんからランタンを受け取り嬉々としていじりだす。その姿は見た目相応であり微笑ましさすら感じる。
そんな、黒曜を眺めながら追加された金平糖を一粒食べた。
「このお菓子甘くて美味しいですね」
「お口に合ってよかったです」
ソワ村長の笑顔に癒され、甘いお菓子を食べて気持ちが和んだ。
突然、鳴子がけたたましく鳴り響く。椅子に座っていたルレイさんは何も言わず、弾け飛ぶように部屋を出て行った。
二度、三度と鳴子は途切れる事なくなり続ける。
「……鳴りすぎですね、私も村の様子を見て来ます。メブキさん、この建物は他より頑丈にできております。戸締まりをして待っていてください。場合によっては」
ソワ村長が机の下の床を触れると、床の一部が音もなくスライドして地下へと続く階段が現れた。
「この地下で身を潜めていてください。緊急時用の食料も入ってますので」
そう言い残すとソワ村長は私が何か言葉を発する間も無く出て行ってしまった。
も、もしかしてフィル村が何者からの襲撃を受けている? 私も手伝いに行かねば。いや、戦力にならない。逆に足を引っ張ってしまう。
ソワ村長を始めフィル村の方々には、良くしてもらっているのに、いざという時は何もせず隠れているだけなんて……。
「芽吹、行かんのか?」
「何が起きたか気になる。でも、私では足手まといに……」
「おお、そうじゃった。今朝、妾をほっぽり遊びに出かけた奴がおってな、誠にけしからん。無性に外で暴れたい気分ぞ、誰か付き合ってくれる者はおらぬかの〜」
「……ありがとな」
黒曜の頭をワシャワシャする。
「子供扱いするでない!」
口では文句を言っているが、大人しく頭を撫でられているところを見ると、まんざらでもなさそうだ。尻尾も振っているし。
「よし、行こう!」
「芽吹よ、待て」
家から出ようと玄関の扉に手を伸ばしかけたが、黒曜に静止され振り返る。
「ん? どうした急に」
「いや、もうよい。行くぞ」
今のは何のやりとりだったんだ? いや、深くは考えるのはよそう。玄関の扉を開けると大きな猪の群れが目の前を走り去って行った。
「……頼りにしているよ」
空全体に厚い雲がかかり隙間からオレンジ色の光が漏れている。今夜は月明かりで行動するのは厳しくなりそうだ。日が落ちるまでに原因を追求して解決しないと。
翼を出し空を飛ぶ黒曜の後を追う形で、村内を走り回る。途中、何組かの村人達とすれ違った。村人は鍬や鎌など農具で武装しており、三人一組で行動をしていた。
「あそこじゃ」
黒曜が声を上げる。その先には、鎖帷子を身につけて片手剣とライトシールドを携えたアドニスさん。同じく鎖帷子を身につけ槍を持ったネイツさん。ルレイさんはいつもの服装だが、二本のナイフを腰に携えている。皆、武装していたが、ソワ村長だけはそのままの格好で来ており、特に武装していなかった。
ここで戦闘があったのか、複数の猪が転がっており特にルレイさんの足元には一際大きな猪がいた。
「《鑑定》」
〈 名 称 〉 ラッシュボア(ボス)
〈 分 類 〉 魔獣
〈 備 考 〉 突進力が高い
〈 強 さ 〉 ー
〈 稀 少 〉 Dランク
体長二メートルはあろうか? 牙も立派でとてもではないが対峙したくない。
「しばらく食料に困らなそうですね」
「この量ではフィレールだけでは処理が追いつかん。もう一人誰かが手伝わんといけなくなってくるな」
「それでしたら〜〜」
ひと段落したのだろう、アドニスさんとネイツさんが軽口を叩いている。
「メブキ、まだ魔獣が残っているかもしれん。建物の中で待ってろ」
「お心使いありがとうございます。ですが、黒曜が
「原因の一つだ。他の魔獣も侵入し、縦横無尽に村を駆け巡ったようだな。日暮れ前なのが幸して、今の所大きな人的被害の報告は無い」
「いや、次が本命じゃ」
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