第10話
*
人間は様々だ。
色々な人がいる。
皆がそれぞれ違って、違う魅力を持っている。
それが人間なのだが、 やっぱり性格の合う合わないや好き嫌いは存在する。
俺は人の印象を見た目だけで判断する気はない。
しかし、今俺の眼の前にいる男は第一印象から嫌いだと印象付いてしまった。
「なんだ、お前が優愛ちゃんの恋人か? 貧相な顔つきだな」
太々しい態度に脂っこい顔。
下品にニヤニヤ笑いながら木城さんを見ているその男を分かりやすく言うのであれば、ファンタジー映画なんかに出てくる嫌な貴族って感じだ。
やって来た見合い相手は絵にかいたような嫌な男だった。
金でなんでも手に入れてきたと言う感じが見た目からひしひし伝わって来る。
服もアクセサリーも派手で一目見て絶対に嫌な奴だと思ってしまった。
「生野様、本日はようこそおいで下さいました」
見合い相手の名前は生野楓太(いくの ふうた)。
生野食品という大きな会社の社長の息子らしい。
年齢は19歳で俺よりも年上で今は大学生らしい。
「あぁ、優愛ちゃんの彼氏を紹介して貰えると聞いて来たみたが……ふっ……この冴えない男がそうなのですか?」
冴えなくて悪かったな。
このデブ、初対面なのにさっきから失礼なことばっかり言いやがって。
木城さんが身代わりを立ててでも婚約を断りたい理由が分かるな。
「どうも始めまして、優愛さんと付き合いさせていただいています榎本と申します」
「ふーん……親は何をしてるんだ?」
「え? あぁ、親は普通に会社員で……」
「会社員!? どこかの社長ではないのか?」
「うちは一般家庭で……」
「なんだと!? 優愛ちゃん、君はこんな将来性のない男を伴侶に選んだというのか?」
こいつ……言いたいことを言いやがって。
「生野様、私は将来性や財産だけで婚約者を決めません。この方は私を愛してくださり、私も榎本様を愛しています」
ハッキリとそういう木城さん。
女子にハッキリ愛してるなんて言われた事のない俺はどんな顔をしていいやら、恥ずかしいやらでなんだかソワソワしてしまった。
木城さんのお父さんに至っては平静を装ってはいるが、握った拳からは血が流れていた。
あぁ、後でまた色々言われるんだろうなぁ……。
なんて事を考えていると、木城は続けて言った。
「生野様、再度申し上げます。私には既に心に決めた殿方がいます。誠に申し訳ありませんが、この度のお見合いはお断りさせていただきます」
恥ずかし気もなくハッキリとそう言い切った木城さん。
俺はそんな凛とした彼女に少し見とれてしまった。
本当に俺はいるだけで良い存在だったようだ。
俺が何もしなくても彼女が後は自分でなんとかする。
そんな安心感があった。
しかし………。
「い、いや考え直した方が良いよ優愛ちゃん! こんな金も無い普通の男よりも会社のことやこの先の事を考えたら僕の方がずっと良いって!!」
「まだ学生ですからお金が無いのは問題ではありません」
「か、家庭環境だって問題だ! 僕のように育ちが良くないと結婚した後に必ず上手くいかなくなる!」
「育ちは凄く良いと思います。彼は困っている私を見返りも求めずただ善意だけで助けてくれる素晴らしい方です」
「うっ……お、おいお前! 両親は共働きなのか!!」
「え? あぁいや父親はいません。母親一人で自分を育ててくれました」
「聞きましたか優愛さん! 片親ですよ!? 片親の息子など絶対に本性を隠しています。このような庶民と婚約しては貴女も貴女のお父様も不幸になります! どうせ母親か父親の不倫で片親になったんです。そんな血筋の人間など」
「なんだと……」
そうだ。
俺は片親だ。
父親は俺が幼い時に交通事故で死んだ。
聞いた話だと父親は子供を庇って交通事故にあって死んだ。
俺にとっては自慢の父親だ。
母さんも俺をここまで育ててくれた。
どんなに仕事が忙しくても俺との時間を作ってくれた。
そんな母と父をこんな奴に馬鹿にされるのは我慢ならない。
俺は必死に自分を抑えた。
ここで俺の怒りが爆発すれば木城さんに迷惑がかかる。
俺が我慢すればいい、こんな奴とは二度と会うことだってない。
俺はそう思いながら必死に我慢した。
「片親で庶民で冴えない顔つき……こんなやつのどこが良いのですか? 僕であれば金も家柄も申し分ありません。是非交際出来ればと思っています。お前みたいなクズ親の子などお呼びではない、とっとと帰りなさい」
「クズ……だと……」
「なんて事を言うのですか!!」
「優愛ちゃん毒されてはいけません。不倫した親の子も不倫をします」
「それは貴方の偏見です! 榎本様はそのような方ではありません」
「カエルの子はカエルなのです。この場合はクズの子がクズでしょうか?」
そうニヤニヤしながらいう生野を再度見た瞬間、俺の我慢は限界に達していた。
「いい加減にしろよてめぇ!!」
「う、うわぁ! な、何をするんだ!!」
俺は生野の胸ぐらを掴み、そのまま怒声を浴びせた。
「俺の親の何を知ってる! 言って見ろ! あぁ!!」
「は、離せ! ぼ、僕は生野の家の人間だぞ!」
「んなもん知らねぇんだよ! 俺のことをいくら言おうとかまわねぇよ! 実際イケメンでもないつまんねー顔だからな……でもなぁ、親の事をこれ以上貶してみろ! 絶対に許さねぇぞ!」
俺がそう言い終えると背後から執事の人に羽交い絞めにされて止められた。
「落ち着いてください、榎本様」
「ふぅ……はぁ……すいません」
「な、なんだ無礼だぞ! やっぱりこんな奴と婚約など解消……」
「お帰り下さい」
「え……」
俺が羽交い絞めにされ正気を取り戻すと今度は木城さんが冷たい目で生野を見ながら言った。
「貴方のように他者を蔑むことを平気でする方と婚約する気もありません。お帰り下さい」
「ま、まってくれよ、僕は君の為に……」
「お帰り下さい。もう貴方と話すことはありません」
「そ、そんな……」
その後、生野は木城さんに冷たく言われたのがショックだったのかしょんぼりしながら帰って行った。
一方の俺はやらかしてしまった事に今更ながら気が付き、後悔していた。
「はぁ……」
今回の件、絶対に失敗だ。
俺のせいで作戦がぱぁだ……どうしよう、もしこの後生野の会社と木城さんのお父さんの会社の取引が無くなったら……。
もしかして損害賠償とか請求される?
はぁ……そうなったら一体俺はいくらの借金を背負うんだ……。
「あの……榎本様」
俺が頭を抱えていると木城さんが話しかけてきた。
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