第9話
「お待たせしました。お父様変えの靴下を……あれ? なぜテーブルが真っ二つに?」
「あぁ、古くなっていたようでね。壊れてしまったみたいなんだ」
「まぁ、じゃぁ新しいの用意しないとですわね」
なんで信じるんだよ!
どう考えたって古くなって壊れた壊れ方じゃないだろ!
完全に真っ二つだもの!!
てか、このお父さん娘の前だと性格変わるのか?
二重人格見たいになってるよ……。
「まぁそう言う訳でえっと……頼んだよ江頭君」
「榎本です。協力はしますけど、具体的には何をすれば?」
「あぁ、明日馬鹿……見合いの相手はが来るから、君は娘の隣にいてくれるだけで良い。相手を見せればあの馬鹿……見合い相手も納得するだろう」
よほど嫌いなんだろうな、見合い相手のこと……。
まぁ、それだけいうからにはよほど酷い人なんだろうな。
でもこのお父さんが言ってることだし、ただの逆恨みの可能性もあるか?
あ、でも木城さん本人もそう言ってたし、やっぱり酷い奴なのか。
「お父様、本当に大丈夫でしょうか? 私のせいでお父様や榎本さんにご迷惑を掛けるのは……」
「大丈夫だよ。無理に婚約をすることはないし、お前はまだ16歳、結婚にはまだ早い」
まぁ、父親が味方なのはありがたいな。
親馬鹿ではあるけど、娘の幸せを本気で願っている良いお父さんだ。
「お前は嫁になんか行かず、ずっと私の元にいてくれてかまわないんだからね」
「もうお父様ったら、冗談がお上手ですね」
それ、本当に冗談か?
やっぱりただの親馬鹿のヤバイお父さんかもしれない。
*
そして、翌日。
俺は木城さんの見合い相手と会うことになった。
お父さんからそれなりの恰好でなければ浮いてしまうと言われ、スーツを貸してもらい、執事の人に髪をセットしてもらった。
「ふむ、まぁ幾分かマシだな」
「それはどうも」
「仮にも娘の思い人を名乗るんだ、粗相の無いように頼むよ」
「分かってますよ」
「それと誤解をしないように! 今回はあくまで思い人のフリをしてもらうだけだからな! 娘が可愛いからって本気になるなよ!」
「近い近い! 分かってますって!!」
お父さんが俺に再度そう忠告をして迫ってくる。
よほど娘が大切なのだろう、気持ちは分かるがやっぱり過剰な気もする。
「そろそろ相手も来る。私は出迎えの準備があるので、君は娘と部屋で待ってなさい」
「わかりましたよ」
そう言ってお父さんは部屋を出て行き、俺は執事さんと部屋に二人になった。
この執事さんは、初めて木城さんの家に来た時に運転手をしていた人だ。
「すいません、旦那様は口は悪いですがお嬢様を守る為に必死なだけなんです」
「あ、それはまぁ見てれば分かります。昔からあんなに過保護なんですか?」
「まぁ、そうですね。奥様が亡くなられてからずっとですね」
「え……」
俺は執事の人の話しに驚いた。
見ないとは思ったが、まさか木城さんのお母さんがもうこの世に居ないなんて……。
「そうだったんですか……」
「はい、お嬢様がまだ4歳の頃でした。病気に倒れた奥様は旦那様とお嬢様を残して旅立たれました。以来旦那様はお嬢様を悲しませまいと必死で働き、お嬢様との時間も作り、幼いお嬢様を笑顔にする為に今までずっと必死でやってきたのです」
「……凄いですね」
執事さんからその話を聞き、俺は先ほどまでお父さんに抱いていた考えを改めた。
過剰にまで見えた娘を思う気持ちにはお父さんなりの考え方があったのだろう。
ヤバイ奴だなんて思ってしまって、悪かったなぁ……。
「私はお嬢様が生まれた頃から旦那様にお仕えし、お嬢様の成長を見てきましたが……あのような男にお嬢様を持っていかれるのは私も面白くありません。なので、どうか今回の件、どうぞよろしくお願いいたします」
そういって執事さんは俺に深く頭を下げた。
この人も木城さんのお見合いに対してどこか思うところがあるのだろう。
「はい。やれることをします」
俺が考えていたよりも俺の役割はどうやら重要らしい。
執事さんの話を聞き俺は気合を入れなおして、木城さんの待つ部屋に向かった。
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