第46話 闇の奥へ
……坑道の奥へと消えた影を追って、ルーネは更に深部へと進んで行く。彼女の足音が岩盤に反響し坑道内に響いている。
「……厄介そうなのが来たな」
「ええ」
深部へと進む坑道の脇道から蔓草に寄生された二体の死体が現れた。銃剣を装着したマスケットを携えたゴブリンホームガードと二本の剣を携えたゴブリンアマゾネスの動く屍がルーネの前に立ちはだかった。
「迂回するか?」
「いえ、やりましょう」
死したゴブリンホームガードの頭上に咲いた白い花が不気味に青白く光ると、ゴブリンホームガードの口からルーネに向け火炎が放たれた。
「くっ!」
ルーネはバックステップで火炎を回避する……着地したルーネを目掛けてゴブリンアマゾネスが素早く接近し、鋭い突きを放つ。
「よく鍛えあげられた女の肉体、やるわね……」
ルーネは死した二刀流の女剣士の鋭い突きをポールアックスで切り払った。
「生前はかなりの手練れだったようね……魔剣の疾走!」
ルーネの放った淵術の刃がゴブリンアマゾネスの後方に立つゴブリンホームガードの身体に襲いかった。淵術の刃が動く屍の胸を深く切り裂くが、ゾンビ化したゴブリンは膝をつくことなく坑道の闇の中で立ちつくしている。
「っ!」
死したゴブリンの女剣士の力強い連撃がルーネに襲いかかる……ポールアックスと二本の剣が激しく打ち合う。
「流石に銃は撃ってこないか……」
ポールアックスで激しい連撃を捌きながら、隙を伺うルーネに対し、ゴブリンホームガードが再び火炎を放った。
「熱っ!」
ゴブリンホームガードの放った火炎がルーネの身体を襲った。髪が焼け焦げた匂いがルーネの鼻をつく。
「鬱陶しいわね……」
ルーネは連撃の隙をつき、死したゴブリンアマゾネスの足元をブーツで払い転倒させ、ゴブリンホームガードへ走り寄る。彼女は走りながら魔力の籠ったダートをゾンビ化したゴブリンアマゾネスの脚部へ投擲する。
「黒の衝撃!」
ルーネの放った淵術の奔流がゴブリンホームガードを後方へと吹き飛ばし、岩盤に押し付ける。彼女は銃剣を装着したマスケットを携えた腕を切り落とした後、死したゴブリンの首を切り飛ばした。
「さて……」
彼女はゴブリンアマゾネスの方を振り返る。
「……ルーネ、奴の様子が少しおかしいぞ?」
死したゴブリンの女剣士の身体にまとわりついた蔓草が何やら不気味に蠢いている。
「何かしら……」
ルーネは警戒しつつ、ゆっくりと接近していく。
「!」
襲いかかってきたゴブリンアマゾネスをダートを投げつけ迎撃する。投擲されたダートは蔓草に阻まれ、死したゴブリンの肉体に突き刺さることはなかった。
ゴブリンアマゾネスは二本の剣を勢いよくルーネに振り下ろす。
力強い斬撃をポールアックスで受けとめたルーネは顔を歪ませる。
「さっきよりパワー増してないか!?」
「ええ……」
ルーネは攻撃を防ぎつつ後退し、様子を伺う。
「はあはあ……」
……先程倒したゴブリンホームガードの亡骸から黒い霧のようなものが噴き出した……その霧状のものが青く輝く球体へ変化していく。
「なんだ?」
青く輝く球体が死したゴブリンの女剣士の肉体に取り込まれる。
「なんだか普通の瘴気とは違うみたい……」
死したゴブリンアマゾネスの身体が青く発光し、坑道内を不気味に照らしている。
「不味いわ……」
ルーネが死した女ゴブリンに攻撃を仕掛ける……死したゴブリンの女剣士の筋肉が肥大化し、肉体が次第に大きくなっていく。
「これは……変異?しているの?」
ルーネと激しく打ち合うごとに死したゴブリンの女剣士の肉体がより強靭に変異していく。
「ゴブリンウォーチーフ……死体を変異させるとわね……」
「先にやられた方の魔力で後に残った方を強化する仕掛けか?」
ルーネは大型変異種ゴブリンウォーチーフの放った重たい一撃を躱す。
「……まともに喰らったら不味いわね」
身体の各所に咲いた白い花が次第に大きくなると共に、先程ルーネが放ったダートで負った脚部の傷が再生していく。
「足が再生する前に……黒の衝撃!」
ゴブリンウォーチーフに変異した死した女剣士は二本の剣で淵術の奔流を受け止める……その隙にルーネは坑道の脇道へと走り去る。
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