第45話 屍

 ……ツルハシを引きずったゴブリンがゆっくりとルーネの潜む地衣類の柱へ近づいてくる。


「もう一体来るぞ!?」


 ツルハシを引きずったゴブリンに気をとられている隙に、短剣を手にしたゴブリンがルーネの元へ素早く飛び込んできた。


「くっ!」


 ルーネは素早く回避しつつ、ポールアックスでゴブリンの蔓草に蚕食された腕を切り落とす……蔓草のまとわりついた片腕が地下に転がった……その切り口から赤い血が流れ出ることはなかった。


「やはり死んでから時間が経っているようね」


 ツルハシを持ったゴブリンがルーネに得物を振り下ろした。ルーネは大振りの連撃を躱し距離をとりつつ太腿からダートを抜き、ゾンビ化したゴブリンの顔面に投擲する。


「痛覚が無いんじゃ怯まないか……」


 ダートが顔面に命中するも怯まずツルハシを振り回しながら突進してきたゴブリンの手元をめがけ、彼女はポールアックスの一撃を喰らわせる。ツルハシの軌道がそれて地面に突き刺さる。

 ルーネはゴブリンの足をブーツで蹴り飛ばし体勢を崩したのち、ゾンビ化したゴブリンの頭部にポールアックスを振り下ろし、頭部を粉砕する。


「こいつらが居なくなったチンピラ達なのか?」


「恐らく……」


 先程、腕を切り落とされたゾンビ化したゴブリンがルーネの背後から蔓草を伸ばし攻撃してきた。

 ルーネは振り向きながら蔓草を切り払い、素早く間合いを詰めると動く屍と化したゴブリンの首を切り落とした。


「バラバラにしたほうがいいのかしら」


 ルーネはポールアックスでゴブリンの死体を切り刻む。死体の内部の籠もっていた瘴気が噴き出した。


「……防腐剤の材料として取っておくわ、先生へお土産に丁度いいわね」


 ルーネはゴブリンの死体に咲いた幾つもの白い花を摘み取った。


「先に進むか?」


「ええ、行きましょう」


 彼女は更に深部へと進んで行く。


「くるぞ!」


 暗闇の中から銃剣を携えた数体のゾンビ化したゴブリンが突撃してきた。ルーネは鋭い突きを高く飛翔し回避しつつ、手から雷撃を放った……死体が焼け焦げた匂いが坑道内に広がる。彼女は着地するとポールアックスで動く屍達を切り伏せていく。

 

「やはり瘴気が濃い場所の方が火力が出るわね」


「犠牲者はかなりいるのか」


「……集まって来たみたいね」


 ……瘴気に満ちた闇の中を動く屍達が蠢いている。


「……この辺をねぐらにしているゴブリン達を始末する為に誰かが手引きしたのかしら……ジェリコ連隊の仕業?……ただの事故かもしれないけど」


 突如、ルーネに向かって矢が飛翔した。


「っ!」


 矢は命中せずにルーネの足元に突き刺さった……彼女に向かって矢を放ったと思われる影が坑道の奥へと姿を消していく。


「なんだ?」


「あの動きはゾンビっぽくないわね……」


「誘ってるのか?確かに奴の魔力波長は寄生された死体と違う……種族はわからないが生体みたいだ……」


 ルーネは放たれた矢を拾い上げる。


「長弓の矢?……矢じりに何か塗ってあるわ……」


「奴がゴブリン達を殺して蔓草を寄生させたのか?」


「……もしかしたらそうかもしれないわ」


「奴を追うか?」


「ええ……面白そうじゃない」

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