第29話 なんでわたしと結婚したの?

「おはよう、よく眠れた?」


 再び目覚めたのは、わたしたちの家の布団の中だった。

 昨日は久しぶりの行為もしたし、慣れないことの連続だった。きっと、ユキトさんにいわれるまま寝ぼけた状態で車に乗せられ帰ってきたのだろう。遊んで疲れ切った子供みたいで自分でもあきれてしまう。

 不思議なことにゆうべあんなに強く感じだ体のだるさも眠気も感じなかった。

 そうだ、肌のケアをしなければとわたしは慌てて洗面台へ向かう。

 だが、顔を水で洗ったところで気づく。

 わたしの肌は何も変わっていない。

 白く柔らかでハリがある。昨日までとなんら変わらない、わたしが思っていたとおりの肌だった。それどころか、ニキビ跡一つない。


 わたしは、ほっとする。

 ああ、よかった。

 昨日のは見間違いだったのだと。

 わたしの様子がよほどおかしかったのだろう。ユキトさんは心配して洗面所まで様子を見に来た。


「大丈夫? なにかあった」


 ユキトさんは心配そうにわたしの表情をみる。


「なんでもない」


 そう今はもう何でもない。さっきまであんなに慌ててたけれど。わたしは「ちょっと怖い夢をみちゃって」とゆうべのことを話した。ちゃんと冗談っぽく言ったけれど、最後は「やっぱりユキトさんはわたしにきれいでいてほしいよね?」と確認していまう。当然だろう。男というものは若い女性の方が好きなのだから。潤んだ瞳、みずみずしい肌、艶やかな髪。それはまだ生物として一番健康で魅力的で子孫を残せることを主張するものだから。男ならば健康な子孫を残せる若い女の方が好きに決まっている。現にユキトさんだって、十歳年下のわたしを選んでいる。

 だけれど、ユキトさんはわたしの頬をそっと優しくなでてから。


「若くないと好きじゃなくなるなら、結婚なんてしないよ。年をとっておじいさんとおばあさんになっても一緒にいたいと思ったから結婚したのに」


 と言った。

 嬉しかった。そんなに思ってもらえているなんて。


「ありがとう。昨日のデートも、ゆうべのことも……それとわたしと結婚してくれて」


 わたしはそっとユキトさんの頬にキスをした。新婚だものこれくらい許されるだろう。

 ユキトさんもわたしの頬にキスをする。ちょっとくすぐったくて笑ってしまう。

 ああ、この人と結婚してよかった。

 結婚の一番いいところの一つを味わっている瞬間だ。


 わたしはこの人が好き。

 大切だし、愛している。


 なにがあってもこの人から離れない。

 ユキトさんと一緒ならきっとどんなことも受け入れることができる。


 わたしはユキトさんにぎゅっと抱き着いた。


「なに? どうしたの? そんなにデートで喜んでくれるなら、また行こうね」


 ユキトさんはわたしのことを抱きしめて頭をぽんぽんしてくれた。

 嬉しいし、心から落ち着くことができた。


 わたしにはこの人しかいない。

 この人をしあわせにするためならば、どんな犠牲だってはらうことができる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る