第80話 メニュー開発と屋台
ポールさんに相談をした次の日の終業後。私は話し合いの結果を聞くために、休憩室でポールさんを待っている。
「レーナちゃん、待たせてごめんね」
「いえ、大丈夫です。……ご友人は何と仰っていたでしょうか?」
「あいつ、凄く驚いてたよ。美味しくて画期的で考えた人は天才だって」
昨日のことを思い出しているのか、ポールさんは苦笑を浮かべながらそう報告してくれた。
天才だなんて……過分な評価に少し気後れしてしまうけど、それ以上に嬉しくて頬が緩んだ。
「ありがとうございます」
「それでレーナちゃんさえ良ければなんだけど、食堂のレシピ開発担当に勧誘してきて欲しいって言われたんだ。まあレシピ開発といってもそんなに大役というわけじゃなくて、食材や調理場所を貸すから良いレシピが思い浮かんだら専属で売って欲しいってことらしいよ。どうかな、やる気はある? ちなみにレシピが採用されたら金貨五枚を支払うって」
き、金貨五枚!?
私はあまりの金額に呆然としてしまい、しばらく二の句を告げなかった。
「そ、そんなに良いんですか?」
「あいつが言うにはね。新しいレシピに支払う金額としては相場だって」
「そうなんですね……」
新しいレシピにそこまでの価値があるとは思わなかった。この世界は地球と植生が違うし技術体系も違うし、前世の記憶はあんまり役立たないと思ってたんだけど……まさか料理で役に立つなんて。
「私で良いのであれば、やる気はあります。ただロペス商会の仕事と兼任できるのでしょうか?」
「それは問題ないんじゃないかな。食堂の方はレシピが思いついたら売って欲しいって程度の軽いものだから。食材や調理場所を貸すっていうのも、レーナちゃんがレシピ開発をしやすいようにってことらしいし、別に自宅で開発しても問題ないよ」
それなら今まで通りの生活を維持できて、食堂の厨房と食材を借りることができて、そこで良いレシピが思い浮かんだら金貨五枚で買い取ってもらえるってことか。
そんなの断る理由がない。私にとって好条件すぎる。
「ぜひやらせていただきたいです……!」
「ははっ、良い返事をもらえて良かった。じゃあ一度会ってみた方が良いだろうし、数日後の終業後に僕と一緒に食堂へ行ってくれるかい?」
「もちろんです!」
私が食い気味に返答したところで、近くで話を聞いていたジャックさんとニナさんが声をかけてくれた。
「エリクの店に行くのか?」
「私も久しぶりに行きたいわね」
「お二人は行ったことがあるんですか?」
「ええ、ポールと一緒に何回か。凄く美味しいお店なのよ。ただ高級路線のお店だから、そこまで頻繁には行けないのが難点ね」
高級路線のお店なんだ……ロペス商会の商会員は決して給料が安いわけじゃないのに、それで高級なんだから平民向けのお店としてはかなりなのかも。
「二人も一緒に行く? 僕だけよりレーナちゃんも安心だろうし」
「あら、良いの?」
「もちろん。お客様はいつでも大歓迎です」
ポールさんがお客さんに対するように慇懃な礼をしながらそう言うと、ニナさんとジャックさんは笑って一緒に行くことを決めた。
「レーナ、俺たちもいいか?」
「もちろん。一緒に来てくれるとありがたいよ」
「レーナちゃんとお出かけなんて楽しみね!」
そうして数日後に合計四人でエリクさんという名前らしいポールさんの友人の食堂に向かうことを決め、私は商会を後にした。
家に帰ると家族皆はすでに帰ってきていて、三人で協力して夕食を作っているところだった。
「ただいまー」
「おかえりなさい。ちょうどあと少しで夕食ができるわよ」
「今日は胸肉の卵とじ丼を作ってみるんだっけ?」
「ええ」
台所に入ってフライパンの中を覗いてみると、私が作ったものとあまり変わらない出来栄えの料理がそこにはあった。
「美味しそう!」
「俺が野菜を切ったんだ。ちょうど今日の仕事で野菜のカットをしたからな」
「そうなんだ。上手だね」
お兄ちゃんは食堂の下働きとして無事採用されて、今日からさっそく働きにいっている。とりあえずは期間限定での採用らしいんだけど、そこで問題がなかったら正式に雇ってもらえるそうなので、昨日からお兄ちゃんはかなり張り切っている。
「レーナ、ポールさんって人は何か言ってたのか? このレーナが作った料理を買ってくれるんだったよな」
「うん。ポールさんのお友達の人が買ってくれるって。しかもこれから新しいレシピを作ったら毎回買ってくれて、食堂の厨房も貸してもらえるの。さらに驚くことに……レシピ一つで金貨五枚!」
私が手のひらを大きく広げて五と強調すると、皆はあまりにも大きな金額にイメージができなかったのか、驚きというよりも困惑顔だ。
「えっと……金貨五枚って、凄いお金よね?」
「うん。皆の市民権が金貨一枚だったから、市民権五枚分だね」
「このレシピ一つで、そんなにお金をもらえるの……?」
「そうなんだって。ありがたいよね」
段々と金貨五枚の凄さを実感してきた皆は、困惑の表情から驚きと喜びが入り混じった表情に変化していく。
「う、美味いものめっちゃ食べられるよな!?」
「ふふっ、そこなんだ。お兄ちゃんはブレないね。お金をもらえたら美味しい料理を買おうか」
「やったな……!」
「これでしばらく生活に困ることはなさそうね」
「本当だな。レーナは凄すぎるぞ……!」
お父さんが私の頭を少し強めに撫でて褒めてくれたのが嬉しくて、私は頬を緩ませる。
「俺たちもレーナに負けないように頑張らないとだな」
「そうね。頑張りましょう」
「二人の屋台準備は進んでるの?」
「ああ、今日は必要なものの買い出しに行ったんだ。とりあえず明日から屋台を開いてみて、上手くいかなかったらまた考えてみる」
「もう明日から開けるの!? 凄いね、応援してるね」
それからは皆で美味しい夜ご飯を堪能し、明日のために早めに眠りについた。
〜あとがき〜
レーナの物語に癒されている今日この頃ですが(このお話は書いていて本当に楽しいです。これから色々と物語も動くので楽しみにしていてください!)、本日新作の投稿を始めましたのでお知らせさせていただけたら嬉しいです。
『最弱冒険者は神の眷属となり無双する〜女神様の頼みで世界の危機を救っていたら、いつの間にか世界中で崇拝されています〜』
https://kakuyomu.jp/works/16817330654585062295
という作品です。
今まで私が書いてきたほのぼの寄りな作風とは少し違うものになっています。私らしさも残しつつ新しい雰囲気の作品に挑戦する予定ですので、読んでいただけたら嬉しいです……!
よろしくお願いいたします!
蒼井美紗
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