第2話 クリスマスの戦い
1549年10月
枢密院のトップである
エドワード・シーモア護国卿が逮捕
行政実務トップの突然の失脚は
カトリックとプロテスタントで揺れている
不安定な政権に緊張感を高めた
・・
「Wow! Oh! Sir! Wow! Oh! Sir!・・」
1549年 クリスマスで賑わうロンドン
2頭立ての瀟洒な馬車が
20名程の屈強な武装集団を従えて行進している
図太い、しかし、調和された掛け声が
底冷えのロンドンに響き渡る。
「Wow! Oh! Sir! Wow! Oh! Sir!・・」
彼らはいかにも荒くれ者の顔付きだが
着衣は白と赤に統一され、
行進は訓練されている。近衛兵のようだ。
「Wow! Oh! Sir! Oooooooh! Sir! Yes! sir!」
ホワイトホール宮殿の前でぴたりと停まる。
武装兵が素早く集まり
赤い絨毯が、馬車の前に手際良く敷かれた
ドアが開く。
現れたのは地味な色のスカート姿
エリザベスだ。
一際目を引く長いストレートの金髪は
当時流行りの派手派手巻き巻きカールに
全く影響されてなく新鮮で清潔感がある。
屈強な男どもが跪いた。
そしてその間に敷かれた赤絨毯を
ホワイトホール宮殿に向かって歩む
宮殿の門が開く
少年が元気よく出てきて
エリザベスに無邪気に抱擁する
「お久しぶりです。質素なお姉さま!」
すると、エリザベスは跪き
少年の靴に接吻をする
「お久しぶりです。英国王エドワード6世」
英国王エドワード6世
彼の父ヘンリー8世が2年前に崩御し、
10歳で英国王に即位した少年王だ。
少年王は王となってもエリザベスを
無邪気に大好きなお姉様として接しているが
エリザベスは弟を英国王エドワード6世として距離を保ち
礼儀をわきまえる。
正妃を6人も変えた父ヘンリー8世。
彼の子供3人は全員母親が違う
3人姉弟の中で
4歳違いのこの下の2人は仲が良い。
幼き頃
姉エリザベスは優しく弟エドワードに
勉強を見てやったものだ。
がこの時エリザベスは企んでいた。
綺麗な挿絵がある"時禱書"を
絵本の様に
エドワードに興味を持たせ
巧みにエドワードを
プロテスタントに傾倒させたのだ
しかし英国王第一継承者である長女メアリーはカトリック教徒
つまり現在の英国王
末っ子のエドワード6世に
‘何か’が起これば
次の英国王は長女メアリーが即位する。
なので
カトリック勢力は
このメアリーが希望の星だ。
・・
エリザベスは立ち上がりエドワード6世と並んで
ホワイトホール宮殿に入る
エリザベスは弟王にそっと囁いた
「陛下、姉メアリー内親王の事は気になさる事はございません。
陛下は正しい“選択”をされたのですから。
神の御言葉を信じるのです。
この国を正しく導くのは神父の言葉ではありません。聖書に込められているのです」
・・このクリスマスに先立つ半年ほど前の
1549年5月「礼拝統一法」施行。
これが少年王エドワード6世の正しい“選択”だ。
英国はプロテスタントの国だと表明したのだ。
これにより、全国の教会は
プロテスタントを基本とする"時禱書"に
従って礼拝される
「キリストの教えは聖書にのみある。
空中からパンを取り出すような
馬鹿げたローマカトリックの礼拝は異端」
と断定したのだ
長女メアリーは猛反発し
神聖ローマ皇帝カール5世へ連絡を取る。
面倒な事になった。メアリーは
外圧カードを切ったのだ
皇帝カール5世は
ドイツとスペインを支配する
ハプスブルク家のトップであり
メアリーと血縁関係にある。
メアリーは皇帝カール5世を通じて
ホワイトホール宮殿を脅迫する。
英国最高行政機関である枢密院でも
メアリーを処罰し
プロテスタントに改宗させる力はない。
幼いエドワード6世では、とてもじゃないが
皇帝カール5世に抗える筈がない。
枢密院はメアリーに説得を試みるが
その矢先
枢密院のトップである
エドワード・シーモア護国卿が
1549年10月に逮捕されたのだ・・
これでお分かりでしょう。
エドワード・シーモア護国卿を
引き摺り下ろしたのは
エリザベスだけではない。
メアリーも絡んでいたのだ
エリザベスは分析する
「この逮捕で英国はカトリックに戻るの?」
「すると、メアリー姉さんは
邪魔な私を排除するわ。これはやばい!」
そこでエリザベスはクリスマスに勝負に出た
メアリーには告げずに武装集団を引き連れ
力を誇示して、突如ロンドンを訪れたのだ。
そして
エドワード6世と共に
プロテスタント式の"時禱書"に従って
クリスマスを祝福
ホワイトホール宮殿から各国大使が
もちろんスペイン大使はカール5世に報告する
「礼拝統一法に従い、この国はクリスマスのミサを行いました。皇帝の御忠告は残念ながら無視して居ります」
英国は、エリザベスに後押しされ、プロテスタントの国だと
内外にPRした。
さて長姉メアリーは?
弟王エドワード6世からのクリスマスのミサの誘いを断り
ロンドンから北東40kmにある
自身の宮殿ハンズドンに
カトリック集団と籠っていた。
「あの大人しいエリザベスが?信じられぬ」
メアリーはエリザベスが警戒すべき人物と初めて認識した。。。
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