第8話
「とりあえずお父様に会っていただけますか? お父様とも口裏を合わせておく必要がありますので」
「それは良いけど……」
普通に緊張するな。
友達のお父さんに会うってだけでも緊張するのに、この大豪邸の主に会うってのも考えると緊張が倍になってしまう。
「大丈夫ですよ。お父様は優しいので」
「あぁ、じゃあ安心だ」
木城さんはそう言いながら俺を屋敷の奥の部屋に案内し、部屋のドアを二回ノックした。
「なんだ?」
「お父様、私です。榎本様を連れて来ました」
「そうか、入りなさい」
ドアの向こうから優しい男性の声が返って来た。
なんだ、本当に優しそうな感じじゃないかと安心しながら、俺は木城さんに続いて部屋に入った。
俺は部屋に入り、木城さんのお父さんを見て驚いた。
「やぁ、いらっしゃい」
なぜか日本刀を持って笑顔で俺を見ていたからだ。
「お、お邪魔します……」
「君が榎本君か、娘から噂は聞いて居るよ」
そう言いながら木城のお父さんは日本刀を何度も素振りしていた。
あれ?
もしかして俺、殺される?
「お父様、お客様の前で失礼ですよ」
木城さんが日本刀の素振りをするお父さんに注意をした。
助かった、これでとりあえず日本刀は手放して貰える……そう思った俺だったのだが……。
「靴下の左右が揃っていませんわ」
「あぁ、いけないいけない。優愛が男を連れて来るっていうから慌ててねぇ……」
いや、注意するとこそこ!?
あ!
もしかして木城家ではお父さんが日本刀の素振りを日常的にしているのか?
「ところでお父様、なぜいつも飾って使わない日本刀を持っているのですか?」
「あぁ、たまには出して使ってあげないと可哀想だからね」
絶対日常的になんて素振りしてない!
え?何?
この人何?
すげー怖い!!
いろんな意味で怖い!
「もう仕方ないですわ。変えの靴下を持ってきます。榎本様と先にお話をして待っていてください」
「あぁ、好都合だよ」
好都合って言ったぞこの人!
娘がいなくなった後に一体何をする気だよ!
「それでは少々お待ちを」
「あ、木城さ……」
木城さんは俺を残して部屋を出て行ってしまった。
残ったのは冷や汗だらだらな俺と日本刀をぶんぶん振り回す木城さんのお父さん……何この状況?
「さて……君が榎本君か……切られるのと貫かれるのはどっちがいい?」
「で、出来ればどっちも嫌なんですけど……」
とんでもない二択を聞いてきたぞこの人!!
やべーよ、絶対ヤル気だよ!
娘と仲良くしている男を亡き者にする気だよ!!
「まったく、最近娘には変な虫ばかりつく……バカ息子の次は転校した先の学校の男子生徒だなんて……やっぱり害虫は駆除しなくちゃねぇ……」
やばい!
絶対にこのお父さん親馬鹿だ!
しかもドが付くタイプの親馬鹿だ!!
「ま、待ってくださいお父さ……」
シャキーン
「え?」
何かが切れる音がした後、俺とお父さんの間にあった高そうな木の机は真っ二つになって崩れ落ちた。
「誰が……お父さんだって?」
「す、すすすすいません! 違うんです! 僕は娘さんとはただの友人関係で誓って娘さんとは深い関係ではありません!!」
「娘に魅力がないと言うのか!!」
あぁもう!
この人めんどくさい!!
「まったく。これだから私は共学への転校を反対したんだ! そうでなくても仕方なく受けたお見合いで変なのに好かれてしまって困っているというのに」
「あ、あのその為に自分が呼ばれたのでは?」
「あぁ、そうだ。君にはあの子の為に人柱になってもらう」
「殺す気なの!?」
「大丈夫だ。本当に死にはしない、ただ社会的に死ぬだけだ」
「それ全然大丈夫じゃないんですけど!?」
「まったく、なんで優愛はこんな男を……」
木城さんのお父さんはそう言いながらソファーに座り、先ほどの笑顔ではなく、険しい顔で俺を見て話し始めた。
「私の娘は可愛いだろ?」
「え? あ、あぁはい……」
「だから昔から縁談の話しが多かった。しかし、私は娘を嫁になどやる気は無かったので、縁談を断り続けた。だが、娘は年齢を重ねるごとに美しくなっていく、見合いの申し込みは増える一方でな、もうお父さんは心配でならんのだよ」
「な、なるほど……」
「そこで君の出番だ! 君を娘が思いを寄せる男ということで紹介をし、見合い相手を諦めさせる」
「そ、そんなんで簡単に上手くいきますかね?」
「失敗したら君が死ぬだけだ」
「俺のリスクだけデカすぎませんか!?」
「とにかく! 私はなんとしてもあのダメ人間クズ男から娘を守らなくては行けない! 金はいくらでも払うから強力しろ」
なんで頼まれてるのに上から目線?
もう俺帰りたい……。
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