第249話 トラブルから無事の出発
ティモテ大司教が私のことを執拗に誘った影響で、当初の予定と変わって私はダスティンさんのリューカ車に乗り込み、そこにはクレールさんも乗った。
本当ならパメラも乗るはずだったけど、パメラがいるとダスティンさんに対する態度を崩せないのが少し不便だと思って、パメラには私のリューカ車を整えて欲しいという理由で、本来乗るはずだった車に残ってもらったのだ。
その代わりにダスティンさんのリューカ車はずっとカーテンが開けられ、外からノークに乗ったレジーヌとヴァネッサが交代で護衛をしてくれる。
それなら中の声は聞こえないだろうし、私としてはなんの問題もない。
「はぁ……なんだか朝から疲れました」
リューカ車に乗り込んで扉が閉まったところで、思わずそんな言葉を吐き出してしまった。
「ティモテ大司教には手を焼きそうだな」
「凄く……なんでしょうか。熱狂的な方ですよね」
ダスティンさんの直接的な言葉とクレールさんの一応の遠回しな言葉に、私は何度も頷いてしまう。
「もう正直、本当に顔を見たくないです……」
つい本音を漏らすと、クレールさんに真顔で突っ込まれた。
「それは、外で発してはいけない言葉ですね」
「分かってます……でも見ました? あのティモテ大司教を。あの人は私のことをなんだと思ってるんでしょうか。もはや神だと思ってるんじゃないかと思うんです。神だと思われるのって、凄く怖いんだと実感してます。自分が思う神じゃないと分かった途端、お前は偽物だ! とか言って糾弾してきそうじゃないですか!? なんだかもう、色々と怖いし憂鬱で……」
今まで溜め込んできたことを思わずぶちまけると、ダスティンさんが僅かに引き攣った表情を浮かべていた。ダスティンさんの珍しい表情を引き出せたことには、少しだけ達成感をおぼえる。
「……随分と悲観的だな」
確かに私にしては珍しいぐらい悲観的かもしれないけど、日本人的な価値観が一番強い私にとって、ティモテ大司教のような熱心な信徒は正直怖いのだ。
どういう思考でどんな結論に至るか想像するのが難しいから、突然窮地に陥りそうだと思ってしまう。それに、やっぱり最初に教会で監禁されそうになったトラウマが残ってるんだろう。
「シーヴォルディス聖国にはティモテ大司教みたいな人がたくさんいると思うと、どうしても憂鬱になるんです」
「確かにな。あのような者は多いかもしれない」
「やっぱりそうなんですね……」
もう今から創造神様に祈っておこうかな。私の祈りに答えてくださいって。そうすれば一瞬で帰れるから。
あっ、でもそうなると色々と言いくるめられて聖国に留め置かれる? ただ私の祈りに意味がなかった場合の方が、何が起こるか分からなくて怖い。効果はなかったねって普通に帰してくれるなら良いけど……。
「ただ、問題はない。レーナにはたくさんの味方がいるからな」
「そうですよ。まあ、私が一番にお守りするのはダスティン様ですが」
ダスティンさんの声に顔を上げたところでクレールさんの言葉が聞こえ、なんだか体に入っていた力が抜けた。
「それは知ってます。クレールさんにはあまり期待してないので、大丈夫です」
ただダスティンさん第一主義のクレールさんは、ダスティンさんが私のことを守ってくれてる時には、凄く頼りになるんじゃないかな。その場面では期待している。
「それは正解ですね」
「そこは嘘でも否定した方が良くないですか……?」
いつも通りのクレールさんに呆れながらやり取りをしていると、カディオ団長の声がリューカ車の中にまで聞こえてきた。
今回の先頭を務めるのがカディオ団長だから、そろそろ出発するのだろう。
「ついにですね」
「ああ。しかしシーヴォルディス聖国までの道中は長い。まだ気負うのは早いだろう」
「確かにそうですよね」
聖国までにかかる期間は、天候などによって左右されるから正確な日数は分からないけど、数週間と言われている。多分早くて二週間、標準で三週間はかかるのだろうから、まだまだ先の話だ。
「聖国に近づくまでは、観光を楽しもうと思います。ダスティンさんとクレールさんも、欲しいものがあったら好きなだけ買って大丈夫ですよ。私が異空間収納で持ち運べるので」
そう伝えると、ダスティンさんの瞳がキラッと光った。
「それは素晴らしいな。では魔道具作成に使えそうな素材を端から手に入れようではないか。日持ちしないものは行きよりも帰りに買った方が良いな。いや、しかし行きにも買って道中で使ってしまうというのもありだな」
一気に意識が魔道具研究に向いたらしいダスティンさんに苦笑していると、クレールさんも遠慮がないようだ。
「では、私はそれぞれの地域で食べられている調味料や保存食を買い占めましょう。またダスティン様の服を仕立てるための布もありですね。部屋を飾る絵画や絨毯なども良いものがあれば……」
二人とも自分の世界に入ってしまったところで窓の外に視線を向けると、ちょうどレジーヌがこちらに視線を向けているところだった。
目が合ったので手を振ると、レジーヌも振り返してくれる。
やっぱり私の護衛と侍女は全員が可愛いよね。そんなことを考えていると、すぐにリューカ車が進み出した。
ついに、出立だ。
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