第19話 熊と蛇

 改めて周りを見ると周囲の木々は黒曜の魔法で薙ぎ倒されていた。


「ルレイさん達は!?」


 慌てて二人がいた場所へ走り出す。


 ヤバイヤバイ、無事で……無事でいてくれーー!!


「大丈夫ですか!」


 二人とも怪我はなさそうで本当に良かった。が……あれだ。ルレイさんは立ったまま、ネイツさんは尻餅をついた様な格好で、ショックで魂が抜けてる様な放心状態になっている。


「い、今の爆発は一体?」

「あの……黒曜の魔法が暴発しまして……。本当に申し訳御座いません」


 地べたに頭をつける勢いで謝罪する。


「ごべんなざい」


《影法師》に首根っこを掴まれ、涙目で連れてこられた黒曜も一緒に謝罪をした。


「まあ、おかげで伐採する手間が無くなった。少し早いが昼休憩にするか」


 転がっている丸太の中で、比較的大きめで安定感のありそうな物に皆で腰をかける。


「足りなかったら言ってくれ。……おかわりはないがな」


 ルレイさんの何とも言えないギャクを聞かされながら、大きな葉に包まれているお弁当と皮の水筒を受け取った。この世界に暮らしている人が食べる食事だ、どんなものを食べているのだろう。む、でも待てよ……。


「黒曜、人の食事って食べられる?」


 小声で黒曜に耳打ちして確認する。


「多分問題ないじゃろ。逆に竜の時に食していたものが、食べられなくなっている可能性があるが〜。こればっかりは試してみんとなんとも」


 幼女の姿で竜が食べている食事しか出来ないのなら色々と大変だが、人の食事が食べれるのなら今後の旅も大丈夫そうだな。


 さて、何が出てくるかな〜〜。ワクワクしながら葉をめくる、円形に近い平べったいパンが一枚と小ぶりの肉が三切れ入っていた。パンはモチモチしてナンみたいで、肉は炭火で炙ってあるのか芳ばしい香りがしてくる。


 フォークや箸などの食器類は無い。ルレイさん達は、平べったいナンに肉を乗せ挟み食べている。私も真似をして挟み一口頬張る……。


 これは!? モチモチ食感がいい。それと肉に適度な塩味があって〜うまいぞこれ!!


「芽吹。美味いな」


 黒曜はいつ間にか食べ終え、目をキラキラさせて私をみている。……口元も油でキラキラにしているよ。


「私のも食べていいよ」

「一口しか食べてないではないか。しっかり食うのだ」


 そう言いながらも私のナンを受け取ろうと、黒曜は腕を伸ばし手を広げ尻尾をフリフリさせている。言動と行動がちぐはぐだぞ。


 ハンカチで黒曜の口周りを拭いていく。僅かに見えた八重歯は小さいながらも、人より鋭さがある。


「落ち着いて食べろよ」


 口周りを綺麗にした後、私のナンを手渡した。ニコニコ顔で食べるその姿は可愛らしく思わず頭を撫でたくなる。


「これ何の肉ですか? とても美味しかったです」

「お、気に入ったか。これは〜蛇肉だな!」


 へ? 蛇!? 最初に口にする肉はもう少し食べ慣れた物の方が良かった……いや、美味しかったけどね。



「のう、芽吹。あっちへ出かけて良いか?」


 食事を終えた黒曜は小さな池を指差した。いや、よく見たら少し濁っているから沼かもしれない。童心に返って水遊びでもしたいのかな?


「確認するからちょっと待ってね」


 午後の作業を打ち合わせしているルレイさんと、ネイツさんの所へ遠慮がちに近づいていく。


「どうした」

「お話中すいません。黒曜が池で遊びたがっているのですが、行かせてもいいですか?」


 ルレイさんは池をちらりと見て、


「そこまで離れてないから構わんぞ」

「ありがとうございます」


 戻ると、黒曜は早く出掛けたそうにソワソワしている。


「遊んできてもいいよ。ただし! 呼んだらすぐに戻ってくるんだよ」

「了解じゃ」


 黒曜は、飛ぶように池に向かっていった。


「待たせたな。午後の作業でメブキにしてもらいたのは、爆発で吹き飛んだ木の端材を集めることだ。適度の大きさのやつを頼む。それをネイツが背負子や馬に積み込みをして、終わったら村へ帰る」


 辺りを見回すと、木の端材は広範囲に散らばっていた。選別しながら一個一個集めるのは時間がかかり過ぎる、《影法師》を呼び出して一緒に作業させるか。



「これ以上は積みきれないので、残りはここに置いておきましょう」


《影法師》と共に木の端材を集め背負子や馬に積み込んで行ったが、量が異常に多く積みきれない。黒曜はどれだけ広範囲を爆破させたんだよ……。


「また次回、来た時に持って帰るようにします」

「それでしたら、私の《空間収納》に入れて全部持って帰りましょう」

「は? え? ……そうですか、《空間収納》お持ちなんですね。それと、メブキさん。先程も見かけましたが、側で動いているその黒い物体は……」

「これですか? これは《影法師》と言いまして、私の分身であり助手みたいなものですね。最近は、指示を出さずとも察して動いてくれるので非常に重宝しています」

「な、成る程。それは頼もしいですね」


 私の返答を聞いてネイツさんは、驚きながらも何故か優しい表情をした。


 待てよ、《空間収納》を使うのなら、丸太も持って帰れるんじゃないか? 《影法師》が私の意図を察し、大きな丸太を軽々と持ち上げ一箇所に集め始め出した。あいも変わらず力持ちで頼もしい。


 終わりも見えてきたし、そろそろ黒曜を呼び戻すかな。


「黒曜〜、もう少ししたら帰るから戻ってきてーー」


 反応が無い。


 あれ? 池の周辺には黒曜の姿は見えないぞ。まさか、足を取られて溺れ……いやそれは無いか。水辺で寝ているのかな?


「ちょっと、黒曜を呼んできます」


 ネイツさんに伝え、池の周りを回ってみるも黒曜の姿は無かった。どこ行ったんだ? 池に潜って〜はいないな、魚がゆったりと泳いでいるし。


「黒曜〜〜」

「何じゃー」


 返事は返ってきたが、肝心の姿は見えない。……上空から気配を感じ見上げると、黒曜と二つの物体が勢いよく池の水面に降り立った。 


「戻ったぞ」

「……マジか」

 

 結構な水飛沫みずしぶきがかかった。


 それよりも、体長二メートルを超えるであろう熊に、とぐろを巻いて長さわからないが、胴回りが私の太もも程ある蛇が黒曜の後ろで浮いている。


「黒曜……それは……」

「これか? どちらも、魔法の小袋に入らんかったぞ」


 そっか〜入らなかったかー。あのサイズなら仕方ないよね。て、違う!! 


「池で遊ぶんじゃなかったのかよ!」

「ん? 何をいっておる、妾が一言でもそういったかの?」


 黒曜がほくそ笑む。


 ぐぬ、思い込みで判断してしまった私が悪いですよ。


「ほら、そろそろ帰るよ」


 ルレイさん、ネイツさんがいる場所に戻ると、二人とも黒曜が狩ってきた獲物を見て固まってしまった。


「……おかえり、コクヨウちゃん。えーっと、その獲物はどうしたのかな?」

「二体が争っているのを察知してな、まとめて仕留めたのじゃ」


 ネイツさんの質問に黒曜は笑顔で答えた。


「蛇肉が美味かったからの、これでまた作れるじゃろ。大量に作ってくれ!」

「こ、ここでは作れないから村に戻ったらね」

「そうか、楽しみじゃ」


 二人が話してるかたわら《影法師》が集めてくれた大量の丸太を《空間収納》に入れていく。全部は入り切らないと思っていたけど……入ったよ。すんなりと……しかも、まだまだ入る気がする。《空間収納》の容量はどれ程あるんだ??


「黒曜、その二体もしまうよ」

「折角じゃから、《鑑定》もしておくのじゃよ」


 そうだね、使っていかないと練度上がらないよね。


「《鑑定》」


〈 名 称 〉 グレートベア


〈 分 類 〉 魔獣


〈 備 考 〉 爪が脅威


 へ〜グレートベアと言うのか。


 グレートベアを《鑑定》したら、体の中からジンワリとした暖かさを感じた。今のは? ……もしかして!?


「《ステータスオープン》」


【 名 前 】 メブキ・ソウジ(芽吹・宗治)

【 年 齢 】 十八

【 種 族 】 人

【 職 業 】 防具職人

【 スキル 】 慧眼・世界言語・空間収納・鑑定(小)・状態異常耐性(中)

【固有スキル】 影法師・万物流転・地への願い(一度のみ)

【 称 号 】 黒竜の雄叫びに耐えし者


 ぉおお!! 《鑑定スキル(微)》から《鑑定スキル(小)》へ変化している! どこが変わったんだ?


「《鑑定》」


〈 名 称 〉 グレートベア


〈 分 類 〉 魔獣


〈 備 考 〉 鋭い爪が脅威


〈 強 さ 〉 ー


〈 稀 少 〉 Dランク


 強さと稀少ランクの項目が追加されている。でも、強さの方は表示されていない……。私の《鑑定》スキルが低くいからまだ表示されないのかな? 備考は若干、詳細になっているから《鑑定》スキルをもっと上げれば、攻略本みたいに内容がどんどん詳しくなっていくのだろうな〜これは楽しみだ。


「《鑑定》」


〈 名 称 〉 ウインドスネーク


〈 分 類 〉 魔獣


〈 備 考 〉 素早い動きで翻弄させる


〈 強 さ 〉 ー


〈 稀 少 〉 C −ランク


 グレートベアよりウインドスネークの方が稀少価値が高いのか。

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