第24話 フィレールさん強し

《影法師》を召喚させる。


「おお!?」


 村人達が騒ぎ出した。……何故?


《影法師》に武器を出すように命じる。が、出す気配はしない。私が持っている木槍を渡すも不思議とすり抜けてしまう。


「武器は持てそうにないですね」

「そうか、あれだけ力があるにの勿体無いな」

「ルレイさん。先程の模擬戦でネイツさんが、かなり強烈な技繰り出していましたが、危なくないんですか?」

「ああ、それか。アドニスはCランクでネイツがDランク。油断しなければ怪我はしないさ」

「……そうですよね」

「メブキ、お前」

「メブキさ〜〜ん」


 フィレールさんの声だ。何故か黒曜を背負っていてこっちへ向かってくる。


「やっぱりここだったんですね! 予定より早く終わったから報告しに行ったんです。でも、返事がなくて……。家の中からうめき声が聞こえたので、勝手に入っちゃいました。そしたらコクヨウちゃん床でうずくまっていましたよ。こんな小さい子ほっぽり出して、ダメですよ!!」

「す、すいません」


 フィレールさんが背中から黒曜を下ろす。


「妾を置いて遊びに行くとはいい度胸しておるな」


 木の容器に入っている親指サイズ程の赤い実を食べながら、文句を言っている黒曜。


「その赤い実どうしたの?」


 黒曜の発言をあえてスルーし、疑問を投げかけた。


「あの娘から貰うた、なかなか可愛げがある奴じゃな」


 黒曜は赤い実を一粒、私にくれた。これは……木苺?


「フィレールさんだよ、お世話になったんだから名前覚えような」

「善処しよう。ほれ、肉の所へ行くぞ」


 この空気の読めなさ……いや、読んでいないのか? 流石に模擬戦中に抜けるのははばかれる。


「あーー、ネイツさんの武器壊れてる! お父さんがやったんでしょ、お母さんに怒られるよ!」


 フィレールさんに指摘され、アドニスさんが動揺している。そしてそれを聞いた私も動揺する。


「えっ??」


 側にいたルレイさんに疑問顔を向けた。


「ああ、言ってなかったな。アドニスと村長は夫婦でフィレールは二人の子だ」

「ええ!?」


 村に来て一番の驚きかもしれない!


「メブキさん、解体小屋には村長がいますので、受け取ってください」

「フィレールさんは?」

「このまま、畑を耕しに行きますので」

「一緒に行きます!」


 ネイツさんが明るく名乗りを上げた。


 はは〜ん、成る程。さっきルレイさんが言ってた事はこれね。解体小屋の件もあって今日はいつも以上に奮闘していたわけか。察せないほど鈍くはないぞ、青春を謳歌おうかしてこい!


 いかん、おっさん的な反応をしてしまった。


「はぁ〜。こんな空気だし、今日の模擬戦は終わりだな。アドニス! 俺はメブキ達と解体小屋に行くがお前はどうする?」

「通常業務をやる。ほら解散だ! 各自仕事に戻れ!」


 アドニスさんの一声で村人達が散っていった。


「芽吹」


 黒曜が両手を広げている。


「やはり、芽吹の背は格別じゃの」

「ここまで、フィレールさんに背負ってもらって、それはないんじゃないのか?」

「あれは例外である。その、何じゃ。……借家に戻ったら芽吹に話しておきたいことがある……」

「分かった、聞くよ」


 黒曜の声、いつになく真剣だったけど……どうしたんだろ。


 解体小屋が見えてきたがソワ村長は見当たらない。ルレイさんが解体小屋の扉をノックする。


「どうぞ」


 ソワ村長の声でルレイさんが中に入り私達も続く。あいも変わらず独特の臭いがするが、二回目なので多少は慣れてきた。


 作業台の上には肉や皮などが綺麗に並べて置いてある。


「お待ちしておりました。こちらのお肉は、メブキさんが希望されていた蛇肉になります。料理する量と保存方法はどうしますか?」


 思った以上に量が多い、しばらくは肉に困らなそうだな。


「全部塩で料理していただけますか」

「この量を塩蔵するとなりますと、かなりの塩が必要になりますので、すぐには用意する事が……」

「《空間収納》に入れれば腐らずに保存されるので、塩蔵は考えずに昨晩と同じ味付けで大丈夫です」

「その、申し上げ難いのですが《空間収納》に防腐効果があるのは聞いたことありません。保存効果があるアイテムはいくつか知っているのですが、どれも非常に高価でして……。それらとて一定期間しか保てません。メブキさんの言い方だと半永久的に効果があるように聞こえるのですが」

「えぇ……」

「メブキ、模擬戦の時もそうだが、お前は不自然な程に色々と知らなすぎる。一体どうした?」


 黒曜の時は向こうが《鑑定》スキルで私の事を見たので、スムーズに話をおこなうことが出来たが〜今回はどう説明したら……。


「ふふふ」


 背中にいる黒曜が笑いだす。


「〜が疑問に思うのも頷ける」

「ルレイさん」


 小声で黒曜に伝えた。


「ルレイが疑問に思うのも頷ける。ただ、芽吹では答えを持ち合わせぬので妾が代わりに答えよう。もっとも妾と芽吹の出会いからの話になるがな」


 黒曜が私の背中を叩いたので下ろした。


「芽吹と出会う前の妾は、山に籠り修行をしとった。その修行もひと段落をし里に降りている途中、山道で倒れていた芽吹を見つけたのじゃ。その時の芽吹は記憶がかなり混濁こんだくして、自身の名前すら思い出せない程でな……。面倒ごとに巻き込まれる気はさらさらないので放置するつもりじゃった。じゃが……本人を目の前に言うべき事ではないのだが、此奴の服装に打算を見出してな、護衛を買って出たのじゃ。もっとも……芽吹の服装、その価値。村長ならば分かると思うがな」


 黒曜の笑みで、ソワ村長の目が大きく見開かれた。


「話が少し逸れてしまったな。方々見てまわれば自然と記憶も思い出すのではと思い共に旅を始めた。狙い通り記憶を取り戻してはいったのじゃが……、思い出せたのは防具職人を目指していた事と使えるスキル程度。不思議と日常一般的なことは全く思い出せん。教えようにも妾も一般常識に疎くてな、ろくに芽吹に伝えられておらぬ。これも何かの縁じゃ、すまんが芽吹に教えてやってくれぬか」


 黒曜が村長とルレイさんに向け頭を下げた。


「それでか」


 ルレイさんは納得した様子だ。


 しかし、とっさの作り話うまいな。……いや、黒曜の事だ。遅かれ早かれ私が常識の壁にぶつかると想定していたんだろうな。


「メブキ、日常的なのはどの程度分からないんだ?」


 黒曜が頭を下げてまで作ってくれたこの機会……絶対無駄には出来ない。


「貸していただいたランタンへの魔力の送り方はおろか、貨幣の価値すら思い出せません」

「おま!?」

「そうだったですね。ルレイ、メブキさんに一般常識を教えてあげてくだい。勿論アドバイスも交えてあげて。ここで話すのも何ですので場所を変えましょう」

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