第13話
階段を下りた先も部屋になっていて、やはり扉があるものの鍵がかかっている。
部屋の中央には装置があって、謎解きをしないと次に進めないようになっていた。
「うーん、いろいろな模様のパネルが付いた装置がある」
あるが、操作できるようなものじゃない。
ぼくの側ではなく日日無敵の側であることに違いはないようだ。
さっそく日日無敵に呪符で念話をつなぐ。
『チッ』
さっそくの舌打ちだった。
ぼくは、躊躇うことなく彼にぼくの方の部屋の状況を説明した。
『こっちには、模様パネルがあって、スイッチが五個ある装置がある。スイッチを操作すると模様パネルが動く』
「あー、そういうやつね」
こちらの模様パネルがヒントというか答えだ。
ぼくの側の模様パネルの並び順になるように、日日無敵の側を操作してやればおそらくは鍵は開く。
ぼくの側も、彼の側も。
あるいは、別の謎解きがでてくるかもしれないが。
そこは開いてくれることに楽観しておこう。
「じゃあ、こちらの言う通りになるように操作して」
『チッ』
舌打ちするけど、指示には従ってくれるんだよな。
「無敵って案外、素直だよね」
『アァ?』
おっと藪蛇。いや、余計な一言だ。
完全に気を抜いていた。
気を付けなければならないだろう。ぼくの口って奴はたまに余計な一言を頻繁に漏らすから。
『先に進むために仕方なくだ。勘違いするな』
ツンデレなのかな。
念話が切れる。
同時に扉も開いた。
ぼくは肩をすくめて、扉をくぐる。
また通路だ。
「うーん、これどれくらい続くんだろうか」
それにこの程度の謎解きならば簡単というか、リスクがあまりにもない。
刑務作業はデスゲームとぼくは思っていたのだけれど、それは勘違いだったのだろうか。
いや、それなら鬼ごっこでリリス・夢咲が破裂させられたのはなんだったのかということになる。
この宝探しも同等の何かがあるとみるべきだと思う。
謎解きにも命の危険が伴うような事態になっていくのではないか。
「ああ、嫌な予感がする」
どんなに楽観しようとしても、ぼくの嫌な予感だけは当たる。当たってしまう。
『おい、部屋についたか』
考え事をしていたら、日日無敵の側から念話が入った。
珍しい。
通路を確認すれば、扉があった。
「今はいるところだよ」
『そうか、どうなっているのか教えろ』
「? まあ、わかった」
さて、何が待ち受けているのやらだ。
部屋に入る。
そこは黒い部屋だった。
いや、煤けた部屋だ。空気が煤けている。まるで何かを燃やしたかのような塩梅だ。
壁なんかを見てみればわかったのだが、何らかの機構があってそこから炎が噴き出したような、そんな感じだ。
デストラップみたいだ。
他に何もない。装置があるわけでも、どこかにつながっているということもない。
何かあるわけではない。
なんだったら、ぼくの側は扉が開いている。鍵すらかかっていない。
そんなことを日日無敵に伝える。
『炎か。わかった』
そして、一方的に念話を切られた。
「なんなんだ?」
と思っているとポーンという音がして、上からディスプレイが下りて来た。
ここ割とファンタジックだったから、違和感がすごい。異物感がすごい。
九つある世界をひとまとめにでもしている影響とでもいうのだろうか。
そのディスプレイには何が映っているのかと思えば、日日無敵だった。
日日無敵の側の部屋の様子が映っている。
こちら側の黒く煤けた部屋と違って、真っ白な部屋だった。
ぼくは嫌な予感を感じた。
その予感は直後に的中する。
日日無敵の部屋が炎に包まれた。
一切の容赦なく、一切の猶予もなく、一切の逃げ場もなく。
その部屋は完全に炎に包まれた。
ここでぼくは理解する。理解した、させられたというべきか。
この部屋、ぼくの側。
この黒ずんだ部屋は、日日無敵の側の未来図だ。
日日無敵の側は一定時間後にこのようになる、だからなんとかしろ。
それがこの部屋の意図であり意味。
突然、牙をむいてきたデスゲームのデスにぼくはもう混乱通り越して、呆れも通り越して、混沌に叩き込まれた気分だ。
ぼーっとただ日日無敵が何もせず焼かれていくのを見ていくことしかできない。
ここで日日無敵が死んだ場合、ぼくはどうなるんだろうと考えている自分に多少の嫌気はさすが、仕方ないだろう。
ぼくはどんなに楽観してもぼくが一番かわいいのだ。
ここに閉じ込められたら待っているのは餓死だ。
餓死はきついと聞く。
いくらぼくでも、いいやぼくだからこそ。
こんな穴倉の底に閉じ込められたまま死ぬのは、死んでもごめんだ。
死ぬときは一番自由な時が良い。
そして、その時はもうとっくの昔だ。
この監獄に来てから、ぼくの自由はない。だから、ぼくはこんなところでは死ねないし、死にたくない。
「よし」
覚悟はこんな感じでいいだろう。
楽観的過ぎるかもしれないけれど、ないよりはマシって奴だ。
ただそんなぼくの覚悟もどきをあざ笑うかのように、日日無敵は無傷で立っていた。
おかしい。ほほを引っ張る。痛い。夢ではない。
ならばこれは現実だ。
トリックか?
ぼくは、確かに日日無敵が燃え尽きる様を見ていた。
見ていたはずだ。
ぼくがなんらかの幻覚でも見せられていない限り。
映像がなんらかの加工を受けてでもいない限り。
誰がなんと言おうと、世界がなんと言おうと、問答無用で日日無敵は死んだ。
炭になって崩れるところまで見たはずなのに、どうして彼は生き延びているのだ。
いや、良そう。
ぼくはその理由を知ってはいる。
知ってはいるけれど、納得はできていない。
「…………」
無言で念話をつなぐ。
『チッ……なんだ』
なんだではない。なんだでは。
「なんで無事なんだ?」
『言ったはずだぞ、ボクは無敵の不死身だ』
ああ、言っていた。
確かに言っていた。
言っていたとも。
言っていたけれど、本当に、本当の意味で、本気で不死身だということか。
死なない人間。
それが日日無敵だとでも言うのか。
「それは、そうだけど……」
『炎が噴き出すのはわかっていたから、術式で防御したが貫通された。おい、貴様、その部屋には本当に何もないのか?』
「え、いや、たぶん?」
よく調べたはずだけれど、見落としたものでもなければ――。
「あっ」
よく見たら、床にハッチのようなものがある。
本当によく見て、目を凝らさなければわからない程度であるが、確かにハッチがあり、中に入れるようになっていた。
中は、綺麗なままであった。
なるほど、本来はここを見つけて知らせなければならなかったわけか。
『貴様、ここから出たら殺すぞ』
「い、いや、でも、アレで死なないなんで、本当に不死身なんだね!」
全力で話を逸らすことにした。
ここはもう言葉で押し切るしかない。
押し切れ、ぼく。
どんなに楽観したって、日日無敵が、不死身の存在が、死なない存在が、敵に回ることは避けなければならない。
終わりがあるなら、耐えられるが、終わりがない、果てがない、ピリオドが打てないのなら、我慢できるはずがない、耐えられるはずがない。
ぼくはそれほど強くないのだから。
『言っただろうが、不死身だ。何をしてもボクは死なない』
「不死身と言われて、はいそうですかって信じられるわけないよ」
証拠を見せられない限りは、ペテンの可能性すらあるし。
そもそも二つ名かなとも思っていたのだ。
どんな戦場からも生き残るが故の不死身だとか。
そんな感じの二つ名。称号。呼び名。
そんなものだと思っていた。
まさか、本当に、間違いなく、正真正銘の本物の不死身だとは想定外。
いや、これに関してはいろいろなところで歪や歪みを生むようなヤバイ奴だ。
デスゲームにおいて、死なない存在なんかが参加していたら、それはもうデスゲームのジャンルではなくなる。
別物に切り替わる。
『そんなだから、無駄なんだ貴様は』
おっしゃる通り、彼にとって、日日無敵にとっては、ぼくなんて、本当に無駄なのだ。
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