第25話
神様がいったい何をしてくれるのだろうか。
神様が実際にいる世界での事例。
世界滅亡。
魔王の存在を危惧した神々は、世界一つを犠牲にして監獄を作った。
それがこの名もなき監獄。
なんというか、やっぱり神頼みはするべきではないなと認識させられる。
見ている場所が違いすぎる。
魔王一人のために、何人かはわからないけれども地球換算で数十億の人間、それ以上の生き物たちを犠牲にして監獄を作り上げるという意識がまず別物過ぎて理解不能だ。
「つまり、君たちのここでの生活は、数多の犠牲の上に成り立っているのだよ」
「なんかそれっぽいけどなんか違う気がする……」
そもそもそんな話ではないだろうというところ。
魔王は世界を滅亡させていないし、なんだったら滅亡させたのは神。
もともとの罪状が世界を滅亡させた魔王だからという話ではなかっただろうか。
そうだったら、前提条件が変わってしまう。
「神は魔王だからと悪認定だからな。別に前提が変わろうとも、我に罪ありとするさ」
「神って奴は……」
「まあ、我とて魔王であるからな。放っておけば、世界くらい征服したかもしれない」
「おい」
「なあ、今思ったんだけど、世界制服ってどんな服だと思う?」
「なんの話をしているんだ???」
「やっぱり露出度高い服が良いと思うんだ、我。そうだ、我が世界征服したら、世界制服を作って全員に着てもらおう。足とか胸とかすんごい露出してる奴」
「おい」
「デザインは一緒に相談してもいいぞ。好きな服を言ってみ?」
「ふむ、やはりここはメイド服が良いと思う」
「ほうほう、メイドさんか。いいよなー、メイドさん。我、魔王城にもいっぱいいたぞメイドさん」
やはり城にもいたのかメイドさん。
さすがに四畳半にはいないから、影も形もないけれども。
「ならば我が今ここで着てやろう。メイド服。我、見た目はいいからな、きっと気に入る」
「いや、話がややこしくなるというか進まないから、やめ……また今度にしよう」
「着てほしさはあるわけか。うむ、これは良いことを聞いた」
うんうん、と二回頷く魔王。
なんか墓穴を掘った気がした。
「で、本物はどこにいるんだ?」
「言うわけないだろう? 公平なゲームだ。我は何も言わんとも」
くだらない話の途中に振ったら答えてくれるかなと思ったが、やはり魔王、そう一筋縄ではいかないようだ。
「ヒントはそこかしこにちりばめているし、なんだったら囚人記録にあるファイルを見直せば良い」
「なんかゲームのヒントだな」
「ゲームのヒントだよ」
魔王は、ククと二度喉を鳴らす。
「普通に考えて、露骨なものはあったんだけれども、それは外れって言われたんだよなぁ」
「ふふふふ」
「まあ、せっかくのヒントをもらったのだから、それはそれとして見直すのも良いか」
時間は今のところ、いくらでもある。
どれくらいで明日になるのかはわからないが、明日の運動時間になれば、ぼくはここから呼び出されて広場に転移させられる。
そこでぼくの身の潔白を証明する。
いや、証明しなくてもいいのか。この間に、ぼくが魔王を当てればいいんだから。
「最悪、ぼくを指名して身の潔白を証明して振り出しに戻すで良いから、まずは……」
魔王をぼくは見る。
「ん? なんだい? あ、ついに我とイイことしたくなった? ここは雰囲気もあるし、ヤルには良い場所だよね」
「いや、そんなわけないだろ」
「ちぇー」
いじけてごろごろ二回転がった魔王にぼくは質問を投げかける。
「魔王、ぼくらがこの監獄に転移させられたが、それは何を転移させるものだったんだ?」
ぼくの質問に魔王は、起き上がって、胡坐をかきながらすりよってきながら、姿勢を低くしてぼくを見上げるように言った。
「魂。魂を呼び、ここで肉体を再構成する。この監獄には、数十億の人間の肉体構成成分が保存されているから、それがなくなるまでは、そうやって召喚できる」
「もし、一人の人間が二つの魂を持っていたらどうなる?」
にんまりと魔王が表情を変えた。
「もちろん、その二つが召喚される。そういうところ融通が利かない。片方だけなんてできない。必ず両方。同じラベルが張られたものを取ってきてしまう」
「その話に嘘はないよな?」
「我は嘘をつかない。公明で公正で公平だよ」
「自分でそういうやつは信用できないんだよなぁ」
「他人が言ってくれるわけじゃないからね。自己申告さ。信じる信じないは、君に委託させてもらおう。君は、君自身を信じられるかな?」
最悪だ。
まったく、最悪なことを言ってくれるものだ。
ぼくにぼく自身を信じろだって? まったく、そんなことできっこないってのに。
「じゃあ、ぼくは楽観させてもらうよ。楽観的に、嘘をつかないと思うことにするよ」
信じるではなく、思考放棄。
考えることなく、思考放棄。
言われるままに、思考放棄。
それが正しいと思うことにする、楽観。
「いいね、ますます我好みだ」
「魔王に言われても嬉しくないよ」
「でも、美女に言われるのはうれしいだろ?」
「…………」
「はは、正直者め。ほかに聞きたいことはないか?」
「どうせ教えてくれない質問しかないですよ」
ここにいるのは何人か、だなんて質問しても答えられない。
「スリーサイズとかなら答えるぞ?」
「……」
くっそ、少し知りたいとか思ってしまったじゃないか。
「あ、それよりか自分で触って確かめたいと。いやぁ、男の子だなぁ」
「誰も言ってないし」
「ふふ、照れるな少年。いや、照れていい。かわいいからな。年下はからかって遊ぶのがやはり良い」
「反逆されてわからされろ」
「はっはっ、いいね。それもまた好みだ」
「こいつ無敵か?」
「最強で、最上で、最悪なだけだよ」
そういえば、最強で思い出すが。
「最強ってスリロスと被ってるよね」
「あれは、強いことでの最強だろう? 戦う上での戦闘性能においての最強。確かに、こと戦闘に限って言えばスリロスはこの我すらも凌駕する。戦闘最強」
そう、その一分野に限ってはスリロスはこの魔王ですら凌駕する最強っぷりだ。
一芸特化といえばいいのだろう。そも最強なんてそれくらいでなければ話にならないのだろうが。
「だが、我は違う。我はすべての分野において、万能という分野において最強。戦闘だけに限らない最強だ。だからこそ最強を名乗れる」
「それでいいのか、最強って」
「それでいいんだよ、最強だなんて。自他が勝手に言ってるだけさ。そもそも強さだなて曖昧で、漠然として、相対的なものを定義しているんだ、どんなに混沌とした状態にしたって、いくつもの最強が連立してしまうのさ。なんだったら、全人類が最強だよ。君だって楽観最強だ」
「なんだ、そのみんな違ってみんないいみたいな、みんな最強でみんないいみたいな理論は」
「はは。最強なんて、突き詰めなくてもそんなものというだけの戯言だよ。というか、君が被ってるとか言ったからじゃないか」
「それは、そうなのですが」
気になったのだから仕方ないだろう。
やれやれ、ぼくって奴はいつもいつもついつい口について一言余計を出してしまうんだから。
「それじゃあ、不死身は?」
「あれはまた趣が異なる。何故死なないのか、何故死ねないのか。アレは生物としては出来損ないも良いところ。完全を得る前に不完全を得て、不死身になってしまったのだからどうしようもない」
「まるで意味が分からないのですが」
「意味はないということだよ。どのみち、我好みの少年ではないというだけの話さ」
「えぇ……」
「我は浮気はしない主義だ」
「なぜそんな話が急に出てくるのか」
「あの不死身に懸想は一切していないということだ」
「…………」
「喜べ」
「えぇ……」
「ちなみに、我は今下着をつけていない」
「…………」
「おっ、喜んだな」
くっ。
「そんなことより」
「声上ずってるぞ」
くっ。
「そんなことより」
「言い直すとなおのこと無様だな」
くっ。
「そんなことより。とりあえず、最後に聞きますよ」
「なんだ?」
「この監獄には最初に何人いたんですか」
「自明なことを聞くなよ。この監獄は、必要な分しか用意しない。なら、わかるだろう? わかりきったことだろう。わかりきりきり舞いだろう?」
「本当に不要なものは用意しないのか? 証拠は」
「証拠はない。君が君自身を勝手に自己満足にただ単に信じられるかだよ。我の言葉を信じる信じないは、我を信じる信じないではなく、君が君自身を信じられるかなんだから」
「なら問題ないな」
ぼくはぼくを信じない。
けれど、楽観はする。
たぶんそれは正解なんだろうなと楽観する。
楽観すれば、まあ答えも楽観的でいられる。
間違っていると不安にならずに済む。
「ああ、まったく」
「――最悪だなぁ」
「人のモノローグをとらないでくれ」
「はははは」
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