第47話 影
「はあはあ」
暗い坑道の脇道をルーネは走る。
「ここは相当瘴気が濃いな」
次第にルーネの呼吸が荒くなっていく。
「うっ、ああっ……」
彼女は膝をつき、四つん這いになった。
「どうしたルーネ?どこかやられたのか?」
「問題ないわ……」
周囲の瘴気が彼女の身体に集まってくる。
「うっ……はあ……はあ……」
彼女の身体が小刻みに震え、汗が流れ落ち、鼓動が激しくなっていく。
……ゴブリンウォーチーフの足音が背後から迫ってくる。
「あ……」
彼女の身体が黒い霧に包まれ、黒い霧が彼女の肉体に取り込まれていく。
「力が流れこんでくる……気持ちいいわ」
……ルーネの瞳の色が青く輝き、肉体が変化していく。
「はあはあ、覚醒成功」
黒い霧が晴れ、ルーネが立ち上がる。
「身体に魔力が満ちてくる……また強くなったみたい……アンリの魔力本当に気持ちいいわ……さて」
……ルーネは彼女を追ってきた死したゴブリンウォーチーフと対峙する。
彼女が魔力で形成した無数の小さな氷の刃を投擲し、氷の刃が動く屍と化したゴブリンの幾本も足に突き刺さった。
「!」
ルーネは氷弾を形成し蹴り飛ばす。氷弾が炸裂し、氷の刃が飛び散りゴブリンウォーチーフの身体に深く突き刺ささる。
……ルーネは踏み込みポールアックスで死したゴブリンの女剣士の振るう一本の剣を払う。
「魔力が身体に馴染んできたわ」
もう一方の振り下ろされた剣を防ぎ、肩にポールアックスを叩きつける。先程、氷の刃が突き刺さった場所から身体にまとわりついた蔓草が凍りついていく。
「そろそろかたをつけましょうか」
動く屍と化したゴブリンウォーチーフがルーネに向け火炎を放った。
「結界構成」
ルーネは淵術結界で火炎を防ぎつつ、後退する。
「この火炎、前より強いわね……闇を彷徨う見えざる剣の刃、魔剣の疾走!」
放たれた淵術の刃がゴブリンウォーチーフの胸部を深く切り裂く。
「まだ、倒れないか」
「一気に決めましょうか」
ルーネは間合いを詰めポールアックスを振り下ろす。ポールアックスと双剣がぶつかり合い暗い坑道に激しい火花が飛び散る。打ち合うごとに蔓草とゴブリンウォーチーフの身体が氷ついてゆき、動きが鈍くなっていく。
「ここ!」
ルーネが死したゴブリンの片腕を切り落とした。更にゴブリンウォーチーフの巨体をブーツで蹴り上げる。飛び散った氷の刃が蔓草を切り裂いていく。
「終わりね」
ルーネはゴブリンウォーチーフの胴を肩から切り伏せ、更に首を切り落とした。
「この剣、結構良いものみたい……生きていた頃は結構な手慣れだったのかしら」
ルーネはゴブリンの女剣士が持っていた剣に目をやった。
「高く売れるかもな」
「そうね……さて、先に進みましょうか」
ルーネは元の道に戻り、暗闇を奥へ奥へと走って行く……しばらく行くと少し開けた場所に出た。地衣類の柱が幾つも立っている。
「来るぞ!」
「!」
ルーネに向けて矢が飛来する。
「やる気みたいね」
謎の人影は弓を放った後、位置を特定されぬように地衣類の柱の陰に隠れながら高速で動きまわる。
「今までのとは動きが違うわね」
ルーネは矢を躱しながら、太腿からダート抜いて投擲し謎の人影を牽制する。
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