第5話 悲劇の女王の序章
1553年2月6日
弟王エドワード6世が
苦しそうにベッドで横たわっている
姉メアリーとジョン・ダドリーが
入室し、声をかけたが反応がない
姉メアリーは
ベッドに身を乗り出し
弟王に顔を近づける
荒れる息、尋常じゃない汗
・・弟はもう長く無いな・・
そう確信すると
姉メアリーはジョン・ダドリーに背を向けた
「メアリー様、どちらへ?」
しかし、姉メアリーは答えず無言で退出した。
ジョン・ダドリーは1人部屋に残される。
・・無視?嘘だろ?危険を犯し、王に毒を盛り続けたのだぞ・・
ジョン・ダドリーは少し苛つく。
・・エドワード様が倒れる迄一年半かかった!何か一言あっても?・・
しかも本日は姉メアリーの今後について秘密裏に確認すべく
次姉エリザベスのロンドン入城を急遽差し止めたのだ
これはプロテスタント陣営に囲まれて居る
ジョン・ダドリーには危険な行為だ
・・きっとメアリー様からお褒め頂き、今後の処遇の話しが・・
なのに姉メアリーは
用意していた夕席を断り、
ダドリーに声をかける事なく
そそくさと自身の居城ハンズドンに戻ってしまう。
・・いつもならば、俺を呼びつけるのに・・
ジョン・ダドリーの不安が募る。
「俺はもう用無しか・・」
・・メアリー様は、まさか、私を処刑するつもりなのか?・・
そういう事もあろうかと、ジョン・ダドリーは力を溜めていた。
ジョン・ダドリーは8歳の頃から戦場に出た英国屈指の将軍。
そこに護国卿の特権を生かし
領土を増やし、付け焼き刃ながら
兵の充実を図っていたのだ
・・時が来れば、偽りのロザリオを叩きつけ、プロテスタントの将としてメアリーを戦場で討ち取ってみせよう・・
・・しかし武力だけでは勝てない。メアリー様は正当な王位継承者。それを覆さなければ・・
春が訪れる。
エドワード6世の体調は回復し、政務に復帰した。
ところがこの時
王の余命は持って3ヶ月と宣告される。
・・時間が無いぞ・・
ジョン・ダドリー護国卿は
「国家の大事だから」と
医者に強く口止めし、姉メアリーにも告げず、作戦を練る。
・・このままだと、次の王はメアリー様だ。
さすれば用済みの私は処刑される。
3ヶ月しか無いぞ!急がねば・・
ジョン・ダドリーは震え上がる。
・・手を打つのだ、何かないのか?メアリー様を継承者から外さねば・・
ダドリーは目を粉にして家系図を眺める
・・メアリー様の次の継承者は、
次姉エリザベス様。
しかし、エリザベス様も信頼はおけぬ。
では、誰を王にするべきか?
エリザベス様の次の継承者は?・・
ダドリー護国卿は先代の父王ヘンリー8世の遺言書と議会の承認書を何度も見返す。
・・王位継承者第3位は、、、
先代父王ヘンリー8世の妹君(ややっこしいが名はメアリー)だが、もう他界されている。
となると、その娘フランセス様が第3位かあ。
しかし
フランセス様は、メアリー様と親しいから危険だし・・
「それにしても、このチューダー家は、何故、女性ばかりが継承者なのだ?」
ジョン・ダドリーは家系図を見てふと気づく
「そう、女性しか後継者はいない。。」
「そうか、閃いたぞ。女性が王ではダメだ!
これでメアリー様に勝てる!これしかない!」
・・
数日後
ジョン・ダドリー護国卿は
エドワード6世に余命を告げた。
「おお、余命3ヶ月か・・」
医師の診断書を見てエドワード6世は
肩を落とし、しばらく目を閉じた
「・・あゝ次の王は姉メアリーだのう」
エドワード王は肩を落とし溜息をつく。
ジョン・ダドリーは静かに腹に力を込めた
「その事でございます。それでは、この国はカトリックに戻り、混乱が生じます」
「仕方なかろう。それとも何か策はあるのか?護国卿?」
ダドリーは突然大きい声で言い放つ
「女性は、国王に相応しくありませぬ!」
「・・んっ?、続けよ、護国卿」
「他国の婿に、英国が乗っ取られますぞ!」
「しかし、我がチューダー家には、女性しか、後継者が残って居らぬではないか。姉2人に、従姉のフランセスのみ」
「フランセス様には、娘が3名居ります。この3名は真のチューダー家でございます。」
「それで?なんじゃ?」
「彼女らを先ず女王とし、男子を産めば、その
男子を王にするのです。この理屈であれば、メアリー様の王位継承を阻止できます」
「成程、その娘は未婚だが?どうす・・」
「恐れながら、私ジョン・ダドリーの息子との婚姻をお許し下さい」
「なんと!そちは!ごほっ、ごほっ・・」
エドワード6世は血痰を吐いた。
・・確かに、護国卿の言葉に一理ある。
姉メアリーが王に即位すれば、我が英国はカトリックに戻るばかりか、スペインに飲み込まれてしまう
ならば、プロテスタントの将で、英国人の、このジョン・ダドリーに・・・
「(已むを得ん!)ジョン・ダドリー護国卿よ!了解した。急ぐのだ!」
こうして、
1553年5月
フランセスの娘3人全員が、相次いでジョン・ダドリーの息子や弟と結婚する
枢密院メンバー始め、貴族達からこの露骨なダドリー家のやり口に反発が上がるも
花嫁の衣装はエドワード6世が提供し
不満を黙らせた。
エドワード6世も必死だ。この時点で余命はもう1ヶ月しか残ってないのだ。
3組の結婚式は無事終えた。
・・
ダドリー1族と結婚した
フランセスの娘3名の中で
美しい17歳の娘が居た
名をジェン・グレイと言う。
彼女は、この露骨なダドリー1族との
慌しい縁談に戸惑っていた。
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