第12話 最悪な第一印象
村入口の門は木で作られている。門の左右には木の柵が伸びているが、穴だらけで役目を果たしているとは言い難い。ボロボロで、お世辞にも良い状態とは言えなかった。
門番はおらず、辺りを見回しても人の気配すら感じられない。ここは廃墟の村か? と、思ったが黒曜がわざわざ行くと言った場所だ、それはないだろう。
「黒曜起きて、村に着いたよ」
「ん? あぁ。芽吹の背中、乗り心地よかったぞ」
のんきに感想を言ってくる黒曜。
「どなたかいませんかー」
……反応がない。
もっと声を張り上げれば反応があるかもしれないけど、これ以上は上空から落下した体に響く。というか既に響いて痛い。もう少し近づいて中の様子を見てみるか。
「待て!!」
「ん?」
黒曜が私を静止させようと声を掛けるが、既に遅く門から村に足を踏み入れてしまっていた。
え? え?? この大きな音は侵入者を知らせる音だよな。……侵入者は……私!? どうしよう。村人が駆けつけてくる前に走って逃げるか? ……いや、だめだ。この怪我じゃ早く走れないし、逃げている時に捕まったらそれこそ言い訳できない。
「そうか、見えなかったのだな」
どう行動しようか……。とりあえず、落ち着け!
そうこう考えているうちに、村の中から男が三人武器を持って走ってきた。武器と言っても一人が剣で、他二人は農具の鎌と
剣を持った男はがっしりとした体つきをしていて、整えられた顎髭の三十代中盤位。鎌を持った男は高身長の細身で、引き締まった体つきをした同じく三十代中盤。冷ややかな目で私を見ている。鍬を持った男は少し背の高いイケメンで十代後半位だろう。
三人の男に睨まれ、抵抗の意志はないぞと片手を上げる。
「何しにここへ来たのですか!」
鍬を持った男が警戒心をあらわに質問してきた。これは答えるしかない。
「私は防具職人をやっている芽吹と申します。職人としての腕を磨くために旅をしており、道中にこの村を見かけたもので寄らせていただきました。少しの間、滞在させていただけないでしょうか。背中にいるのは、私の護衛で魔法使いの黒曜です」
「有鱗族の魔法使いとは珍しいな……だがその歳で護衛? 何をバカな事を言っている! それにこの様な
鍬の男では無く、鎌を持った男がヒートアップして怒鳴ってきた。
「その薄汚れた格好は奴隷の服だろう? 持ち主の追手から逃れる為に嘘を言っているんじゃないのか?」
鎌を持った男が挑発混じりに問いただしてくる。鳴子を鳴らしてしまったことに加えて、奴隷呼ばわりと立て続けに想定外の事が起こり頭がパニックになりかける。どうすれば敵意が無いと分かってもらえる? 沈黙は悪手だと分かっているのだが……。
「まあ待て。私はこの村の警備を担当しているアドニスだ」
返答に困っていると、剣を持っている男が助け舟を出してくれた。
「メブキさんは防具職人と言っていたね。そろそろ、修理に出そうと思っていた防具があってね、村にきたばかりで悪いのだが見てくれないかな?」
いきなり防具職人として依頼が舞い込んできた。どこかの工房で経験を積んでからと考えていたのだが、どうしよう……。でも、ここで断ったら村には入れないよな。そうなると返答は一つしかない。
「分かりました。まだ見習いの身ゆえ出来ることは限られますが、精一杯やらせて頂きます」
私が答えると、アドニスさんが鎌と鍬を持っている男に目で合図を送り、二人が頷いた。
「こっちだ、付いてきてくれ」
村の中を柵沿いに進んで行く、先頭を歩くのはアドニスさん。背中に丸盾を背負い、腰に剣を差している。後ろを振り返ると鍬を持った男もついてきているので、黒曜をおぶっている私は二人の間に挟まれている感じだ。鎌を持った男は門に寄りかかっている。
「黒曜、体の調子はどう?」
「少し休んだおかげで、だいぶ回復できたぞ。夜にはいつもと同じ様に動けるな」
「それは良かった」
黒曜の回復早すぎじゃない? こっちは四、五日はかかるだろうな〜。
古めかしい石造の建物の前で、先頭を歩いていたアドニスさんが足を止める。
「この中だ」
ここに来るまでの間、幾つかの建物を見かけたけど、どれも年季の入った木造だった。ここだけ石造りの建物か……。
アドニスさんが石造の建物に入っていく。
「芽吹、もう大丈夫じゃ」
黒曜を背中から下ろし一緒に建物へ入る。中は薄暗くどうなっているか良く見えない。鍬の男はついて来る気配がないので、建物の入口で待機しているのだろう。
室内で何かが開く音がした。
「……おお!!」
アドニスさんが窓を一箇所開けると、部屋は一気に明るくなった。
まさか、この村に工房があるとは! 床板は張られてなく、凹凸の無い整えられた土の地面。部屋の左奥に
ここでどんな防具に武器が生み出されてきたんだろうか? 室内に充満している独特の金属臭が私の鼻を通して肺に入り、燃料の様に心を燃え上がらせ興奮させる!
ただ、しばらく使われていなかった様で道具は埃をかぶっていた。
「なんだ、まじまじと見て。防具職人なのにそんなに珍しいのか? 直してもらたいのはこれだ」
憧れていた工房を目の当たりにし、つい置かれている立場を忘れて部屋をウロウロしてしまった。
アドニスさんは背負っていた丸盾を、笑顔で私に渡そうとしている。ただ、張り付いた感じの笑顔。この感覚どこかで……。
思い出した!!
昔、不正監査室の連中が私の在籍していた部署に聞き込みにきた時と感じが似ているんだ。表面上は笑顔だけれど不正に関わった奴、皆処分してやるから覚悟しろ! と、強い意志を持ち探り出そうとする顔。それと同じ感覚だ。
私から言わせてもらえれば、それと同じ熱量で私利私欲の為にパワハラをしている奴も調査し、処分しろと強く言いたい!
っと、話が逸れてしまった。私が疑われている、何故? ……山賊としてか? 思えば、入口に人を残したのは私が山賊の斥候である可能性を考慮してだろう。建物の外にも人を残したのは、村の内部を見た私を万が一にも逃さない為か!
……防具職人として腕前を披露して証明するしかない。けれど職人のランクはEランクだ。どれ程の事ができる? いや、弱気になるな私! もう後には引けない。ぶっつけ本番でもやるしかない!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます