第23話 模擬戦
「ルレイさん、最後何があったんですか!?」
「どこまで見えた?」
「ネイツさんが右後方にステップした所までは……」
「ネイツはアドニスに距離を詰められるのを嫌がり《三段突き》を放った。素早く三回突く技だが、腰が引けていたとしてもある程度の威力は発揮できる。それをアドニスが一発目を体を捻り、二発目は木剣で受け流し。そして、三発目を突いてきた所で、盾を使い穂の側面を叩いた」
ルレイさんが、両手を使いながら丁寧に解説してくれる。
「三発目は木槍を吹き飛ばすつもりだったんだろうが……。その前の攻防でアドニスが柄の先を踏み付けた事とネイツが手を離さず踏ん張っちまった結果ーー木槍の穂が弾け飛んだ。まぁ《三段突き》なんざ練習すれば誰でも使える単純な技さ」
いやいや、練習しても使えないだろビジョンが全く見えんぞ。
「誰でもと言いますが、そういうルレイさんは使えないじゃないですか」
ネイツさんが、ルレイさんにツッコミを入れながらやってくる。
「いいんだよ俺は。戦闘がメインじゃないからな」
「あの……土を飛ばすのは有りなんですか?」
二人が顔を見合わせた後、笑い出した。
「メブキ、随分とお行儀がいいんだな。
「そうなんですか?」
「魔法職は妨害魔法使ってきて、物理職は使っちゃいけないなんておかしいだろ。それにあの程度の小細工を使えない奴、そして防げない奴は……死んじまうだけさ」
ルレイさんは一瞬悲しい顔を見せた。
「それよりも今日はどうした? やけに闘争心剥き出しだったが」
「そ、それは……」
ネイツさんが私を見る。
「は〜ヤダヤダ。若いっていいね〜〜」
え? え?? 今のルレイさんとネイツさんの掛け合いは一体なんだ? ルレイさんはすぐに察していたようだがーー分からないぞ。
「ルレイ、相手してもらえるか」
汗を吹きながらアドニスさんがやって来た。
連戦ですか!? あんなに激しい戦いの後なのに……体力、化け物だな。
「それなんだが、アドニス。メブキとやらせてくれ」
「「は?」」
私とアドニスさんの声がハモった。
何を言い出すんだ、この人は! あの動きを見た後で私が参戦? 無理無理、できるわけが無い。秒殺も良いところだ。ほら、観客の村人達も困惑して……ない!? ざわめきの中でも私に興味を示す声に視線を感じる。
……あぁ、知ってる。これ、やる流れになるぞ。
「ルレイ、それは笑えんぞ」
アドニスさんナイス! そのまま中止にさせて!! 二人の間で沈黙が訪れた。
「……分かった。気をつけろ」
ストッパー役のアドニスさんが折れたらもうダメだ。
「よし、メブキやるか!」
私と戦うことが決まり嬉しそうなルレイさんの顔! こっちは気が重いよ!!
「でだ、何の武器をメインで習った? それとも魔法か??」
「えっと……。何も習ってないです」
「は? 幼少時代何をしていた?」
え、なにそれ。この世界では必修科目なの!?
「それは……」
ゲームをしていました! なんて言っても通じないだろう。
「まあいい。なら一番オーソドックスな木剣で動きを見てみるか」
ルレイさんが私に木剣を渡してくる。受け取り右手で数度素振りをするが地味に重い。
「木剣なんて使ったこと無くて、加減できないですよ!」
「真剣しか使ったことないか? 全力で打ち込んできていいぞ」
スーツの上着を脱いでネクタイを外し《空間収納》にしまう。ワイシャツの第二ボタンも外した。
ルレイさんの両手には武器らしき物は見当たら無い。素手で戦うつもりなんだろうか? 戦闘タイプじゃないと言っていたが……。考えられる職業としてはモンクか?
剣なんてどう使ったらいいのか分からないんだが。……待てよ、もしかしたら閻魔様が私に内緒で凄い戦闘能力を授けてくれたかもしれない。そして、この模擬戦で私の戦闘能力が開花するかも!?
「では、行きます!」
少しワクワクしながら間合いを詰め、木剣を上から振り〜下ろす!! ルレイさんが左足を一歩前に出し、半身でかわす。私の腕は勢いが止まらず木剣が地面を叩きつけてしまった。
「グゥ」
手が痺れたが構わず薙ぎ払う! ルレイさんが半回転をして、私の背をタッチした。
「速すぎる!」
振り返ると、ルレイさんが手招きをしている。
「行きます!!」
木剣を上から下へ、左から右へ、更には突き。何度も見よう見まねで剣を振るうが全て空を舞う。手を伸ばせば届く範囲にいるのに触れる事すら許されない。
「くっ!」
思わず左手を出して、直接ルレイさんを掴もうとする。
「それは悪手だ」
ルレイさんの声が耳元で聞こえ、気づいた時には空を見ていた。
「……ぁ……」
大地に激突する前にルレイさんがお姫様抱っこをしてくれた。
「も、もう一度だけいいですか」
「そのやる気、いいぞ!」
先程の攻防で分かったことは、接近されると手も足も出ない。ならば! 遠い間合いからチクチクと攻撃を仕掛け……せめて! 一撃は入れてみせる!!
「ネイツさん、木槍貸していただけますか?」
ネイツさんが新しい木槍を持ってきてくれた。試しに振り回す。
……ダメだ、木剣より重くて力を入れても振り回されてしまう。それに、先程の攻防の疲れから握力も落ちている。これでは、時間をかけてチクチク攻撃は厳しいかも。……なら狙いすましからの、一撃必殺だな。
ルレイさんに対し左足を前にして半身に構え、木槍は大地と水平に……いや、しっくりこない。少し穂先を上げた。
木剣の時は力んでしまい大振りになっていた、力を抜け……深呼吸をしろ。
左手は軽く握り、相手の体の中心を捉えるよう動かすだけ。右手に全神経を集中させろ! 間合いに入ったら突くだけだ!! 自然と腰が落ちる。
「もういいか? 今度はこっちから行くぞ」
ルレイさんが、ゆっくり私の方に近づいてくる。慌てるな、慌てるな。
……ここだ!!
「《五連指弾》」
銀世界が広がった。
「イッッダーーー」
突然の激痛が全身を走る。何がおきた?? 痛みで立っている事ができない。
「ルレイ相手だからしょうがない」
「まあまあ、楽しめたぞ」
村人達から慰めの言葉が飛んできた。
「すまんメブキ、少し強く当ててしまった」
「何があったんですか?」
ちょっと、涙目になっているのがわかる。
「大した事はしてない。メブキの両肩と両太もも、それと額に親指で弾いた小石を当てただけだ」
大した事ありますよ、全然見えなかったです。
「小石なんていつ持っていたんですか? もしかして《五連指弾》って《三段突き》と似た技ですか?」
「小石か? ほら」
ルレイさんの手の中に小石が現れた。それも一個二個じゃなく片手に五個、両手で十個。指を動かすと小石それぞれが意思を持っているように自在に動いている。……ちょっとキモい。
「《五連指弾》は職業こそ違うが、《三段突き》の上位版と思っていい」
「上位版ですか。段数が多くなった分、威力は弱まるんですか?」
「さっきの岩を見てろ」
ルレイさんが、観戦時に寄り掛かっていた岩に向け《指弾》を使う。鈍い音がして小石が岩にめり込んだ。
「……マジですか」
「あれだ。メブキが戦うより、力のある《影法師》に戦わせた方がいいんじゃないか?」
私の戦闘力は皆無か……。世の中そんなに甘くないですよね、閻魔様。淡い希望だったな〜。
しかし、《影法師》を使って戦うか。防具職人としての手助けスキルで付与してもらったものだから、その発想は無かったなぁ。でも、私自身、武器を具現化する事は出来なかったけど《影法師》なら出せるのかな?
「ちょっと試してみます」
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