第4話 黒竜熱く語る

「ほれ、まだスキルあるじゃろ、説明せい」

「は、はい」

「固有スキルが三点あります。《無垢の者》《万物流転》《地への願い(一度のみ)》です」

「それじゃ、それ。ほれ、はよ試してみ」


 黒竜は金色の瞳をより一層キラキラ輝かせ、尻尾をブンブン振っている。なんか竜なのに大きい犬みたいな動きをするなあ。


「すみません。スキルの使い方を知らないのですが……」

「頭の中で使いたい固有スキルを念じれば使う事ができる。スキルによっては魔力を消費するが、お主からはそれなりの魔力は感じる。無茶をしなければ多少使い続けられるじゃろ」


 私も魔力を持っているんだ! でもゲームと違って、体力や魔力の表示は見えて無い。そこは感覚で判断する感じなのかな。

  

 閻魔様から授かった固有スキルの名前から考えると、《無垢の者》の効果は分身を呼ぶスキルだと思う。《地への願い(一度のみ)》は名前の通り閻魔様へ手助けをお願いするスキルになるかな。となると、《万物流転》はどんな効果だ? ……これから試してみるか。


「では、まず最初に《万物流転》というスキルを試してみたいと思います」


 黒竜が頷き少し後ろに下がった。頭の中で《万物流転》を使うように念じると、黒いモヤが集まってきて、右手の周りを取り巻いた。ちょっとキモいな。


 感覚でわかったが《万物流転》は、防具職人で使う道具を出すスキルのようだ。


 黒いモヤに針になれと念じてみる。モヤが私の呼びかけに応えて渦巻き、形を成形し……しない! なんだこのスキル。


 失敗したのかなと思ったが黒竜の方を見ると、感嘆の声をあげながら子供みたいにはしゃいでいる。


 ……その姿を見て、何だかやめるにやめられない状況になってしまった。このもどかしさは、何と表現すればいいのだろう。利き手と反対の手で、綺麗な文字を書けるまで繰り返し挑戦している感じだ。やる事は分かっているのに上手く出来ない。《空間収納》はすぐに使いこなせたのになーー。



 かなりの時間を消費してようやく針を一本具現化できた。


 この道具を出すスキル、精神的に凄く疲れるし時間もかかり過ぎる。売っている針を買って使った方が早くて楽だろコレ……。


「なんと、なんと無限の可能性を秘めた能力……。そして魔力の構築方法、革命的じゃ!!」


 私の落胆とは裏腹に、黒竜が声を震わせ鼻息を荒くし驚いている。 


「ほれ、次じゃ次。別な物に変化させるのじゃ」


 ……何だろうこの竜さん。


「ちょっと精神的に疲れているので、休憩をしてから続きをしてもいいですか……。それか、精神的疲労を回復する魔法があるのでしたら、かけてくれると嬉しいのですが」


 針を具現化した後、精神的な疲れを感じたのだ。


「妾はこの見た目の通り、闇属性の魔法が得意じゃ。回復魔法は光属性となり対極属性のとなる魔法は使うことができぬ。そもそも光属性は面白くも何ともない! 火属性あれもダメじゃ。込める魔力を増やせば簡単に威力が上がる、それではつまらん。その単純さ故に工夫を凝らす者は少く〜」


 竜は体の色で得意とする属性が決まっているのか? 目の前の竜の好みはさておき、剣と魔法の世界では回復魔法を使える人物は必須でしょ! それに攻撃魔法の代表格といえば火属性だと思うんだけどなぁ。


 しかし、聞いてもないことまで早口で話してくる。さてはこいつ友達いないタイプの竜だな!


「闇属性以外で妾が認めているのは、雷、風それと土属性じゃ。その三属性は攻撃魔法としては勿論、身に宿す事によって〜」


 引き気味の私の事など気にならないのか、黒竜は他の属性も説明しつつ、いかに闇属性が素晴らしいかを熱弁している。


「〜であるから、攻撃魔法にデバフを織り交ぜられる闇属性の魔法こそ至高! 相手が魔法を防ぎ安堵したのもつかの間、搦め手でジワジワと削られ驚き戸惑う姿がまたそそられる」


 立って聞いているのが辛くなり、その場に座り込んだ。


 勝手なんだろうけど、竜は圧倒的超高火力でいかなる敵をも薙ぎ払う比類なき強者! と思っていたよ……。


「手短に話したのだが、お主も闇魔法の素晴らしさを分かったのではないか?」


 手短とはいったい……。あれか、竜と人は時間の流れる感覚が違うのか? 内容も専門的すぎて何を言っているの分からなかったし。


「では、休憩とするか。その間に妾が特別に食事を獲ってこよう、ここで待っておるのじゃ」


 黒竜は嬉しそうな声で出口に向かい、どこかに飛んで行った。固有スキルを使った時間より黒竜が話していた時間の方が長かった気がする。


 洞窟の外を見ると、赤い光が差していた。時計が無いので正確な時間は分からないが、もう夕方なのだろう。……今のうちに逃げるべきか? でも、どこにいるか全く分からないし、人里を目指すにもあてもない。


 あのデバフ魔法でなんちゃら話していた黒竜が、たいして釘を刺さずに外に行ったのには訳がありそうだ。今の所、危害を加えられたわけでは無いし一応話も通じている……大人しく待っているのが吉かな。



「戻ったぞ」


 そう言うと、黒竜は尻尾で掴んでいた獲物をそっと地面に置いた。これは《鑑定》しなくとも正体は分かる。ゲームでお馴染みのゴーレムだ。ただそのゴーレムの見た目は、良くある岩や金属では無くなんと透き通っており全身から淡い光を放っていた。そして……大きい! 高さ四メートル、横幅は三メートルはあるだろうか。


「折角じゃこの獲物に向かって《鑑定》を使い調べてみるといい。調べていけば《鑑定》の練度が上がり、あるタイミングで得られる情報が増えるぞ。ただし、同じ物を調べ続けても意味はない。《状態異常耐性》も同じ様なものじゃ」


 それは良いことを聞いた! じゃあ、早速使ってみよう。


「《鑑定》」


〈 名 称 〉 クリスタルゴーレム


〈 分 類 〉 物質


〈 備 考 〉 高濃度の魔力を秘める


 頭の中に鑑定結果が流れ込んできた。


 この黒竜、食事と称してクリスタルゴーレムを提供してきたのか? 食べれるわけがない!! ……いや、待てよ。もしかして異世界だと柔らかくてゼリーみたいな食感がするとか?


 それにしても《鑑定(微)》だと得られる情報は少ないんだなあ。ん? まさか……。


「《鑑定》を相手に使ったら情報って読み取れるんですよね? もしかして私に《鑑定》しました?」


 黒竜がニヤっと笑ったような表情をした。


「バレてしまったの。雄叫びを聞いて気を失ったお主を《鑑定》し、スキル諸々の情報を得た。そして興味を持ったからここまで連れてきたのじゃ」


 だから、私のスキルを知った口調だったのか。


「ただ闇雲に《鑑定》していいわけでは無い。使うときは注意が必要じゃ。お主の様に《鑑定》スキルの練度が低かったり、相手との実力差がありすぎると《鑑定》した相手に調べている事がバレ、色々面倒な事になるぞ」


 その瞬間、全身を撫で回された様な、何とも言えない不快な感覚に襲われた。


「今のが練度の低い《鑑定》じゃ。自分の情報を相手に知られるのは命取りになる場合もある。迂闊うかつに使うと敵対行動とみなし、襲ってくる相手もいる事を忘れぬな」


 ここは職とスキルで出来ることが変わる世界。相手の詳細な情報あったら、事前に対策を打つ事もできるだろう。これは注意しないとな。


「特別に妾を《鑑定》させてやろう。そして、驚くがいい!」

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