第25話 質問会
◇
ソワ村長宅の応接間にて、私の質問会が開かれる事になった。
模擬戦の時、《空間収納》にしまっていたネクタイとスーツの上着を取り出して身につけ、椅子に腰を掛ける。あれ、冷静に考えれば村人達がいる前で《空間収納》を使った気がする。……いや、使ったよ。
折角ネイツさん達が気を利かせて隠してくれたのに、まさかこんな凡ミスをするとは……。これから質問会だし気持ちを切り替えよう……。
質問会に参加しているのは私と黒曜、それにルレイさんの三人。場所を提供してくれたソワ村長は不参加だ。
黒曜も始めは参加しないと言っていたが、「長時間話し合いになるでしょうから、飲み物にお菓子でも食べながら気軽に質問を〜」とのソワ村長の言葉を聞くや否や、参加すると言い出した。
そしてまさに今、飲み物とお菓子が私達へと配られた。木の小皿にはカラフルな色をした金平糖の様な物が十粒。黒曜は小さな手で一粒掴み、目をキラキラさせながら繁々と見ている。
「ルレイさん。色々お聞きしますが、宜しくお願いします」
「そんなに畏まるなよ。さて、メブキ。何を聞きたい?」
◇
初めにこの世界の貨幣について質問した。
四百年続いた戦争の後、全世界統一の新貨幣が発行された。その貨幣統一には竜族が関与している。
貨幣を統一する前に、それぞれの国や種族が使用していた独自の貨幣は旧貨幣となり、使用ができなくなるとお達しがあった。
それにより、旧貨幣は竜族が定めた交換レートの元で新貨幣へ変わっていった。既に交換期間は終了していて、旧貨幣は発行された時代が古いもの、芸術性の高いものなどの一部しか価値が無いそうだ。
統一され新しくなった貨幣の価値で、一番低いものは鉄屑で出来ている鉄貨。反対に一番高いものは大金貨だ。銅貨一枚があればパン一個が買え、安い宿屋に一泊するには大銅貨が五枚必要。新貨幣を日本円の価値で表すとおおよそこんな感じになる。
鉄貨 一枚 = 一円
大鉄貨 一枚 = 十円
銅貨 一枚 = 百円
大銅貨 一枚 = 千円
銀貨 一枚 = 一万円
大銀貨 一枚 = 十万円
金貨 一枚 = 百万円
大金貨 一枚 = 一千万円
ただ、フィル村内では貨幣は流通しておらず、物々交換をして暮らしている。貨幣は街へ買い出しに行く時に使う位なので、ソワ村長がまとめて管理しているそうだ。なので、あくまで一つの目安として考えて欲しいと言われた。
次に、この世界での私の職、防具職人について尋ねたらギルドの仕組みから教えてくれた。
世界三大ギルドと言われているのは冒険者ギルド、職人ギルド、商人ギルドだ。どのギルドでも言える事だがギルド内ではランクが設定されている。基本ランクが上るほど依頼内容は難しくなるが報酬は上がり、周りの見る目や評価も変わってくる。
冒険者ギルドのランク及びランクに対しての世間の認識はこんな感じだ。
冒険者ランク 世間の認識
Gランク = 初心者
Fランク = 新人冒険者
Eランク = 駆け出し冒険者
Dランク = 一人前の冒険者
Cランク = 手練れの冒険者
Bランク = 一流の冒険者
Aランク = 英雄
Sランク = 伝説の冒険者
ネイツさんはDランクで一人前、アドニスさんはCランクなので手練れの冒険者。そしてルレイさんもCランクだそうだ。
模擬戦で対戦したルレイさんの見立てでは、私はFランクとの事。べ、別に冒険者になりたかったわけでないのでいいんですけどね……。
職人ギルドのランクも冒険者ギルドとほぼ同じだ。
職人ランク 世間の認識
Gランク = 初心者
Fランク = 新人職人
Eランク = 駆け出し職人
Dランク = 一人前の職人
Cランク = 腕利きの職人
Bランク = 一流の職人
Aランク = 名匠
Sランク = 伝説の職人
因みに、私の防具職人はEランク。駆け出しの職人の位置にはいるが、現状ギルドに所属していないので自称Eランクとなる。
最後は商人ギルド。ここは少し特殊で色でランク付けされている。
商人ランク 世間の認識
赤色 = 駆け出し商人
銅色 = 腕利きの商人
銀色 = 豪商
金色 = 稀代の商人
商人ギルドは私が作った防具を卸すことになるだろうから、懇意にしていきたい。
職人と商人は各ギルドから発行される専用のカードにランクが記載され、冒険者は認識票付きネックレスにランクが記載される。三大ギルドのいずれかでランクが上がれば上がる程、多方面での融通が利く事も多くなるそうだ。
一方で戦後のどさくさに紛れてギルドが乱立されており、覇権を握ろうと躍起になっている所や、名ばかりの詐欺まがいの行為をしている所もあり、新設されたばかりのギルドに入会する時は注意が必要だ。
その中で、勢いがある新設ギルドは学舎ギルド。そこでは老若男女問わず無償で文字の読み書きを教えているそうだ。
……それって言い方が違うだけで、学校ってことだよね?
黒曜は、私とルレイさんが話しているのをそっちのけで金平糖を黙々と食べ続け、甘い! 美味い! と呟き終始ニコニコしていた。自分の分を食べ終えると私の皿をチラチラ見ていたので、そっと黒曜の前に移動させたよ……。
それも食べ終えた黒曜は、今度は椅子に座りながらウトウトしている。忙しいやつだ。ソワ村長が淹れてくれた飲み物は、どことなく懐かしい麦茶の味がした。
話の流れで自分や他の人のランクをどうやって知る事ができるかを聞いた。
スキル《鑑定》を用いれば、他の人のランクが分かる。だが《鑑定》は超レアスキルで使い手が少なく、スキルを使用する際に消費する魔力量も多いので多用は出来ない。その為、自分のランクを把握しているのは極々少数だった。
だが、今から約七年前(終戦の二年前)にドワーフ族がランクを測定できる装置を作り出す。
超レアスキル《鑑定》を所持していないものでもランクを見る事ができ、『部隊編成の効率化が測れより良い戦果を上げる事ができる』とのうたい文句で装置を破格の値段で売りに出し、ご丁寧に設置まで行った。
この画期的な装置の話は一気に広がり、一年で全世界に行き渡ったのではないか。と噂も出るほど爆発的に普及していった。それにより、ランクと言う言葉も一般化した。
余談だが、ランク装置は生きている状態で装置の計測部に触れていないと使えない。その為、暴れる魔獣や魔物を測定するのは難しく、従来通り《鑑定》スキル持ちが調べるか、既にランクが分かっている人の戦闘体験談で強さをランク付けしている。ただ、個体によってブレ幅があるので、あくまで目安にしておかないと痛い目を見る事になるそうだ。
最後の質問で戦争終結までのあらましを聞いた。
これに関しては推測や噂が入るが〜と、前置きしてからルレイさんが話し始めた。
今から約八年前(終戦の三年前)。長年静観をしていた竜族が、四百年続く終わりのなき戦争を嘆き、世界の全ての国、種族に向け戦争を終結をさせると宣言をし参戦した。
新たな超巨大勢力の参戦に、今まで戦争を優位に進めていた国や種族は団結を強め、徹底対抗の構えをみせた。が、竜族の圧倒的な力の前に戦意喪失。次々と白旗を上げさせ、わずか一年で世界の半分を制圧した。
そんな折、先程話に出たランク装置の登場によって、国や種族の部隊が強化され竜族の侵攻が一年以上止まってしまった。それにより、竜族の力を持ってしても終戦は不可能であると噂が流れ、終戦を望んでいた人々は絶望し、希望を潰したドワーフ族に恨みや憎悪を持つものも出てきた。
しかし、竜族も手をこまねいていたわけでは無い。古くから付き合いがある鬼神族やエルダーエルフ族、それと今現在でも公表はされていない二種族と連合を作るため裏で動いていた。
五連合が結成され再び侵攻が開始されると、まるで相手の戦力が分かっていたの如く、最適化された連合軍による快進撃が続いたそうだ。そして、わずか半年で世界の残りの半分を制圧し、全世界に向け四百年続いていた戦争がついに終戦した事を大々的に伝えた。
公表されていない二種族は、夜戦で大きな成果を上げ続けていた事から、吸血鬼族が絡んでいたのではないか? 戦場の至る所から歌が聞こえてきたからハーピー族では? などと幾つかの種族名が挙がりはしたが、どれも噂の域を出る事は無かった。
戦争が終結した一方で、世界で唯一の中立国と謳いながら武器は勿論の事、ランク装置の製造販売を行い戦争を拡大させた罪と称してドワーフ族を弾劾する者が後を絶たなかった。
ドワーフ族はひっそりと歴史から消えていき、彼らが作成した武器にランク装置だけが残ったそうだ。そしてランク装置は、一番有効活用出来るであろう冒険者ギルドが管理をおこなっている。
……ルレイさんのお陰で知りたかったことは事は一通り聞けたかな。
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