第15話 考察
◇
なんとか良好な状態でソワ村長宅を後にでき、工房に隣接する木造の借家に入った。
今日は肉体的にも精神的にも疲れたな……早く寝よう。因みに、黒曜はコチ茶を一口飲み、露骨に顔に出した後、コップをそっと机の上に戻していた。
寝室には寝床が二つあったので、片方に入りゴロゴロする。寝る場所が地面で無いだけでなんてありがたいんだ、自然に顔が綻ぶ。目を瞑り寝かけたのだが気になる事が浮かんできた。
「黒曜、村の入口にあった鳴子の罠って、どんな仕掛けだったか分かる?」
「見えにくくされた糸が張られておった。無論、柵の隙間にもあったぞ。それらに触れたら鳴子が鳴る仕掛けじゃな」
「そうだったのか……。ソワ村長と対面した時、黒曜の事見つめていたけど正体がバレたのかな?」
「あの村長、それなりの魔力を持っているが、そこまでは見抜けぬよ。単に妾から、ただならぬ魔力を感じっとった程度じゃろ。しかし、この村……。面白い事が起きそうじゃな」
何その、悪巧みをしている顔。私としては一息つきたいからフラグが立つようなことはやめてほしいな。
「あと重要な事を聞きたいんだけど、ここの世界の貨幣価値って……知らないよね?」
「すまぬな、物を買う行為をした事が無いので分からぬ」
「ですよね〜」
フィル村に滞在中に、村人と交流を図って自然な流れで一般常識を聞き出し、合間合間の時間で防具職人の腕を磨く。
あれ? 冷静に考えたら、こっちの世界も忙しくて休まらないんじゃ……しかも課題盛りだくさんだ。
◇
蝋燭の明かりの中、二人の会話が進んでいく。
「あら? ……コチ茶、濃く出しすぎよ! こんなの飲ますなんて、嫌がらせをしてきたと思われたかもしれないわ! だからメブキさんあんなに震えながら飲んでたのね……」
「し、仕方ないだろ。コチ茶は入れた事無い。と、言う前に応接間へ行ってしまったんだから。それより、何故メブキ達を受け入れた? これでは意味がないじゃないか。自身で言い出したことだろブレては困る」
「今話をした感じを含めメブキさんの事どう思います?」
「そうだな……。メブキ達を工房に残した時に話した内容と若干重複するが、村の入口からここまでの挙動で怪しい動きは見受けられなかった。現状、山賊の斥候などの可能性は高くは無い」
「そうね」
「メブキの服は仕立てがいい。……推測をするに貴族の家に生まれはしたものの跡目を継ぐ事ができず、職人道具を出す変わったスキルで生計を立てるために旅に出た。と、いったところだな。だが、あの稚拙な腕……まずどこかの工房に弟子入りをして基礎を学び、その後で腕磨きの旅に出るべきだ。物事の順序が分かっていない」
「あら、直してもらった割に随分と手厳しい事をいうのね」
「事実を言ったまでだ。一番の問題は危機感がなさすぎる、あれでよくここまで生きて来れたものだよ」
「では、連れのあの方はどの様な立場と考えます?」
「そこだ! 答えが出ない。メブキは護衛の魔法使いと言っているが、あの歳ではとてもじゃないが考えられん。コクヨウも仕立ての良い服を着ているから、政略結婚と考えもしたが、それならば二人だけでこの様な辺境の地に来るはずがない。旅の途中で出会い共にいる。と、考えもしたが……正直分からん」
「ふふふ。奇妙な組み合わせですよね。分かった点は、あの方はとても強大な魔力を秘めている。護衛としては過剰な程に……。以前お話ししましたわよね、危機を察知すると触覚が逆立つと。いまだにおさまらずにいるわ。メブキさんの危機感の無さは……考えられない事だけど、大きな争いが無かった何処か平穏な場所で育ってきたからじゃないかしら?」
「何をバカな……と、言いたいが勘は種族的なのか、外れた事が無いからな……。ちょっと話を付けてくる」
「武器を持って何処行くつもり!? 待って! 落ち着いて!! それならば、あの二人が目立つ格好、組み合わせで来るわけないでしょ! それに何年来てないと思っているの。……今更くるわけ……ない……の」
「そ、それもそうだな。しかし素性が全くわからん」
「でしたら、二人の動向を見守りましょう。そして、村人達には好意的に接するよう伝え、こちらから危害を加える様な事はしてはいけないとも」
「は? 何を言い出すんだ! 一般的な魔法使いならまだわかるが、危険視する発言をしておいて、野放しにできるわけなかろう。今日の行動に発言は支離滅裂すぎるぞ」
「そうね、あの魔力を浴びて少しおかしくなっていたのかもしれないわ。ただ敵対行動だけは絶対にしないでお願い!」
「……分かった。だが、数日は昼夜問わず監視を付けさせるからな」
「それとは別に村の警備の強化をさせて。あの方に怪我を負わす強大な存在が近くにいるかもしれないから。明日、それとなく聞き出してみるわ」
男が部屋を出て行った。
「あの方の服、繊維を一切使ってない魔力の塊。そしてメブキさんの服は、見た事の無い素材でしたわ、ロストテクノロジー? いえ……近未来の素材と考えた方がロマンがあるかしら……」
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