第20話 てん職のすすめ

「黒曜が獲ってきたのに、こんな事言うのあれなんだけど……。大物だと素材が手に入るみたいだから、家を借りている家賃代わりに譲ってもいいかな?」


 小声で黒曜に確認をとる。


「昼食べた蛇肉に有り付ければ、後はどうでもいいぞ」


 同じく小声で答えてくれた。


「ルレイさんこの二体を、家賃代わりにする事はできますか?」

「いいのか? それなりの価値がある獲物だぞ」

「はい。ただ、昼間に食べた蛇肉が美味しかったので、それだけは少し欲しいのですが」

「分かった、村長に確認をとる。しかし、《空間収納》に《鑑定》なんてスキル持っているとは……。両スキル共に非常〜〜〜に、稀少で汎用性が高い事は知っているだろ。人前でやたらめったらに使わんほうがいいぞ」


 え? そうなの? 閻魔様から授かった時は、一般的なスキルって言ってたような……。日常生活に不自由しない最低限のスキルだったかな? それって誰しもが持っているスキルって意味じゃないの!?


 困惑している私を見てか、ルレイさんのため息が聞こえた。


「《空間収納》の容量にもよるが、商人などが高額雇用で常時募集している。便利な反面、悪用する事もできるから場所を気にせず使うと、目を付けられて無理やり奴隷にさせられ死ぬまでこき使われるぞ。《鑑定》スキルは商人は勿論の事、貴族や王族からも雇用がある程に重宝されている。もちろん破格でな。なんてったって商品の良し悪しに物の真偽も見分けられる。それに個人の強さも《鑑定》によって簡単に見抜く事ができてしまうからな」


 ええ、《空間収納》人前で安易に使えないじゃん! それを見越して閻魔様は、魔法の小袋を渡してくれたのか? 《鑑定》も同様に使う時は注意をしていかないと……。


「メブキは、防具職人ではなく商人をやったほうがいいんじゃないか? ……いや、すまん。それは個人の自由だな悪かった気にしないでくれ」


 知らぬ間に商人としての道筋が出来ていたとは。でも……、


「アドバイスありがとうございます。ただ、私は防具職人を目指しておりますので」

「積荷の確認終わりました。帰りましょう。メブキさん、ルレイさんは口は悪いですがお節介焼きなので」

「ネイツ、余分なこというな!」


 ふふ。あの二人仲の良い先輩後輩って感じがするな。


「ルレイさん、今更ながらですが背負子ごと《空間収納》へしまいますよ」

「気持ちはありがたいが、色々と馬鹿らしくなってな。体を動かしたい気分だから大丈夫だ」

「そう……ですか?」


 行きと同じく先頭にルレイさん、その後ろに私と黒曜が続き、後方にネイツさんが歩いている。思わぬ収穫もあって心なしか全員足取りも軽い。ルレイさんは背負子に山盛りの端材を積んでいても体がブレることなく進んでいた。体幹強すぎでしょ。


 フィル村が見えてきた、帰りの道のりは分かっていたので行きより早く着いた気がする。


 先頭を歩いているルレイさんが進行方向を変えて、村の入口から二百メートルほど手前にある岩の横を経由してから村に入った。


「あれ、入口から入らないのですか?」

「ん? ああ。うちの村、柵が殆ど無いだろ。代わりにメブキが引っかかった罠を仕掛けてあってな、この時間帯は入口にも仕掛けてあるから、ここから入るしかないんだ」


 成る程、その目印としてこの岩か。防衛対策考えているんだな。


「《空間収納》に収まっている魔獣の事など村長に報告してきます。少し時間が掛かると思いますから、借家で待っていてください。準備が整いましたら呼びに行きます」


 ネイツさんがお辞儀をしてルレイさんと共に去っていく。時間かかると言ってたから、待っている間に水浴びでもするか。 


「ルレイさん達が呼びにくるまでの間に水浴びしようと思うけど、黒曜はどうする?」

「何じゃ、芽吹。妾の事洗ってくれるのか?」

「へ? えっ? あ、いや」

「冗談じゃよ、妾は寝ておる。何かあったら呼んどくれ」



「昨日、メブキを見張っていたが一晩中金属を叩き続けていた。そのまま仮眠もせず、お前達の誘いに乗って伐採に行くとはな……。馬を用意したとは言え、危険な囮役をやらせてすまなかった。それでメブキ達の動きはどうだった?」


「まずは、俺から報告させてもらう。メブキはあの空間の内部を知っていた」


「何だと!? どれほど知っていた?」


「遠目で見た、といった感じだったな。恐らくコクヨウの魔法で空から見たのだろうが……」


「コクヨウは浮遊系の魔法を使えるのか!?」


「ああ。それと残念な事に戦闘力は非常に高い。ごく短時間の間に単独でグレートベアにウインドスネークを仕留めて持ち帰ってきた。……しかも無傷で」


「装備を整えたお前達が一対一で互角の魔獣を二体もか!?」


「しかもその二体、私達の視界では気が付けない範囲に生息していました。コクヨウちゃんはそれを察知し狩りに行きましたので、魔法を使った探査能力も相当高いと思われます」


「なんだと!?」


「そして、メブキさんも総合的に戦闘力が高いと思われます。メブキさんは《影法師》と言う分身スキル、本人と同サイズの黒い物体を召喚するのですが、召喚した《影法師》は力があり丸太を軽々と運んでました。その力を鑑みて、……抑えるのに村人四、五人かがりになります。それと、その……何と言いますか《影法師》は見ているだけで、心がくすぐられる様な感覚が押し寄せます」


「お前も感じたのか! 得体のしれぬ物体だが、不思議と心がくすぐられる」


「……メブキにコクヨウの戦闘力は分かった。それ以外の情報は何かないか?」


「メブキは遠く離れた、平地出身とは分かったが」


「おお! それで出身はどこだ?」


「質問の仕方が刺々しくて、メブキさんが困ってたので話を切りました。でも、それで良かったと思います」


「どう言うことだ?」


「伐採地に着いた時にその件で話をしていましたら、コクヨウさんの爆発系魔法が暴発しまして、辺り一面吹き飛びました……。その時点で圧倒的な力の差を感じましたよ」


「すぐにメブキが謝罪にきたが……爆発自体偶然を装い、探るなと脅してきたのかもしれんな」


「それと、超レアスキルも持っていました」


「なんのスキルだ? 話を聞いているだけで疲れてきたぞ」


「《空間収納》と《鑑定》スキルですね」


「はぁ? 何を言ってるんだ! そのスキルがあれば防具職人なんてやらずとも十分食っていけるじゃないか」


「いえ、本当です。グレートベアとウインドスネークを《空間収納》に入れてまして……。この後、取り出してもらいますが大量の丸太も一緒に入れています」

  

「そんな巨大な容量の《空間収納》は聞いた事ないぞ!! 《鑑定》を使い商品を仕入れて《空間収納》で運搬費を抑え輸送できる。後は周りの顔色を窺える程度の能力があれば商人としての成功は間違いない。すぐにでも貴族、いや王族相手でも仕事依頼や引き抜きがくるレベルだぞ!!」


「それは、俺がメブキに言った。でも防具職人やりたいんだと」


「……メブキは馬鹿なのか?」


「馬鹿と言うより、世間知らずな坊ちゃんなんだろうな……。井戸水もまともに汲めんし、水質の確認しないまま水浴びも始めたぞ」


「そ、そうなのか? よく旅をして生きてこれたな」


「先程話に出ましたグレートベアとウインドスネークは、家賃代わりに譲って下さるそうです。ただ少しだけウインドスネークの肉を希望されてました」


「それでは、ほぼ二体をまるまる譲り受ける形になるじゃないか……」


「はい」


「はぁ……。どれ程価値があるか知らんのかメブキは……。解体小屋に持って行ってもらえ。……二人に聞くがメブキ達は白か?」


「あんな山賊がいてたまるか、無知すぎる。一応入口の偽情報をそれらしく話し、目の前で見せつけたが〜全く意味をなさなかったな」


「ですね」


「分かった、俺から村長に報告する。そして最終判断を委ねる」

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