第11話 初めての仲間

 黒曜がそう言うとボロボロの服装が一瞬で黒地で光沢のあるローブ姿に変化をした。そして私に見せつけるように一回転する。


 一瞬見えた服の内側には、赤色の細かな文字の様な物がびっしりと書き込まれていた。そして背中には大きな閉ざされた目が一つ。白色ペンキにハケを使い描いた様な、独特のタッチとテカリ方をしている。


「あの黒曜さん……その服装は……」

「以前、妾の所に来た者が着ていた服装を模したのじゃ。これを着ていたものは、妾と同じ闇属性を使い手でな、特に死霊使いとして特化しておった。背にある目が開かれた時に召喚された死霊は〜」

「ごめん! ちょっと話ストップで!!」


 そうですよね、異世界ですから幽霊位いるんですよね。……幽霊いるのか。


「どうしたんじゃ話を止めて? その後に続く血の涙を出した時など盛り上がるぞ」

「ホラーの話……。いえ、そのお姿でその服装はちょっと」

「ふむ。ならばこれはどうかの? ゴツくて妾の好みでは無いが」


 黒地で光沢のあるローブ姿から、盾職が装備する無骨で重厚感溢れる紺色の鎧姿に変わった。


「この鎧を着ていた者は、妾をも唸らせるほどの鉄壁さを誇っておった。ただ、残念な事に仲間の火力が低くてな。あまり楽しむ事は出来なかったぞ」


 もしかして黒曜の所に来た者達って……。いや、深くは考えるのはよそう、世の中知らない方が良い事もある。


「何じゃ、そんな顔して。まぁ、芽吹はの言いたい事は何となくわかる。だが、心配らん。妾を誰と心える! 妾はこ、黒竜、じゃ……ぞ……」


 あ、後半声が小さくなった。傷をえぐってごめんね……。


「まず、うちら二人の関係性を決めて、それに合わせた服装をしようか。それが終わったら人里に下りよう」


 ん〜〜設定、設定どうしようかなあ。黒曜が幼女の姿だから、戦火で離れ離れになった黒曜の両親を探す旅? もしくは、二人が安住の地を求めての放浪旅とか! ……う〜ん。


「防具職人の修行旅に、一流の魔法使いが護衛としてついている。で、いいじゃろ」

「え、世間一般的にはそれで通るの?」

「大丈夫じゃ。妾の所には幼い見た目とは裏腹に、そこそこの魔法を使える者が何度か来たことあるしの」


 それなら〜〜、平気か……な?


「黒曜の所に来た魔法使いの服装を、覚えている範囲でいくつか見せてもらえないかな? その中から似合いそうなのを私が選ぶよ!」

「おお、そうか! そうじゃの〜」


 そこからは黒曜のファッションショーが始まった。約三十回ほど着替えてコーデを見せてもらい、特徴的なマークが入った服装や奇抜なデザインは、候補から外していった。

 着替えたうちの半数は、魔法使いとは思えぬ原色をメインとした色合いを使っていて、この世界の魔法使いは目立ちやがりなのか? と思う程だった。


 最終的に採用した服装は、裾に金色の糸で刺繍されている黒のローブ。無難すぎるチョイスだ。それと黒曜の希望で帽子はかぶらずに、金色の三日月型の髪飾りを左耳の上辺りにつけている。


「地味じゃな」

「そうかな? 杖を持てば私がイメージする魔法使いになるし、何より似合っているよ」


 似合っているの一言で、少し嬉しそうにして自分の服装を見ている。一方、私はスーツ姿のままでいく事にした。……替えが無いからね。


「黒曜、荷物を入れられる袋は持っている?」

「持っておらぬな」

「なら、魔法の小袋あげる。この中に冥現の珠を入れなよ」

「芽吹……大切に使わせてもらうぞ。そうじゃ、折角なので洞窟に置いてある目ぼしいものもいくつか持って行く。しばしここで待っていてもらえぬか?」

「手伝おうか?」

「趣味で集めたのが大多数じゃから、見られるのはちと恥ずかしいの」


 ああ、成る程ね。秘蔵のコレクションは、見られたくないよね。分かるよ!!


「ならここで待っているよ」

「すまんの、すぐ戻るぞ」



「すまぬ、遅くなった」


 思った以上に待ったけど、そんなウキウキ顔で帰ってこられたら何も言えない……。幼女の見た目ってずるいな〜。


「じゃあ、行こうか」


 黒曜と共に出口へ向かう。洞窟で過ごした時間は短かったが、私にとって忘れる事の出来ない場所になった。


「これから向かう人里は、洞窟の反対側にある小さな村じゃ。本当はもっと人が多い所が良いのじゃが、この姿に慣れてなく、どこまで行けるかわからぬからな」


 近くに湖があった村か。


「そこに立って、力を抜くが良い」


 洞窟の出口で指定された場所に立ち力を抜いた。黒曜の手が私の肩を掴むと、地面から足が離れ体が中に浮き出した。首を上げると黒曜の背中から漆黒の翼が生えている。


「背中から翼が出ているだけど!」

「何を驚いておる? 翼は始めから背中にあったぞ。服に隠れて見えてなかっただけじゃ」


 幼女に肩を掴まれながら空の旅をする。飛行速度は竜の姿と比べると遅いが、その分のんびりと景色を楽しめた。竜の時もそうだったが、翼はほぼ動いていないのにもかかわらず、自由に空を飛んでいる。何とも不思議な光景だ。


「羽ばたきもせずに、どうやって空を飛んでいるの?」

「翼に薄い魔力の層を纏わせ飛んでいるのじゃ。左右への移動も魔力を流れを少し変えれば簡単にできるぞ」


 簡単、簡単ね……。



 眼下に村が見えてきた。


「め、芽吹……」

「ん? どうしたの」


 心なしか、黒曜の声が震えている。


「新たな発見の報告と、すぐ伝えねばならぬ報告。どっちから聞きたい?」


 やめろ! なんでそんな声色で不安になる様な言い方をするんだ!


「えーっと、じゃあすぐの方からお願いしようかな……」

「もうじき魔力切れる。不時着するぞ」


 それって墜落するって事ですよね?


「あ、新たな発見は?」

「まだこの姿に馴染めておらず、魔力消費率が悪すぎる、改善すべき問題を知った。今回の直接の原因は服装を何種類も見せ無駄に魔力消費してしまった事じゃな」


 黒曜はうんうんと頷いているが、その間も大地がゆっくりと近づいてくる。


「……もう、限界じゃ……」


 黒曜がそう呟くと、体が無重力になり地面が猛スピードで近づいてくる。な、何かできる事はーー墜落を回避する方法はーーー! ……無い。


 ぶ、ぶつかる! 思わず目を瞑った。


 全身に強い衝撃と口から空気がやな音をたて出ていった。が、なんとか生きている。


「黒曜ー無事かーー!」


 ……返事は無い。すぐにでも探しに行きたいが体は動かず、視界もチカチカする。



 何とか体を動かせるまでに回復はしたが、動かすと痛みが出てくる。本音を言うと寝転がってたい。だけど、そんな事は言ってられない。黒曜の安否が気になる。


 少し離れた場所で黒曜が倒れていた。けど、ピクリとも動いていない。


「う、嘘だろ!?」


 慌てて駆け寄り抱き起こす。


「黒曜!!」

「……すまぬ芽吹。魔力切れで動けぬ」


 薄目を開け、小声で反応をしてくれた。血こそ出ていないものの、黒曜の体にはいくつかの擦り傷に打撲痕があった。


「体は大丈夫か?」

「痛みはあるが問題はない。最もここまでの痛みは久々じゃがな」


 弱々しい反応だが、会話をする余裕はある。よかった。


「村までおぶっていくよ」

「そ、そうか? 何じゃか照れるの」

「え? 何を今更」


 何故か胸を叩かれた。


 黒曜をおぶり、道なき道を進んでいく。この辺りは木がまばらで、背の高い植物も無い。足首程の高さの植物がポツポツとある程度で見通しが非常にいい。人や獣が居たとしてもすぐに気づけそうだ。


 待てよ、……山賊がいる可能性もあるよな。襲われたらとてもじゃないが逃げられない。村に着くまで、出会わない事を祈るしかない。



 全身が痛い、足が重い疲れた……。どれ程歩いただろうか? 今だに村は見えない。


 道はこっちであっているのかな。落ちた時に方向を見失ってしまったのではないかと、不安が胸の中で大きくなっていく。


「芽吹の背広いな」


 続けて背中越しに寝息が聞こえてきた。もしかして、今のは寝言……? 


「ふぅ〜〜〜」


 黒曜の寝言で気持ちが落ち着いた。


 改めて周りの景色を見てから、上から見下ろしていた景色を思い浮かべる。……方向は合ってるはずだ。気持ちを新たに足を進めて行く。


 日が傾きかけた頃、ようやく村の入口らしきものが見えてきた。

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