第41話 ルーネの師匠
ルーネは古びた門をくぐると、屋敷の扉に付けられた青銅製のドアノッカーを打ち付けた。
「……いらっしゃい……どなたかな?」
扉の小窓から野太い男の声がした。
「ルーネです」
「ルーネ?……少々お待ちください」
屋敷の中で物音がした……暫し沈黙の後、古びた屋敷の扉ゆっくりが開く。
「ルーネさん先生がお待ちです」
現れた太った大男がルーネを出迎えた。
「失礼します」
通された屋敷の書斎で眼鏡をかけた赤髪のアマゾネスがルーネを待っていた。
「ミーティア先生ごきげんよう」
ルーネはバフォメットの兜を脱ぐ。
「ルーネ、ん?魔力波長が違うな……肉体融合か」
部屋のあちこちに書物が乱雑に積み重ねられている。
「散らかってるが楽にしてくれ」
「見てください先生この身体、素晴らしいでしょう?」
ルーネはミーティアの前で一回転する。
「うんうん、随分と上手く融合できてるじゃんか」
ルーネの師ミーティアはルーネの身体をじっくりと見つめる。
「ルーネさん、紅茶をどうぞ」
太った男が紅茶をお世辞にも整頓されているとは言い難い机の上に置いた。
「ありがとうございます」
ルーネは古びた椅子に腰かける。
「ミーティア先生、マリエスブールで吸血鬼が出た話はご存知ですか?」
「淵術協会の連中も騒いでいたな……王都魔術学校の生徒が何人かやられたやつか」
「犯人はカサンドラという女吸血鬼だったのですが、先日、我々はマリエスブールでその吸血鬼と交戦したのです」
「ほう」
「その吸血鬼と共にサニアと名乗る赤髪の女暗黒騎士が行動していたのですが、ミーティア先生なにかわかりませんか?吸血鬼化の秘術に深い知識のある淵術士は絞られるのではないかと」
「サニア……心当たりはない」
「……そうですか、彼女は二本の黒剣を得物としていました、幻影魔法で男の姿に化けていましたが、わたしの前で見せた赤髪の女の姿は実体でしょう」
「……そいつはカストル人か?」
「彼女、僅かにロザーナの訛りがあった気がします、確信はもてませんが……おそらくはロザーナ所縁の者かと」
「ロザーナ……赤髪のロザーナ人か……それで黒剣の使い手……」
「かなりの実力者です、淵術士の実力者ならば先生の耳に入っているかもしれないと思ったのですが」
「……その女はお前よりも強いのか?」
「ええ、悔しいですが、今のわたしより遥に上でしょう」
「私はロザーナ方面に関しては詳しくない、すまない」
「……そうですか」
「私は顔が広い方ではないからなぁ」
「先生、今日は肉体融合と淵術刻印の調子を見てもらうために来たのです、それから先生、わたしたちの為に下着を新しく作ってくれませんか?」
「私より淵術協会の職人に作ってもらったほうがいいんじゃないか?」
「いえ、やはり先生の魔力が編み込まれたものが身体に馴染むんです」
「うん、そうか、わかったわかった」
「お願いします先生」
「魔力の暴走を抑制する黒霊布の下着の上下でいいのか」
「いえ、魔力強化の白霊布の上下でお願いします」
「ほう、そうか」
「今、わたしと融合しているアンリは減速術式の使い手で魔力暴走の抑制は得意なので」
「なるほど、わかった……それじゃあ、足の刻印を見るからブーツを脱いでくれ」
ルーネがブーツを脱ぐとミーティアはルーネの太腿に刻まれた淵術刻印に手をやった。
「魔性の影響で刻印が活性化している……ルーネ、アンリ君と話をしたいんだ代わってくれないか?」
「わかりました先生」
「ルーネから色々と話は聞いてるよ、アンリ君……人間の男で魔性持ちとは珍しい、術者の女から結構もてるんじゃないか?身体能力も高いようだね」
ミーティアは太腿の淵術刻印を指で撫でる。
「私の自慢の弟子の身体と融合した気分はどうだい……気分が悪くなったり、もしくはハイになったり、意識が不明瞭になったりはしてないかい?」
「特にはないですね」
「うん、それは素晴らしいね、魔力と身体の相性が良好というのもあるが、君は減速術式の使い手だが淵術の資質もあるようだ」
「そうなんですか」
「淵術と減速術式の資質はある程度の親和性があるということもあるが」
「痛っ」
突如、胸に鋭い痛みが走りアンリは胸を押さえる。
「胸が痛い……」
「アンリ君、それはルーネが嫉妬しているんだよ」
「嫉妬?」
「ルーネは君の術者としての才覚に嫉妬しているんだ……淵術士にとって嫉妬や羨望、欲望は力の源だ……これほどしっかりとした肉体融合ならば、記憶や意識の支配権をある程度は奪えるはずだが、ルーネにはそれが出来ていない……君が自分から肉体の主導権を渡さないかかぎり、今のルーネでは指一本動かせないはずだ」
ミーティアはアンリの手を掴む。
「今の痛みはルーネの君への強い嫉妬や羨望によって生まれた魔力が肉体をより強く作り変える為に生じたものだろう……まあ、その魔力も君に吸収されているようだが……アンリ君、君のような術者が傍らにいることで我が弟子は更に成長することが出来る、彼女の師として礼を言おう……ルーネのことよろしく頼むよ」
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