第135話 レーナの印象と学院について

「レーナに関する現状やこれからのことについて話をしたいのだが、食べながらで良いので聞いて欲しい」

「かしこまりました」


 居住まいを正して頷いて見せると、お養父様はそんな私の様子に頷いてから口を開いた。


「まずレーナの立ち位置についてだが、貴族社会では概ね敬うべき尊い存在として広まっている。創造神様の加護を得た少女ということで、神子なのではないかという声まであるほどだ」


 そうなんだ……ありがたいけど、その期待に応えられるのか少し不安になる。私のことを神聖視している人が実際の私を見たら、あまりにも普通の少女でがっかりしないのかな。


 やっぱりこういう面でも、優雅な立ち居振る舞いを身につけることは大切だね。


「しかし全貴族がそうとはいかないのも現実だ。創造神様の加護を得たという部分を疑う貴族はいないが、敬うのではなく利用しようと考える貴族は一定数いるだろう。さらにはいくら創造神様の加護を得たとはいえ、平民から公爵家子女となったことに反発する者もいる」

 

 お養父様が真剣な表情で教えてくれた情報に、私は緊張しながらゆっくりと頷いた。そういう人がいるだろうとは思っていたけど、いざ存在を知らされると少し怖い。


 でもこの情報を早い段階で私に伝えてくれるということは、お養父様やお養母様は私のことを真剣に考えてくれているということだ。

 そう考えると心強い味方が増えたようで安心できる。引き取ってくれたのが、オードラン公爵家で良かった。


「レーナは私たちの娘として、さらには創造神様の加護を賜った者として、堂々としていなさい」

「はい。そのように努めます」


 お養母様の言葉に背筋を伸ばして頷くと、お養母様は真剣な表情を少し緩めて優しさを感じる笑みを浮かべてくれた。


「レーナの立ち位置について現状で話せるのはこれぐらいだ。あとはこれから過ごしていく中で、色々と明らかになるだろう。では次の話に移るが、ノルバンディス学院についてだ。まだ学院の決まりについては学んでいないだろう?」

「はい。制服を作ったのみで、詳しいことは知りません」

「ではここで説明しておこう。まずノルバンディス学院は、貴族と身元のはっきりとした大商会の子息子女しか通えない場所だ。その上で警備も万全のため、学院内には護衛を連れていけないことになっている。もちろん侍女や侍従もだ。行き帰りのみ護衛付きのリューカ車で移動し、学院内では一人で行動しなければならない」


 おおっ、そうなんだ。それはちょっと嬉しいかも。いや、パメラたちが嫌なんじゃないんだけど、まだ四六時中誰かが近くにいる生活には慣れていなくて、たまには一人で行動したいなと思っていたのだ。


「必要な荷物は自分で鞄に入れて持ち運び、昼食も学院の食堂で自ら好きな料理を注文して食べることになる。普通ならばこの部分の練習が必要なのだが……レーナには必要ないだろうか」

「はい。私にとっては自分で全てをこなす方が日常でしたので、その部分の練習は必要ありません」

「分かった。では知っておくべき情報のみ教えよう。まず昼食だが、こちらは学院生ならばその場でお金を払う必要はない。基本的に学院内で支払いが必要になることはないので、お金は持たないのが一般的だ」


 学食は無料なんだ。確かに貴族とお金持ちの家の子供のみ通うのなら、おおよその概算による事前支払いでも文句は出ないのかな。


「お金を持たないというのは、無用なトラブルを避けるためでしょうか」

「そうだ。さらに貴族は出先の場合、その場で直接支払うのではなく、後にそれぞれの家へ請求してもらうという形で買い物をすることが多い。その練習も兼ねている」


 それってツケみたいな制度ってことだよね。さすが貴族社会だね……絶対に支払われるという信頼がないと、成り立たない制度だろう。


「その形式で何かを購入する場合は、契約書のようなものを書くのですか?」

「ああ、証書というものにサインをする必要がある。名前を書いて印章で家紋の印を付けるのだが……レーナにはまだ渡していなかったな。すぐに手配しておこう。今は私のものを見ると良い」


 お養父様が指輪を一つ外して侍従に手渡すと、お養父様の侍従は私のところまでそれを運んでくれた。そっと受け取りしっかりと観察すると、それは指輪型のハンコのようなものだ。オードラン公爵家の家紋が刻まれている。


「証書に蝋を垂らし、その家紋を押すのだ。印章は指輪型が一般的だが、他の形のものも多くある。子供の場合は指の太さが成長と共に変わるため、首から下げるのが一般的だ」

「……こちらは絶対になくしてはいけないものですよね」

「そうだな。なくさぬよう常に身につけておくと良い」

「分かりました。気をつけます」


 お養父様に感謝を伝えて指輪を返すと、慣れた様子で指輪を嵌めたお養父様は、今度は授業についての説明を始めてくれた。

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