第20話 Ah! Saint-Quentin !
1557年3月
フェリペは1年半振りに英国に戻った、
が、しかし、長居は出来ない
一刻も早く英国を参戦せしめ、戦線のフランドルに戻らねばならぬのだ
・・国境で小競り合いが始まったか・・
フェリペの父皇帝カール5世が
フランスの将軍ギーズに大敗を喫し、
メッスを奪われたのはつい5年前。
その宿敵フランスが力を溜め、またもや襲いかかろうとしている。
・・一刻の猶予も・・
ロンドンに到着したフェリペは、真っ先にメアリー女王に会った。
重要事項がもう一つ。
女王の齢は40に手が届き、
・・まるで老婆、子作りは大丈夫か・・
1年半見ぬ内に女王は10老けたようだが、
フェリペは挫けない。
夜、
フェリペは、服を脱ぐ。
女王は、若い夫の腕の中で、英気を取り戻す
昼、
二人は議会、枢密院に詰めた。
3か月間、フェリペは夜も昼も働く。
英国は正式に参戦を決めた。
女王にも子種の兆候が現れたようだ。
・・主よ、神の御加護を・・
1557年7月
英国を再び発つフェリペ
お腹をさすりながら手を振る女王
・・今度会う時は、この子と2人で・・
慌しくあっという間の滞在だが
女王は幸福である。
・・
さあ緊張高まるフランドルに場面を移す。
フェリペ2世が到着して間もなくの
1557年8月
戦局が大きく動いた。
大立役者は、
サヴォア公エマヌエーレ・フィルベルト、
エリザベスが結婚を拒否した
あの領土無き(惨めな)王である。
運命の場所は
フランスの要塞サン・カンタン。
エマヌエーレ公の身体が火照る
・・何と、本当にサン・カンタンに
敵幹部が勢揃いしてるのか!・・
公の情報は正しい
軍トップであるモンモラシー大元帥を筆頭に
サン・タンドレ元帥
シャルル・ド・ブルボン大公、
と錚々たる面々が集結していたのだ。
フェリペ2世はエマヌエーレに命令する。
「英国軍4万8千人を確保した。朕が到着するまで、くれぐれも攻撃をしかけるなよ。良いな」
フェリペは公の勇み足を
心配した。
何しろ、目の前にフランス軍が、
先祖代々の領土サヴォアに
今もなお、占拠しているフランス軍がだ。
公は、
理性を抑えるが出来るだろうか?
カッとなって無謀な攻撃をしやしないか?
・・頭を冷やせ、エマヌエーレよ。
朕を待つのだ・・
フェリペはそう唱えながら急ぐ
・・Vamos! Saint-Quentin(サン・カンタン)!・・
・・
しかしフェリペは公の力量を見誤っている。
公は稀代の天才なのだ。
「皆の者!神はついに我らに味方した。」
・・Vamos ! Saint-Quentin !・・
公は速やかにサン・カンタン要塞を包囲する。
天下に轟くサン・カンタンの砦は、
実は何年も補修されてない欠陥だらけで
この要塞を強引に攻めても勝機がある。
という事は、
・・フランス軍も不安を抱えている筈・・
しかも兵力は
フランス軍2万2千人に対して
エマヌエーレ公軍3万5千人
と公の軍が上回って居るのだ
そしてここが重要だが
そして恐怖のギーズ公はまだイタリアだ。
・・天才ギーズは、意表を突いて明日戻るかも知れぬ・・
・・もしギーズが戻れば勝機は無い、例えフェリペ陛下が加勢してもだ・・
そう考えたエマヌエーレ公は、勝負を急ぐ。
といっても力づくではなく
砦からフランス軍を誘い出すのだ。
8月10日
この日はフェリペ2世の守護聖人
ロレンソの祝日で、
スペイン本国では盛大な祭りの日。
そこでエマヌエーレ公はデマを喧伝した
「皆の者、8月10日は血を流さぬ日とする」
公は数日間は激しく大砲を撃ち
祝日の前日に撃ち方止め、軍を隠し、
フランス軍が出てくるのを待つ。
・・
さて、フランス陣営
総大将モンモラシー大元帥は功を焦っている。
フランス王宮内で擡頭するギーズ将軍を
出し抜くチャンスを窺ってるからだ
奇妙だが敵エマヌエーレ公と思惑が一致する。
・・ギーズ公不在の今がチャンス・・
モンモラシー大元帥は、
守備に不安があると分かりながらも、軍の精鋭をサン・カンタンに集結。
ここはフランドルに近く、一気にフェリペ2世の本陣を突く為だ。
だからサン・カンタンには
数日だけのつもりだったが、
そこを天才エマヌエーレ公が
見逃さず包囲したのだ。
モンモラシー大元帥は歯軋りする。
・・エマヌエーレ公は何という馬鹿者だ。この砦を取り囲むなど、忌々しい。我がフランスに投降すれば、領土の一部もくれたものを!・・
大元帥もフェリペと同様、
公の力量を舐めていた。
そして繰り返すが、
ギーズが戻り、大元帥の手柄を横取りされるのを恐れた。
そして愚かにも公が放ったデマを信じ
突撃のチャンスと判断してしまったのだ。
8月10日早朝
大元帥は、4人の息子の前で
「愛する我が息子達よ。今日は大事な決戦の日だ。ここから、一気にフランドルを攻め、フェリペの首を取るぞ!」
そして、大元帥は息子達に赤を注いだ
「杯を、高く挙げろ!
我がモンモラシー一族の為に!
Allez !(乾杯)」
「Allez ! Saint-Quentin!」
大元帥は雄叫びと同時に砦を出た
結果は、フランスの歴史的大敗。
スペインの死者はたった500人に対し、
フランスはその10倍以上の兵が
惨たらしく殺された
名だたる将は全員捕虜にされ、
大元帥も、その息子達4名全員も
生き恥を晒した。
この勝利でエマヌエーレ公の名は
欧州世界に轟かす。
・・
ロンドンでは、この勝利の報せに
大いに歓喜する
・・サン・カンタンが落ちたとな!
ではパリまで僅か150㎞!・・
ひょっとすると
宿敵フランスまでもが
英国の支配下になるかも知れない。
女王は目を閉じた
・・見よ、皆の者、スペイン王との結婚は
神に祝福された。正しい選択だったのだ。
我が治世で英国の栄華が始まる・・
女王は少し大きくなったお腹を優しくさする。
・・坊やは、フランス王になるかもねえ。
良い子、良い子や・・
・・
この勝利で二人の女性の意識が変わった
まずはメアリー女王。
なんと自ら提案したエマヌエーレ公とエリザベスの結婚に難色を示したのだ
エマヌエーレ公如き小人物は
この戦争で野垂れ死ぬと予想したが、
もう、フェリペ2世の咬ませ犬ではない。
これでは、結婚すれば、却ってエリザベスの地位は向上し、英国王に即位するではないか!
メアリーは、お腹の子の為にも、エリザベス廃嫡の準備を始める
もう一人は
フランス王妃カトリーヌ・ド・メディシス
彼女は実家復興の為に、ギーズ将軍をイタリアに派遣していたが、この敗戦で呼び戻す。
さてフランスきっての天才ギーズ将軍だが、
並の将軍ならば、サン・カンタンの敗戦を取り戻すべく、単純にフランドルを攻めたであろう。
しかしギーズは違った。
・・次の戦では、サン・カンタンの敗北を忘れさせる程のインパクト(勝利)が必要・・
すると意外な場所に総攻撃を加えた
そしてこれが、
メアリー女王の運命を決定づけてしまう。
1558年1月の事だ・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます