第11話

「はい、すいません今すぐ死にます」


「え? し、死んではいけませんよ?」


「いや、俺のせいでもうめちゃくちゃだ・・・・・・ごめん、君を助けるどころか状況を悪くしただけだったよ」


 何がやれることをしますだ。

 何もしないどころか木城さんの立場を悪くしただけ。

 はぁ、このまま消えてなくなりたい。


「そんなことはありません。むしろ謝るのはこちらです。あぁいう方だと言うことを事前に行っておくべきした。しかもそこまで貴方にひどいことを言ったのです、怒って当然です」


「で、でもこのままじゃ木城さんのお父さんの会社の取引だって・・・・・・」


 俺がそんな声を震わせながらそう言っていると今度は木城さんのお父さんが部屋にやってきて何事もないような顔で俺に言った。


「君はうちの会社が取引先を一つ失った程度で潰れる会社だとでも思っているのか?」


「お、おとうさ・・・・・・」


「お父さんと呼ぶな!!」


「で、でも結構大きな取引先なんじゃ?」


「まぁ、そうだ。しかし、あんな男と娘を結婚なんて死んでも私は御免だ亡き妻もそういうだろう」


 木城さんのお父さんはそう言いながら俺の前のソファーに腰を下ろして俺に話始めた。


「まぁ、結果はどうあれ見合い話は白紙、それにあの馬鹿息子、どうやら親に泣きついたらしいが、経緯を聞いた親御さんはこちらに謝辞をしてきた。取引もなくならないし、面倒な男が娘に近寄ることもない。すべてが丸く収まった」


 木城さんのお父さんはそう言ってメイドさんの持ってきたコーヒーを飲み、再び口を開いた。


「それにスッキリした。立場上あの馬鹿息子には強く出られなかったからな。ありがとう」


「い、いや俺はただ暴走しただけで・・・・・・」


「家族を悪く言われて暴走しない家族など家族ではない。私だってそうだ」


「あぁ・・・・・・」


 なんとなく想像が出来てしまう。

 この人だったら木城さんを悪く言った人を殺しかねないかも・・・・・・。

「気にせず君は報酬を受け取りなさい、君はそれに値する仕事をしたと私は思っている」


「お父さ・・・・・・」


「誰がお父さんだ!!」


「す、すいません・・・・・・」


 いい人かと思ったけど、やっぱり危ない人かも・・・・・・。


「まぁ、流石は娘が選んだ男だ。あの馬鹿よりも幾分かましだな」


「幾分かって・・・・・・」


「お父様、榎本様は良い方です!」


 木城さんが慌てて俺をフォローし、そんな娘にお父さんは笑顔で「そうだね」と答える。

 娘には甘いんだなぁ・・・・・・。


「さて、私は少ししたら用事で家を出るのでこの辺で失礼するよ。協力してくれたんだ、今晩はうちで食事をしていくと良い」


「え? 良いんですか?」


「ただし娘と二人きりになることは許さん!! 必ず執事かメイドは側にいるように!!」


 やっぱりやばい人かも・・・・・・。

 ともあれこうして木城さんの偽恋人役は終了した。

 まぁ、それっぽいことは何もしてないけど。



「うまっ! なんだこの肉!?」


「うふふ、喜んでいただけたようで何よりですわ」


 許嫁とのことが終わり、俺はお礼を兼ねて木城さんの家で食事をっしていた。

 専属のシェフがいる家なんてまず聞いたことがない。

 てか、肉ってこんな柔らかいものだったっけ?

 なんてことを考えながら俺はばくばくと晩飯に食いついていた。


「そういえばお母様にご連絡はお済みでしたか?」


「あぁ、なんか母さんも今日は用事があるからちょうど良いって言ってたよ」


 母さんは最近たまに出かける。

 まぁ、毎日仕事で大変なんだろうし、友人との食事だってしたくなるだろう。

 それにいままで俺を育てるために頑張ってきたんだ、すこしくらい遊んだって罰は当たらない。


「先ほどのお話を聞いて思いましたけど、やはり榎本様を育てただけあって、ご両親もご立派なんですね」


「まぁ、そうだね。照れくさくていつも言わないけどさ・・・・・・母さんは父さんが死んでから俺を一人で頑張って育ててくれて、父さんは子供の命を救って死んだんだ。尊敬してるよ」


「素敵なお父様とお母様ですね」


「そういえば、木城さんのお母さんも・・・・・・」


「はい、私が幼い頃に病気で・・・・・・でも私にはお父様も使用人の方々も居たので・・・・・・」


 悲しくないと言おうとしたんだろうけど、木城さんは言葉を飲んだ。 きっと寂しかったんだ。

 ずっとそれを隠して生活をしてきたから言わなかったんだ。

 気持ちはわかる。

 俺も母親を困らせないように父親の死を受け入れたふりをして生活をしていた。

 だから、このとき俺は木城さんが自分と少し似ていると思ってしまった。


「あのさ、学校で困ったことがあったら言ってくれよ。俺力になるから」


「ありがとうございます。私、実は体育祭や文化祭、それに修学旅行なんかに憧れているんです!」


「え? 前の学校にはなかったの?」


「えぇ、そういった行事はなくて、だからそういった行事のある学校に入りたかったのですが、お見合いのことや父の立場なんかもあって、諦めていたんです。でも転校出来ることになって、しかもお見合いの件もなんとかなって、今は楽しいことばかり考えています!」


「そっか、なら良かったよ」


「お母様が昔話してくれたんです。学校は楽しいところだと、なので私はあの学校に転校したんです」


「まぁ、確かにうちの学校はいろいろな行事があることでは有名だけど、それと同じくらい変なのが多いぞ?」


「そうですか?  皆さん良い方ですよ?」


 まぁ、男子は顔の良い女子に優しいからな。

 

「それにしてもやっぱり会社の経営者って忙しいんだな、直ぐ出かけて」


「確かにお父様はお忙しいですけど・・・・・・どうやらお仕事ではないみたいなんです」


「え? どういうこと?」


「どうやら、お父様に春が来たようなのです」


「あぁ・・・・・・なるほど」


 そういうことか、まぁ社長と言っても普通に男だし、人生のパートナーが欲しいと思うだろうし。


「木城さんは不安じゃないの? 新しいお母さんかもしれないんでしょ?」


「お父様の選んだ方なら心配はないと思っています。私はお父様を信頼していますから」


 やっぱり性格良いな木城さん。

 あの父親からこんな性格のよい子が育ったなんて信じられん。 

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