第4話 没落ものの覚悟
1551年夏
ロンドン郊外
英国王エドワード6世が
兵士達の先頭を颯爽と馬を駆る
「おう、護国卿殿!
そなたは幾千の戦場を潜り抜けた
強者であろうが?さあ、どうした!
まだまだこれから! Sir! Sir!」
ジョン・ダドリーは溜息をつく
・・見事な手綱捌き、兵の統率、
もうおままごとではない
エドワード陛下は既に王ではないか・・
青年王エドワード6世
10歳で英国王に即位し早5年、
既に15歳間近だ。
経験値も積み上がり
没落貴族ジョン・ダドリー護国卿より
よっぽど法にも行政にも通じている
ふとエドワード王の横顔が目に入った。
ジョン・ダドリーは息を呑む。
・・おいおい、益々、先代の父王ヘンリー8世に、似てきてないか?体格も、表情も・・
ジョン・ダドリーの父は
かつてこのヘンリー8世に処刑され
名門ダドリー家は没落する憂き目にあった
・・このままでは私も父同様に、この若造に殺されてしまうぞ!・・
・・
さて、姉メアリーは
この弟王エドワード6世に反撃を始めた。
目指すはカトリックの復権だ
1551年1月
ジョン・ダドリーと密会後
1551年2月
根回しの上、ジョン・ダドリーを護国卿に大抜擢し
その直後の
1551年3月
メアリーは早速ロンドンに入場
一気に勝負に出る。
胸にロザリオを握らせた100名程の
老若男女を従えてロンドンを練り歩いたのだ
ホワイトホール宮殿に到着すると
メアリー内親王を先頭に
一斉にミサを行う。
カトリックを禁じた「礼拝統一法」に対する、
白昼堂々の大胆不敵な抗議だ
物々しい雰囲気の中、宮殿の門が開く。
メアリーと数名が入城を許され、
残った者たちは門の前でミサを続けた。
さてホワイトホール宮殿内
程なくエドワード6世が現れる。
すると
スペイン大使シモン・ルナールが
すかさず前に出て跪き
エドワード王が発言しようとしたが
ルナール大使が先に口上を述べた
「偉大なる英国王エドワード6世陛下!」
と懐から手紙を取り出し、
恭しく青年王エドワード6世に渡す
「我が主人、神聖ローマ‘皇帝カール5世’からの手紙を持参致しました」
エドワード6世は無言で手紙に目を通す。
「カトリックを尊重せよ。イェスの使徒エドワード6世よ。我らに相応しいミサを、海上から見守らん」
これは
カトリックを認めねば
神聖ローマ皇帝が英国を攻撃するぞ
と言わんばかりの脅迫ではないか!
弟王エドワードは、何事でも無いように
カール5世の手紙を丁重に封に戻し
笑いながら穏やかに姉メアリーに向き直った
「ようく分かりました。
メアリー姉様は
英国法に従わぬという事ですね。
それで宜しいですよ。
下がりなさい。」
言い終えると弟王エドワードは
瞬間鋭い眼光で
出入口に立つ兵に合図を送る。
兵は慌しく部屋を退出すると
突如、外で物々しい音が鳴り響き、やがて遠くに消えた。
弟王エドワードは穏やかな表情を崩さず
跪いたままのシモン・ルナール大使に
優しい視線を注ぐ
「おお、スペイン大使殿よ、
面を上げられよ。朕はしっかり了解したぞ。
皇帝カール5世陛下に宜しく伝えよ。
姉メアリーの信教は心配しなくてよいとな」
弟王エドワード6世は悔しかった筈だ。
この機会を捉え
「礼拝統一法」違反の罪で
その場で姉メアリーと手下全てを
一網打尽にする腹であったからだ。
しかし予想外の皇帝カール5世の手紙で
出鼻を挫かれ
潜ませていた兵を下げざるを得なかった。
エドワード6世に
皇帝カール5世と戦う力は無い
無念だが姉メアリー逮捕を諦めた。
姉メアリーは目的を達すると
上機嫌で宮殿を後にする
弟王エドワードは
終始穏やかで笑顔を絶やさず姉メアリーに
労いの言葉をかけている
そんなエドワード6世の表情を
ジョン・ダドリー護国卿は不気味に感じた
・・エドワード王がメアリー様逮捕に兵を準備している事は
事前にメアリー様に知らせていた。
だから、エドワード王の撤兵は計算の内だ。
エドワード王は皇帝カール5世の手紙に驚いた筈。
しかし、エドワード王は何故動揺しないのか?何故笑顔でいられるのか?・・
・・
冒頭はそんな事があった半年後の
狩猟のシーンだ。
逞しくなったエドワード6世の背中を見て
ジョン・ダドリー護国卿は決意する
「もうやるしかない」
ジョン・ダドリーは
その日の夜の食事から始める事にする。
ゆっくりと、しかし確実に効く秘薬。
恐れ多くも英国王に毒を盛るのだ
・・
姉メアリーは
ホワイトホールに乗り込んだ後に
ジョン・ダドリーを呼びつけていた。
「ダドリー護国卿よ。
あのチビ王に、カトリックを認めさせたぞ!」
「・・・・・」
護国卿は返答せず跪いたまま動かない。
「しかし、それは、私がやったのだよ
ジョン・ダドリー護国卿さん?
そなたに期待できないからのう」
「・・・・」
ダドリーは俯き冷や汗をかく。
「おお、
忘れては居らぬと思うが、
念の為申すぞ。
私は英国王第一継承者だ、分かっておるな」
「はっ!え!」
ダドリーは目を閉じたまま、思わず天を仰いだ
「分からぬか?ダドリー?
だから私はいつ英国王に即位する?
と聞いておるのだ」
・・何て恐ろしい事を
メアリー内親王が第一継承者・・
エドワード王の次はメアリー王・・
要は、弟王エドワード6世を殺害せよと
そう命じて居るのか?
あゝ、
もしやらねば俺が殺されるのだろう。
しかし、、、殺そう(やろう)!
やる(殺す)んだ!
メアリー様の為ではない、
ダドリー家の為、
父の敵討ちの為・・
・・
さてエリザベスは
こんな恐ろしい企みなど露知らず
次の年の1552年3月
200名の強者を引き連れロンドンに到着
湧き上がるロンドンっ子達の歓声
屈強な男達を後ろに従える清楚な美少女の姿は
すっかりロンドン民衆を虜にしていた。
しかし
エリザベスは
自分が雇ったジョン・ダドリー護国卿の
裏切りにまだ気付かない
ましてや弟王エドワード6世に
毎晩毒を盛っているなど
想像すら及ばない
だからこそ、
今回の行進に
エリザベスは
裏切りのダドリー護国卿に
行列のトップに据える栄誉を与える。
この時エドワード6世は
毒が盛られ既に半年経過していたが
まだ体調変化は無いようだ。
そしてそして更に一年が経過
1553年2月2日
遂に運命が訪れる
エリザベスはこの日
兵士を500名揃えて
居城ハットフィールド宮殿から
ロンドンに向けまさしく出発する矢先だった
そこにエドワード6世からの急使が。
「エリザベス内親王、申し訳ございません。
エドワード王からのご命令です。
この度のロンドン入城は中止なさるよう」
エリザベスはそこで初めて異変に気付く
しかし状況が分からない。
・・あの弟王エドワードが私に来るなと命令?そんな筈が・・
手下をロンドンに送り確認させたところ
エリザベスは驚いた
「え?メアリー姉さんは2月6日に
弟王エドワードと会ったの??
私が出発しようとした4日後に?
すると
やはり弟王エドワード自らの御意志で
私の入城を拒否したの?何故?」
そして更に衝撃的な事実が
「弟王エドワードが倒れられた??
本当ですか?それは?・・はっ!?もしや?」
エリザベスは
姉メアリーに出し抜かれた事を知る
・・私のロンドン入城を断ったのは、やはり弟王エドワードの意思ではい。それに姉メアリーは2月6日に弟王と会ったのだから、姉メアリーでもない・・
「ホワイトホール宮殿に裏切り者が居るわ」
・・誰なの?裏切りのカトリック教徒は?・・
エリザベスはまだジョン・ダドリー護国卿の裏切りに気づいていない。
・・
1553年2月6日
姉メアリーはホワイトホール宮殿執務室にて
弟王エドワード6世に面会している
エドワード6世は苦しそうにベッドに横たわる
逞しかった筋肉は痩せ衰え
少年に戻ったかのようだ
傍らで姉メアリー内親王が声をかける
「大丈夫かい?弟王エドワードよ?」
メアリー内親王とジョン・ダドリー護国卿は
人知れず目くばせをしていた。
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