第42話 夜行
「じゃあ、アンリ君、服を脱いでくれないか?」
アンリはルーネの師ミーティアに促されるまま、彼女の前で下着姿になった。
「肉体融合の相性がいいね……むしろ良すぎるのもしれない……失礼、少し確認しておく」
ミーティアは下腹部から上腹部にかけてを触診する。
「……うん、淵術刻印の活性化の具合は……アンリ君、魔力を高めて肉体を強化してくれないか、ゆっくりでいい……」
「わかりました」
アンリが目を閉じ、魔力を高めると、胸元から汗が湧き出し身体を流れ落ちていく。
「ふう……」
……呼吸で肩が上下するたびに胸が少しづつ大きくなっていく。
「……魔力による肉体の活性化で胸が張ってきているな……霊布の下着は術者に合わせて細かい形状の変化が出来るが……これならばこのくらいの術式で……うんうん」
ミーティアはルーネと融合したアンリの身体を隅々まで触っていく。
「あっ……」
アンリは下半身に経験したことのない奇妙な感覚を感じ、手を黒霊布のショーツに当てた。
「……それはアンリ君、淵術刻印の魔力が女の身体を男をより効果的に支配できるように最適化させるようとしているのだ……魔力による肉体強化は単なる身体能力の強化だけではないということだよ」
ミーティアは触診を一通り終え、ルーネと融合したアンリの身体から手を離した。
「なるほど、うん……大体わかった……アンリ君、ルーネと代わってくれないか」
「わかりました」
瞳の色が青から灰色に変わった。
「ルーネ、平気かい?」
ミーティアはルーネに優しく問いかける……ミーティアの問いかけに対してルーネは虚ろな目でミーティアの顔をじっと見つめている。
「ん?おーい」
……ルーネの身体は力が抜けたように前方に倒れ、彼女は顔をミーティアの胸にうずめた。
「おっ、大丈夫か?ルーネ」
「ごめんなさい、先生少し、ボーっとして……」
ミーティアはルーネの身体を両手でゆっくりと起こす。
「構わんさ」
「でも、身体に力が漲っているようでもあって……フワフワした不思議な気分です……痛っ!」
ルーネを胸をおさえる。
「胸が張ってて痛いわ……おさまりなさい」
黒霊布のブラが青く発光し、余剰魔力を抑制すると胸の張りが収まっていく。
「……落ち着いたかしら」
ルーネは机に置かれた紅茶を飲み干した。
「じゃあルーネ、霊布の下着上下で用意しておくから、術者の魔力にあわせて色を変えられる良いものだ、期待して待っていてくれ」
「よろしくお願いします先生」
・・・・・・
「すっかり、暗くなってしまったわね」
マリエスブールの街から出る頃にはすっかり陽は落ちていた。
「この身体、夜目が利くから暗い場所でもかなり見やすいな」
「そうでしょう」
マリエスブール南部に広がる暗い森の中をランタンの明かりで照らしながら、歩を進めていく。
「アンリ、疲れたら交代しましょう」
「ああ」
「もうすぐ行ったら廃坑への入り口があるはずなのだけど」
暫く暗い夜の森を進んでいくと、木々の合間から漏れる灯りが目についた。
「何かしら?」
「行ってみようか?」
「ええ」
……森の少し開けた場所でゴブリン達が焚き火を囲んでいた。リーダー格らしきガタイのいい男が立ち上がり、こちらへ話しかけてきた。
「よう。アンタ何者だ?夜の森を女一人で歩いてよ」
焚き火から少し離れた位置で銃剣を構えた斥候が周囲を警戒してる。
「魔獣狩りに来たんだ」
「そうかい……アンタ人間だよな?瘴気の匂いを感じるな……淵術使いか」
「ああ、そうだよ」
「吸血鬼かグールかと思ったぜ……」
ゴブリンの大男はゆっくりと腰を下ろした。
「アンタらは何しに来たんだ?」
「……魔獣狩りもあるが、俺らは天然の魔石を取りにきたんだ……最近、魔法石の値が上がってるからな」
「この廃坑まだ枯れてないのか」
「ああ、取りやすい場所は大方採っちまっただけで完全にはな、瘴気の濃度が濃い地下深くに行きゃ危険はあるが、それなりの純度のやつは手に入る」
「情報ありがとう」
アンリはゴブリンの大男に銀貨を投げ渡した。
「どうも、嬢ちゃん、この辺の地下は古代の遺跡やら修道者の修行場だった地下都市やらがあってややこしくて迷いやすいから気ぃつけろよ……アンタ、魔力量から察するに結構やるみたいだが、南部の深い場所には行かないほうがいいぞ、瘴気が濃い場所へ行って帰ってこなかった連中もいるって話だ」
「この辺、縄張りとかあるのか?」
「いや、特にないな……ああ、最近、南の方をねぐらにしてたチンピラ共が急に消えたんだよ……南の深部の瘴気が濃くなってんだが、そこにヤバイ魔獣がいて、そいつにやられたんじゃねぇかだの、吸血鬼やグールの仕業だの、或いはジェリコ連隊と揉めて始末されただの、俺たちの界隈で色んな噂が流れてんだ」
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