戦うエリザベス女王2
商社城
第1話 A girl
「1549年3月20日。本日、知恵に富むが判断力の欠如した一人の男(a man)死亡」
エリザベスは日記を閉じた。
初恋の、しかも、
妻がいる男性トマス・シーモアに恋をし
その男(a man)が斬首されたのだ
許されぬ恋。
ましてやエリザベスは
英国王の継承者
トマス・シーモアと
いつ何を話したのか?
どんな行為をしたのか?
枢密院から厳しく尋問された。
何とか切り抜けたが
連行されロンドン塔で斬首されても
おかしくない状況だった
それ程の危険な恋。
なのに彼女は感傷に浸ってない
軽率な行動をしたと反省すらもしていない
もうやるべき事が定まっているからだ。
エリザベスは自分に言い聞かせる
「これまでのような、慎み深いお利口な言動だけではダメ」
力(power)が必要なのだ。
「今は私は英国王第二継承者だわ。
だから?
絶対に私は英国王になれるの?」
「そんな保証などないわ。
私を邪魔と思う連中は生死を賭して
罪をでっち上げ、私を廃嫡に追い込むのよ。きっと。」
そしてその行く末は・・
ロンドン塔の断頭台・・。
母のように・・
「なんて脆い身分だ・・、私は・・」
「私の母は侍従で、複数の男と姦通したと
ありえない罪で、ロンドン塔で斬首されたのよ。私はその娘だよ。忘れちゃだめだよ」
・・
ほどなく、彼女は新たな味方(コマ)を見つけ出す
名はジョン・ダドリー。
狡猾な目をした50歳の中年男だ。
ダドリー家
英国王家であるチューダー家に忠誠を尽くす名門一族。
しかしその実態は、
権益に絡みつく下衆な貴族集団だ。
そんな栄華を誇っていたダドリー家だが
若きヘンリー8世が英国王即位直後に
奈落の底に突き落とされる。
ジョン・ダドリーの父エドムントが
反逆罪を問われ処刑されたのだ。
ダドリー家は没落。
ジョン・ダドリーが8歳の時だ。
当時少年のジョン・ダドリーは
どんな行為に手を染めても
父の無念を晴そうと
幼いながら決意する
辺境の地での戦争に
一兵卒として進んで参加していくのだ。
それから40年間コツコツと
血を流し
手を汚し
功を上げ
そして
ある地方の貧しい農民の反乱を鎮圧し
ようやく枢密院の信頼を獲得し始めた
そんな時期にエリザベスが
声をかけたのだ
「こいつなら、のし上がる為に何だってやるに違いないわ」
そうエリザベスは値踏みし、
直ぐにジョン・ダドリーに連絡を取る。
エリザベスの屋敷は
ロンドンから北におおよそ30㎞の
ハットフィールドシャーにある。
そこにエリザベスは
ジョン・ダドリーを呼びつけた。
「おお、ジョン・ダドリー殿。
お会いしたかった。そなたの活躍はこのハットフィールドにも轟いておるぞ」
「恐れ多く存じます。エリザベス内親王。私のような卑しき者を
このような席にお呼び頂けるなど」
「遠慮するな、ジョン・ダドリー殿。それにダドリー家といえば、我が祖父ヘンリー7世の世では随分と活躍された名門ではないか」
「今の凋落ぶりは本当に恥ずかしいばかりでございます。エリザベス内親王」
「・・今宵は無礼講だ、ジョン・ダドリー殿。そう、堅苦しい話は無し。崩されよ。酒もたっぷりある。色々話を聞かせ。。。。
おお、そうだ、ダドリー殿。明日はよい頃に執務室に来てくれよ。よいな。」
・・
それから半年が経過した1549年10月
枢密院のトップである
エドワード・シーモア護国卿が逮捕された。
突然の
唐突な
不自然な逮捕劇だ。
エドワード・シーモア護国卿は驚き叫ぶ
「無礼者ぉ!この私を、この護国卿をどんな罪で逮捕するのか?おい!放せぇ!放さぬかぁ!」
さてエドワード・シーモア護国卿とは誰であろう?
エリザベスの初恋の名はトマス・シーモア。
”シーモア“
同じ苗字(family name)、これは偶然ではない。
エドワードはトマスの兄。
弟トマスをロンドン塔に追い込んだのは
枢密院のトップである
兄エドワード護国卿だ。
おまけにその時エリザベスを厳しく尋問したのもこの兄だ・・
・・
この逮捕劇の半年前
エリザベスは、ハットフィールドシャーの執務室で
狡猾な目のジョン・ダドリーに
こう告げていたのだ。
「罪状は何だって良いのだよ、ダドリーよ。
枢密院や周辺の者たちが
『自身の保身の為に弟を殺すとは如何なものか?』と
エドワード護国卿に対し、皆に反感を持たせる。これが肝要なのだよ。」
これ以上はエリザベスは決して口にしない
しかしジョン・ダドリーはしっかり理解した。
暗黙の了解事(りょうかいごと)を・・
・・兄エドワードへの反感の渦が高まれば、きっと
「エリザベス内親王を裁こうとした不届き者」としてのレッテルが
兄エドワード護国卿に貼られる
するとどうだろう
理由はどうあれ、
どんな理由をつけても処罰されるべき人物だ、あいつは!
と皆が思うのだ
そう言う見えない力が動く。
英国宮廷とはそういうところ
つまり、エリザベスの放った味方(コマ)は
ジョン・ダドリー1人だけでは無いと言う事だと・・
・・ジョン・ダドリーが理解出来たのは
そうやって彼の父も反逆罪で斬首されたからだ。
半年前の日記にエリザベスは
「・・・一人の男(a man)死亡」
と確かに書いた。
しかしエリザベスにとって、
トマス・シーモアは単なる(a man)ではない。
初恋のトマスとの思い出も
その命を奪った男への復讐も
忘れてなかった。
この度の
兄エドワード・シーモア護国卿への追求は
エリザベス内親王が女王へ駆け上がる・・
いや、
16歳の1人の少女(a girl)が成長する
踏み外してはいけない危険な階段だった
・・
逮捕から2年が経過した
1552年1月ロンドン塔で
切れ味の悪い斧が
何度も振り下ろされた挙句
兄エドワード・シーモアの首が床に転がった。
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