第6話
「あたしちゃん、殺人鬼だし」
ひどいカミングアウトだが、予想外というほどでもなかった。
バラバラにするといっているのだから、それはもう予想の範疇だ。
確かに、ぼくが楽観していたように、疑わなかったように、視野にいれなかったように。
幼女という生き物は、疑いという領域からほど遠い存在だ。
子供には何もできないだろう。
子供だから理解していないだろう。
子供がそんなことするはずない。
そんな思考が前提にある。
楽観ではなく、前提で、決めつけだ。
ぼくもそう決めつけて、そう思って、そう楽観して今に至るわけだから、リリス・夢咲の擬態は完璧だったということ。
「はい、あたしちゃんの自己紹介は終わりだよ」
「いや、まだ聞きたいことがあるなー」
「ダーメ。お兄ちゃん、時間稼ぎしているみたいだけど、無駄無駄無駄だよ。お兄ちゃんに味方はいないし、敵しかいない。敵の敵は味方なんてことはないんだよ、お兄ちゃん」
「いやいや、今度はぼくのことを話さないとなって。ほら、こういうのってお互いに知り合った方が気持ちいっていうじゃないか」
「んふふ、そんなことはないんだよー、お兄ちゃん。だってぇ、一番気持ちいのは、エッチをしながら、相手を殺すことだもん」
なるほど、そういう輩でしたか。
彼女にとって性欲こそが殺意だった。愛おしく快楽を求め、そして殺す。
疑似体験ではもはや満足ができない。殺しながら行う性行為のなんと甘美なことか。
そんなものであることをこの時、ようやくぼくは理解した。
「いやいや、でもまだ聞きたいことあるし」
「えー? あっわかった! エッチなビデオの最初にあるインタビューみたいなことしたいんだ! もー、それならそうと早く言ってよ~」
まったくもって違うけれど、ぼくとしてはそう思われた方が都合がいいから、そのまま続行しよう。
「うんうん、実はそうなんだよ。ぼくってそういう方が燃える性質で」
「うんうん、いい勃ち方だよね」
「うんうん、じゃあ聞くけど」
「初体験はね、両親のベッドだよ」
聞いてねえことを言い出した。
「初体験の相手はー、パパとママだよ、お兄ちゃん」
「なぜに、そんなことになったんだ」
「ほら、よくあるでしょ? 夜に起きてトイレにいこうとしたら、パパとママがずっこんばっこんやってるの」
ずっこんばっこんやってる言うな。
「それで、それを覗いちゃって」
「見つかって?」
「いいや? あたしちゃんもやりたーいって混ざりに行ったの」
純正ですね。いや、真正か。
「えへへー、それでパパが勢い余ってママを殺しちゃって」
「それは怖いね」
「ううん、とってもママが気持ちよさそうにしててさー」
それは何か薬でもキメていたのではないだろうか。
「それで、あたしちゃんもパパ相手にやったんだー。本当に気持ちよくてぇ。病みつきになっちゃった」
「なーるほどー……」
それがリリス・夢咲の源泉で、原点で、減点ポイントだ。
とんだ殺人鬼が紛れ込んでいたものだ。
これでどうやって魔王を討伐するつもりだったのだろう。選考基準を知りたい理由が増えてしまった。
「自慰は毎日百回!」
「うーん、スゴイネ?」
「ここをねー、こうしてねー」
「やって見せなくていいよ」
「えー? ほんとにー?」
「ホントウホントウ」
とかくリリス・夢咲はもう我慢できないとぶかぶかの囚人服を脱ぎ始めた。
その下には何もつけていなかったようで、すぐに素肌が晒される。
傷もシミもシワも何もない。
瑕疵の皆無な肉体は、機械で作られたものなのだろう。
それだけに肉感的な生々しさよりも、アート作品のような感慨を受ける。
あまりにも精工に過ぎて、あまりにも緻密に過ぎて、あまりにも完全に過ぎて、これはもう人の身体というよりかは、芸術作品だと思ってしまった。
「んふふ、いいでしょー。綺麗な体でしょ。これからぁ、お兄ちゃんが最後に感じるとーってもイイことする躰なんだよ」
「ぼくは年上のお姉さんが好みなんだけどなぁ」
「なら、あたしちゃんはぴったり。あたしちゃん、お兄ちゃんよりも年上だもん」
「そういう意味じゃないんだけどなー。じゃあ、言い直すよ。もっと大きなお姉さんがいいなぁ」
「じゃあ、こういうのはどうかなぁ」
リリス・夢咲の身体が開いて、いろいろ大きなものが出て来た。
砲台、いや砲塔といった方が正しそうなブツ。
それがリリス・夢咲の華奢な腕の先に展開された。
「ほーら、大きくなった」
うむ、確かに大きくなった。体積的な意味で。
そういう意味ではないけれど、こういうメカメカしいものもまた男の子の心をくすぐるのは間違いではない。
ガチャガチャして、ガシャガシャして、カチャカチャした変形は、とても好みだ。
音もとてもよかった。
むしろこれだけでもいいかもしれない。割と満足である。
「むぅー、不満だなー、あたしちゃんを前にして、こっちの方がいいだなんて、不満満天の満点だよ、お兄ちゃんはデリカシーがないんじゃないかな?」
「失礼な」
ぼくほどデリカシーであふれた人間はいないというのに。
いや、デリカシーが何かを正確に理解しているとはいいがたいけれども、そういわれたならばそう返す方が良いと思うわけだ。
「ちゃんと男の子が反応してますよ」
もっともそれは彼女の望む男の子ではないのだけれども。
「むー」
不満そうだ。そろそろ限界かな。
ぶっちゃけるとぼくも限界だ。冷静ぶって会話を続けるのがキツい。
声が震えそうだし、叫びだしそうになる。リリス・夢咲がいるからしないけれど。
「まっ、いっか! 無理やりってのが、イイんだからね」
リリス・夢咲がぼくのスボンを下しにかかる。
もちろんどうにかこうにか抵抗しようとしたところで無駄の無駄の無駄である。
あえなくズボンを下されてしまう。
「んふふ」
実に楽しそうだ。
「ここかー!」
まあ、そんなこんなしている間にスリロスが登場するわけだが。
壁をぶち破り、あの半裸はぼくと彼女の惨状に参上した。
「よーし、見つけた…………」
それからまるで逆回しのように帰っていこうとした。
「すまん、邪魔した!」
「いや、邪魔じゃないから、助けてくれ!」
「いや、ほらオレ様はこういうのはジャンル違いなんだよ」
「何がジャンル違いかはわからないけれど、助けてくれ」
「人に見られながらってあたしちゃんも初めてだけど、興奮するね!」
「ほら、人の性癖ってのは人それぞれだしな。オレ様はそういうの理解あるんだ」
明後日の方向を見て、耳をふさいで、ぼくらの惨状を見ないようにしている半裸は、まったくもって役に立たない。
鬼の自覚があるのだろうか。
「理解あってもなくても、助けてくれ」
「いや、助ける理由ないだろ。最終的にオレ様以外全員殺すわけだからな。ここでオマエが死のうが、そいつが死のうがオレ様的には何も変わらねえ」
絶句、とまではいかないまでも続ける言葉を失った。
ただ、考えるまでもなくそうなのだ。
自称最強にとって、いやぼくも評する最強にとって、スリロスにとっては、ぼくらの生死などというものは関係がない、関心がない、勘定に入らない
最強にとってその辺を歩いているアリなど気にする余分なんてないのだ。
だから死のうが生きてようが関係ない。自分の手間が減った、それくらいだろう。
助けを求めるのはダメ。
ならこの思考はダメだ。楽観的に他力本願をしてもダメ。
だったら、別の方法だ。
「そっか、自信がないのか、最強は。この幼女に。いかにも強そうな砲台を手にくっつけたスーパー幼女に勝つ自信がないんだな、最強は」
「は? おいおいおい。そいつはよォ、聞き捨てならねえなァ、そいつはよォ!」
お願いしてダメなら、煽れだ。
見たところこの男は最強を自称するプライドの持ち主だ。こういうタイプは煽れば動く。
自分の最強に誇りがあるのだから、その誇りに傷をつけてやれば、そいつはいとも容易く動いてくれる。
そう楽観する。
きっとおまえは勝つ自信がないだとか、誰だ誰より弱いだとかいう言葉を聞き流すことなど、我慢することなど、受け入れることなどできやしない。
「ハッ! 良いぜ、見せてやるよ、オレ様は強えェからなァ!」
ぼくの楽観通りに自称最強が動く。
いやぼくが認識で正確に言うならば、動いていた、だ。
遅れて轟音が響いて、ぼくの上からリリス・夢咲は吹き飛んで壁に大穴を空けて吹っ飛んでいた。
「見てろ、オレ様の最強を」
楽観できない最強の最強である所以を見せつけられる。
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