第43話 廃坑
……坑道に入りランタンで周囲を照らしながら慎重に歩を進めていく、入口から遠ざかる程に森の鳥の声や風の音が段々小さくなっていった。
「中は少し冷えるな」
暗く静まり返った坑道内に足音だけが響いている。
「魔獣の気配は……今のところないな」
「奥に行ってみましょうか」
アンリが坑道を南へと進んでいくと、腕に着けた瘴気計の針の振れが次第に大きくなっていく。
「うっ、これ結構キツいな……」
アンリは瘴気にたまりかね、口元をおさえた。
「……瘴気が濃くなってきたし、代わってもらっていいかしら?」
「ああ」
静まり返った暗闇の中でルーネの瞳が銀色に輝いている。
「ん……ふう、じゃあ行きましょう」
ルーネは更に坑道の奥へ進んで行く。
「しかし……本当に瘴気が濃いわね……気脈に異常があるのかしら……耐性のない普通の人間だったら命に関わるんじゃない?」
「そんなにか」
「わたしは魔力切れの心配が減っていいのだけど」
……しばらく、進むと土の柱のようなものが幾つも並んでいる少し開けた場所に辿り着いた。
「なんだこれ……蟻塚か?いや、瘴気キノコか?」
「地衣類の一種よ」
「地衣類?」
「地衣類の一種といっても地上にある地衣類とは違うんだけど……」
ルーネは人の背丈ほどの柱に触れた。
「これは瘴気を吸収して養分を生み出す好瘴気性のリゾーム菌と藻類が一体化したものね」
「へえ」
「藻類が好瘴気性リゾーム菌と一体化することよって光合成が出来ない地下でも生きられるってわけ、それが何年もかけ積み重なって柱状になったものらしいわ」
……その時、何かを引きずるような物音が坑道の奥から響いた。
「なんだ?ゴブリンか?」
「いえ、魔力波長が少しちがうわ……」
ルーネはポールアックスを構える。
「光源を持っていないのは怪しいな、魔獣か?」
「こちらに奇襲をかける気かしら……」
足音と何かを引きずる音が少しづつ大きくなっていく。
「どうも複数いるみたい……これは恐らく……」
ルーネはランタンの灯りを消し、魔力の放出を抑え、大きな好瘴気性地衣類の柱の陰に身を潜める。
「……」
ゴブリンがツルハシを引きずりながら暗闇の中をゆっくりと歩いている。
「……」
ルーネはじっと息を潜めている。
……ツルハシを引きずる干からびたゴブリンの身体に蔓草が絡みついている。干からびた肉体を蚕食した蔓草が至る所で皮膚を突き破り美しい白く花を幾つもつけている。
「あれは?」
地衣類の柱の陰から様子をうかがう。
「寄生型の好瘴気性植物が生物の死骸に取り付いたものよ」
「あのゴブリン……死んでるのか?」
「死んでからだいぶ時間が経っているようね……可愛らしい白い花が咲いてるでしょ?」
「オレには良く見えないな……」
「……そう……あの花から肉体の腐敗を抑える成分を出してるの、だからあの白い花から防腐剤が作れるのよ……でも、奴の持っている汚れたツルハシで傷つけられたら破傷風になるかもしれないのだけど」
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