第81話 ポールさんの友人

 現在は九の刻三時。私はポールさんとジャックさん、ニナさんと共にエリクさんのお店に来ている。光花で綺麗に照らされたお店の外観は、高級店というのが一目で分かる佇まいだ。


「とりあえずエリクとの話は夕食を食べてからってことになってるから、表からお店に入ろうか。今日の夕食はエリクの奢りだから好きなだけ食べて良いよ」

「え、奢りって……良いのでしょうか」

「あいつが良いって言ってるんだから気にしないで。レーナちゃんのレシピがよほど好みだったらしいから」


 なんか嬉しいな……ただ嬉しいと同時にちょっとプレッシャーも感じる。これから下手なレシピを提案できないよね。地球で美味しいレシピを開発された方々、知識をお借りします……!


 店内に入るとパリッとかっこいい服を着た店員さんが迎えてくれて、奥の四人席に通された。そしてお洒落な装丁のメニューを一人一つ渡される。


「ご注文が決まりましたらお呼びください。料理長は手が離せない調理をしておりまして、先に食事を楽しまれて欲しいとのことです」

「分かった。ありがとう」


 店員さんが綺麗な一礼をして下がるのを見届けてから、メニューに視線を向けた。最近は食材の名前を覚えたから問題なく読めるかなと思ったメニューには……いくつか聞いたこともない料理がある。

 やっぱり高級店には普通の食堂にない料理があるんだね。


「このお店は高級店だけど、貴族が食べるような料理を平民にもってコンセプトなんだ。だから手軽に食べられるように、コース料理じゃなくて一品料理になってるよ。あっ、コース料理っていうのは何種類もの料理が順番に出てくるスタイルのことね。例えばサラダ、前菜――簡単につまめるタイプの料理のことだよ――スープ、メインの肉料理、デザートみたいな感じで」


 へぇ〜、この国にもコース料理なんてものがあるんだ。人生で一度ぐらいは食べてみたいな。


「このお店では、コース料理に出てくるような料理が一皿で楽しめるってことですか?」

「そういうことだね。例えばサラダと前菜、それからメインの肉料理が一皿に綺麗に盛られるんだ。それにスープとラスタがつくのが定番かな。この国ではラスートの薄焼きよりもラスタの方が貴族には好まれてるから、このお店では基本的にラスタだね」


 それ最高だ。コース料理って一つずつ食べ切らないといけないのがあんまり好きじゃなかったから、私にはこのお店みたいなスタイルの方が良いかも。


「食べるのが楽しみです。どれがおすすめですか?」

「そうだねぇ〜、メイン料理ならヒレ肉の果実酒煮込みがおすすめかな」

「確かに美味しいが、レーナにはまだ早いんじゃないか?」

「そうね、レーナちゃんにはステーキとか、果実酒を使ってない煮込み料理の方が良いんじゃないかしら」


 ポールさんの発言にジャックさんとニナさんが指摘を入れて、三人で私が気に入るだろう料理を選んでくれたので、私はそれをそのまま注文することにした。

 ポールさんはここに来たらいつも頼む料理と、さらに新作のメニューを一つ。ジャックさんは魚料理で、ニナさんはリート肉の果実酒煮込みを頼んでいた。


 リート肉はスラムに住んでいた時にたまに食べていた肉だけど、平民は食べないのに貴族の高級レストランでは食べるらしい。

 凄く不思議だよね……ただリート肉と言っても王都近くの森にいるリートじゃなくて、植生などからリートが一番美味しく育つ地域で狩られた肉なんだそうだ。


「お待たせいたしました。こちらメインがロームの香草焼きでございます。ミルカを加えた爽やかなソースでお召し上がりください」


 まず運ばれてきたのはジャックさんの料理だ。ロームというのはこの国で一番食べられている魚で、ロペス商会でも扱っている。

 ちなみにこの国は一部が海に面していて、港がある領地から王都に毎日魚介類が輸送されている。ただやっぱり輸送費がかかるので値段が高くなってしまい、比較的お金を持ってる層以上しか食べない食材だ。


 川魚は……いるにはいるんだけど、この国にある大きな川で取れる魚は基本的に泥臭く、ほとんどの人は食べないらしい。

 

「先に食べて良いよ。出来立てが美味しいからね」

「ありがとな。……ん、めちゃくちゃ美味い。やっぱりこの店の料理は違うな」

「ロームってふわふわと柔らかい感じの魚だったよね」

「ああ、そのロームがパリッと焼かれてるから、食感の違いも楽しいぞ」


 そうしてジャックさんが食事を先に進めていると、次にニナさんの料理が運ばれてきて、ポールさんと私の料理はほぼ同じタイミングで運ばれてきた。

 私のメイン料理はハルーツの胸肉ステーキに、ピリ辛のミリテソースがかけられたものだ。日本のものに例えたら鶏肉のピリ辛トマトソースがけかな。


 ナイフとフォークを使って肉を一口サイズに切り、口に運ぶと……口の中に奥深い美味しさが広がった。丁寧に焼かれた胸肉は噛めば噛むほどに美味しい肉汁が出てくるし、ソースはとにかく絶品だ。決して味が濃いわけじゃないんだけど……旨味が強い。


 次の一口はラスタと一緒に食べて変化を楽しみ、また肉だけで美味しさを堪能してから、少し味を変えるためにスープを飲んだ。そしてスープの後はサラダや前菜を味わって、またメインに戻る。

 やっぱりコース料理じゃなくてこうして一皿に盛られてると、自分の好きな順番で食べられるのが良いよね。


「ふぅ……美味しかった。幸せです」


 全部綺麗に食べ終わってカトラリーを置くと、すぐに温かいハク茶を出してもらえた。こういうサービスが良いお店でする食事って、幸せな気分になれる。


「気に入ってもらえたみたいで良かったよ」

「やっぱりこの店の料理は美味いな」

「他のところではあまり見ない料理も多いわよね。リート肉なんてこのお店でしか食べたことがないわ」

「俺も魚料理は商会の試食以外だと、この店だけだ」


 ここはまた来たいな。メニューに書かれていた値段は普通の食堂の数倍だったけど、年に一度ぐらいなら払える金額だ。

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