第5話 無茶な提案

 どれどれ、失礼ま〜す。


「《鑑定》」


〈 名 称 〉 黒竜


〈 分 類 〉 竜


〈 備 考 〉 双璧


 ……ど、どこに驚けばいいんだ? 《鑑定》スキルの練度が低すぎて、黒竜がドヤ顔したであろう部分が読み取れない。なんて答えよう……。


「凄いですね」


 社会人としての必須スキル《お世辞》を使用!


「お主。今、適当に褒めなんだか?」


 しかし、不発に終わってしまった……。


「まあよい、充分休めたであろう。続きをするのじゃ。終わったら食事をさせてやる」


 く、覚えていたか。ならば次は鍛治で使う小槌を出してみよう。


《万物流転》を使い黒いモヤに小槌に成れと念じてみる。先程と同じくモヤがうねりはするが中々形を形成しない。そんな私を見てどこが刺さったのか分からないが、黒竜はまた興奮していた。


 精魂尽き果てた頃に、ようやく小槌を具現化できた。いつの間にか洞窟の外の光も見えなくなっている。どうやら夜になったようだ。時間が掛かってしまったな……。

 

「やはり素晴らしい! こんな凄まじいスキルを授かるとはお主、本当に恵まれておる!」

「何をそんなに驚かれているのですか? 時間かかるだけの微妙なスキルな気がします。むしろ、道具をそのまま購入して使った方が〜〜」


 言い終わらないうちに、黒竜からため息が返ってきた。


「お主、何も分かってないのだな。黒いモヤに秘められた凄まじい魔力のパワーを感じないのか? もちろん今は真価を発揮しておらぬ。そなたが防具職人として成長すると共に、《万物流転》も成長するよう術式が組まれておるからな……もし、真価を発揮すればだ!」


 黒竜の言葉に一層力が入る。 


「針を具現化させたとしよう。いかなる糸や布であっても指揮者がタクトを振るう如く操れ、調和のとれた素晴らしい作品を作り出せよう。槌を具現化させれば、いかなる金属であっても粘土を叩くが如く自在な形に変化できよう。そして革包丁となれば、まるで空をなぞるが如く切れるであろう。つまり! その形になった道具は素材の性質を有無言わさず、そう思い通りにーー!!」


 黒竜が黒モヤへの感想を早口で述べている。そして、興奮が最高潮に達したのだろう。声を張り上げ、尾を地面を打ち付ける。


 その衝撃で大地が揺れ地響きが鳴り響いた。私は立っている事ができずにバランスを崩し、地面に片膝をそして片手をついた。


 さながらヒーローが高い所から着地しポーズを決めた感じになった。


「何を遊んでいるのだ!」


 それを見ていた黒竜に何故か怒られた。


 う〜ん、この理不尽さ身に覚えがあるな……。でも、黒竜にそこまで言わす可能性を秘めたスキルを授けてくれるとは、閻魔様に感謝だな。


「何たる未知な能力! 解析したいぞ!!」


 黒竜は興奮で鼻息が荒く、そして目がギラギラ光っている。


「物は相談なんじゃが、術式を強制的に解除して真価を発揮してみないか? 未知の術式とはいえ、そうじゃな五十年! いや色々な実験も加味して……どうじゃ百年。百年でよい妾と付き合わぬか? 食事の心配はするな面倒をみるぞ!!」


 物凄くウキウキで提案してくれているけど百年って。最初五十年て言ったのに、何の実験をすると倍の百年に?? 竜の平均寿命が何歳かわからないけど、竜基準で話されても……。


「大変興味を惹かれる御提案なのですが〜〜」

「分かった、ならば三十年でよい。若干、いや。そりなりに体に負担がかかってしまうが、三十年で解析を終わらせてみせよう!」


 体に負担ってどっちにかかるの?? 流れ的に私ですよね!! 


「すぐに真価を発揮するのではなく、共に成長していきたいと思っております」


 丁寧に頭を下げ、相手の気を悪くさせぬ様、自然な形で断りを入れる。


「……残念じゃの」


 沈黙があったのが怖いんですけど! それに目を細めないで!!


「お主、こちらの世界では宛てが無いのであろう。これも何かの縁じゃ、特別に妾が近くの人里まで連れいていくのは、やぶさかではない」


 それは随分とありがたい話だ。是非お願いしたいがー。

 

「大変ありがたい御提案でお願いしたいのですが、私からお返しできるものがございません」

「下心あっての提案じゃ。少しの間お主のスキルを見させてもらえぬか、な〜に悪い様にはせんよ」


 悪い様にせん……か。私の中で信じられない言葉ランキング第四位の言葉をまさか異世界でも聞けるとは。でも、下心とはっきり言っているだけマシかな。どちらにしろ断る事はできなそうだし。


「分かりました。宜しくお願い致します」

「しばらく共に生活する間柄じゃ、かしこまった言い方はせず、友人として接するがよい」


 いきなり距離を縮めてきたな。竜の常識はこうなのか? ただ、しばらく共同生活することを考えると、その方が気が楽かもしれない。


「食事がまだじゃったな、ほれ食べるが良い」


 心なしか声が柔らかくなったように感じる。


「ありがとう、いただくね」


 黒竜は獲ってきたクリスタルゴーレムを、尻尾で掴むと私の前に置いた。地面とほんの僅かの隙間だったがクリスタルゴーレムは、重量感のある音を奏で土埃を舞い上げる。


 え、あれ? 実はゼリーみたいに柔らかいと思ってたけど違うのか? どうやって食べるんだろう。てか、この重さを平然と運ぶのか……やっぱり竜って凄いな。


「ん? 何じゃそんなに見つめて。この尻尾の良さが分かるのか?」


 スラリと伸びた尻尾を見せつける様に動かしながら、誇らしげに語る黒竜。……成る程、そう言う事か!


「力強くて頼もしいよ」

「……はよ食え」 


 ぇええ!? なぜ急にそんな低いトーンでお答えに? 最適な褒め言葉だと思ったんだけどな……。


「あの……これって、どうやって食べればいいの?」

「何を異な事を、そのままかぶりつけばいいではないか。お主は今、《万物流転》を使ったことにより魔力を消費している。魔力の高い獲物を食べることにより回復できる。先を見越して獲物を取ってきたのじゃぞ」


 先を見越して動くとは、この竜出来るな!


 けど、触った感じどうやっても歯が立つ硬さではない。まさか、氷砂糖みたいに舐めれば溶けるとか? 一理あるな。よし、やってみよう。


 恐る恐るクリスタルゴーレムを舐めてみる。……ほのかに甘さを感じた気がした。舐める場所によって味も変わってくるかもしれないから、全体を舐めてみるか。


 ん〜場所によっての味の差は無いような気がするな。それと試しに噛んでみたけどやはり歯が立たないか。


「お、お主何をしている」

「え? 何って黒竜が食事と言うから、全体を舐めているんだよ。魔力も回復してきが気がする」


 何故か黒竜が一歩後ずさった。


「お主の食事前の特殊な行動に、とやかく言うつもりは無いが……それでは魔力回復せん。噛み砕き腹にいれ消化せねばな」


 え? え?? じゃあ、魔力が回復した気がしたのはプラシーボ効果!? 全体を舐める行動はーー違う誤解だ!! 恥ずかしすぎる。


「あ、あの。黒竜さんこれは……違うんです」


 やめろぉおお! そんな目で見るな! 種族が違うのに何でこんな時に限って相手が言いたい事がわかってしまうんだ!

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