第9話 白と黒


「黒いのを召喚するね」


 頭の中で念じると、地面から黒い人型がゆっくりと出てきた。色が白色から黒色に変わっている。それ以外には外見的変化はみられないが、何となく前よりも頼もしさを感じた。


 黒いのを見て、脳裏に影法師という言葉が思い浮かんだ。浮かんだと同時に体の中から暖かさを感じて、反射的に言葉を発した。


「《ステータスオープン》」


【 名 前 】 メブキ・ソウジ(芽吹・宗治)

【 年 齢 】 十八

【 種 族 】 人

【 職 業 】 防具職人

【 スキル 】 慧眼・世界言語・空間収納・鑑定(微)・状態異常耐性(中)

【固有スキル】 影法師・万物流転・地への願い(一度のみ)

【 称 号 】 黒竜の雄叫びに耐えし者


「《無垢の者》から《影法師》に名前が変わっている!!」

「なんたる、なんたる事か……。《無垢の者》が妾の魔力を吸収してスキルの能力が上がってしまった。妾という不純物が混じり込んだせいで、多岐にわたる可能性の多くが潰えてしまった……」


 黒竜は顔を青くして、膝から崩れ落ちた。


「動かしてみると良い」


 黒竜に言われて《影法師》の歩行性能を試すと、以前のヨチヨチ歩きではなくしっかりと歩けている。更には速いとは言えないが走ることさえできた。一方、力はあるようで一抱えもある岩を軽々と持ち上げている。


 私を中心とした半径三メートルの範囲なら何処にでも召喚でき、一度呼び出しさえすればある程度離れても消えることはなさそうだ。格段に性能が向上している。


「うむ〜、妾の魔力を大部分絞り取った割にはパッとせぬな。目を引くところといえば、闇耐性完全無効か」


《影法師》の動きを見て立ち直ったのか、黒竜が話しかけてきた。


 最初から比べればすごく高性能になってると思うんだけどなあ。それよりも召喚している本人より詳しいってどうなの……。


「成る程、今の妾では手が出ぬわけだ……。食事にでもするか、色々あって遅くなてしもうたしな」


 黒竜が岩陰へ行き私を手招きする。


「この二つはお主の為にとって来た」


 地面に桃とオークが置いてあった。でも桃が以前とは違う色をしていて、黄金色に輝いている。


「《鑑定》」


〈 名 称 〉 千年桃


〈 分 類 〉 果実


〈 備 考 〉 奇跡の果実


「ふふ、凄いじゃろ。千年桃は妾でも滅多にお目にかかれないものじゃぞ! それとじゃが……今の妾の魔力ではオークの解体はちときついな」


 オークも《鑑定》をする。


「《鑑定》」


〈 名 称 〉 オークエンペラー


〈 分 類 〉 魔物


〈 備 考 〉 王を従えし者


 普通に考えれば凄い魔物なのだろうが、その前に見たゴーレムやらキマイラのおかげで耐性がついたのか、そこまで驚かなかった。

 オークエンペラーは、三メートル程の大きさはある。全身に装飾品をゴチャゴチャと身に付けており、高そうなものも見受けられる。腰には戦利品として剥ぎ取ったのだろうか? 認識票が大量についている。


「この認識票って元々誰かが身につけていたんだよね。見つけたらどうしているの?」

「さあな、妾は知らぬ」


 聞いといてあれだけど、確かに竜は認識票を身につけないか。


「認識票、貰ってもいい?」

「好きにするが良い」


 街に持って行けば引き取り場所があるかもしれない。


「ひとまず、オークエンペラーと昨日のクリスタルゴーレムを、まとめて《空間収納》にしまっておくよ」


 ……そう言えば閻魔様がこっちの世界に来る時、渡してくれた物があったな。《空間収納》から魔法の小袋を取り出す。


「何じゃ、その袋は」

「この巾着袋……もとい。魔法の小袋を餞別として貰ったんだけど、すっかり忘れていたよ。中にアイテムも入っているから見てみようと思ってね」

「妾も見ても良いかの?」

「もちろん、一緒にみよう」


 何が入っているのだろう、ワクワクしながら魔法の小袋に手を入れる。


「四点入っているね」


 一つ目は……これは紙? 二つ折りにされた手紙を取り出す。


「なんて書いておるんじゃ〜」


 立って手紙を読んでいる側で、黒竜が私の足元をウロウロしている。手紙の内容的に見られても全く問題ないな。


「ほら」


 黒竜が見やすように、膝を折り曲げ文面を見せる。


「ふむ。見たことの無い文字で読めぬ、何て書いておるんじゃ」

「ん〜と。『《ステータスオープン》では表示されてないけど、芽吹が職人としてやっていくのに必要なスキル全般をEランクで授けたよ。Dランクに上がったら表示される様になるから精進してね』だって。Eランクって何??」

「ランクとは指標じゃな、Gランクから始まり最高位がSSランクじゃの」


 下から三番目か、それならば職人として最低限の事は出来る感じなのかな?


 ただ、この手紙は閻魔様が書いたんだろうか。……少ししかお話ししてないけれど、こんな砕けた感じだったっけ? 別の誰かが書いて魔法の小袋に入れたとかもありえるか。


「む!」


 黒竜の声で我に返ると、手に持っていた手紙が白い光の粒となり消えていった。


 手紙を書いてくれた方、情報ありがとうございます。


「次の見てみようか」


 再び、魔法の小袋に手を入れる。


「これは〜金属だね」


 金属を魔法の小袋から取り出した瞬間、手から滑り落ち地面に鈍い音を立てた。


「あぶな!」


 魔法の小袋に入っていた物が、丸々出てくると出ると本来の重さ取り戻すのか……。今後は取り出し方を意識しないとな。


 本当に足の上に落ちなくて良かった。

 

「《鑑定》」


〈 名 称 〉 鉄のインゴット


〈 分 類 〉 金属


〈 備 考 〉 需要が高い


 当たり障りのないコメントが、この世界でも馴染みのある金属だということを物語っている。黒竜の反応も全くない。


「三つ目も金属〜」


 先程の失敗を活かし、慎重に取り出して地面に置いた。


「《鑑定》」


〈 名 称 〉 金のインゴット


〈 分 類 〉 金属


〈 備 考 〉 価値がある


「すごく綺麗なんだな……金のインゴットって」


 元の世界だったら生涯見ることすら叶わなかっただろう。


「ほう。かなりの純度じゃな、これ程のはまずお目にかかれん」

「見ただけで分かるの?」

「昔、光る物を沢山集めてたからな、この程度なら《鑑定》を使わずとも分かる。しかし……種族としての性か、少し血がうずく」


 え、なに急に……。というか、光る物を集めるってカラスじゃないだから。


 金のインゴットは、鉄のインゴットと比べると半分程の大きさ。でも重さは同じ位か、金って重いんだな。……待てよ。冷静に考えたら、今凄くお金持ちなんじゃ。もしかして第二の人生、イージーモードでスタートしちゃったか?


「お主、どうした? ニヤニヤして」

「ごめん、ちょっと余計なことを考えてた。最後のこれは〜真珠かな?」

「ほう、真珠とな。質によっては貴重な物じゃな」


 魔法の小袋から取り出した瞬間、黒竜が息を呑むのが分かった。陰陽のデザインをしたピンポン球くらいの大きさの珠だ。


「そんな……いや、まさか……」


 黒竜が目を見開き、呟いている。


「《鑑定》」


〈 名 称 〉 冥現めいげんの珠


〈 分 類 〉 判別不能


〈 備 考 〉 価値は計り知れない


 ……判別不能、そんな表記もされるんだな。備考に書かれているコメントを読む限りでは、千年桃とどちらが価値が高いのか分からない。ただ、黒竜の発言を見る限り冥現の珠の方が……。


 黒竜はこの珠に釘付けになっている。珠を大きく左右に動かすと一緒になって幼女の顔も左右に動き、少し可愛い。


 どうしよう、この冥現の珠に相当の価値があるのは分かったが、私では有効活用できる気が微塵もしない。しばらく魔法の小袋に入れ寝かしておくか、それとも……。

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