第79話 ポールさんに相談 後編
「ありがとうございます。――ポールさん、このレシピを売ったりすることってできないでしょうか?」
私が居住まいを正して真剣な表情でそう聞くと、ポールさんも同じようにして私に向き直ってくれた。隣のジャックさんもだ。
「今日の一つ目の相談っていうのはこのレシピの扱いなんだね」
「はい。予想以上に美味しくできたので、もしかしたらお金になるんじゃないかと思って、ポールさんに相談させていただきました」
「まず、お金には必ずなるよ。ただその方法は考えないといけない。例えば屋台でこれを売りに出すとしても、そこまで売れないと思うんだ。屋台飯は持ち運びやすさと食べやすさが重要だからね。だから売るなら食堂だよ」
やっぱりそうなんだ。屋台で親子丼は日本でも売ってなかったもんね……。食堂ってなると私がどうにかするのは無理だ。
「レーナちゃん、このレシピはなんで思いついたの? これから他のレシピを作り出せる自信はある?」
「えっと……街中でいろんなものを食べることができて、これを組み合わせたら美味しいんじゃないかなって自然と思ったんです。他にもそういうものはあるので、可能性はあると思います」
私のその返答を聞いて、ポールさんは満足げに頷いた。
「それなら僕の友達を紹介するよ。食堂を経営してるんだけど、ラスタが大好きな友人なんだ。もしかしたらこのレシピを買い取ってくれるかもしれない。ただレシピを売ったら、もうレーナちゃんがこのレシピを独占販売することはできないよ。長期的に見たらレシピを売った金額より、このレシピで稼げる金額の方が大きいと思う。それでも良いかな?」
「はい。それで構いません」
私が食堂の経営なんて上手くできるはずがないし、長期的に大きなお金が手に入るのよりも、今は目先のお金が欲しい。別に億万長者を目指してるわけじゃないからね。
「分かった。じゃあさっそく今夜にでも食堂に行って話をしてみるよ。レーナちゃんが他のレシピを開発できるかもって話もして良いかな? その方がより興味を持ってもらえると思うんだ」
「もちろん構いません。……ただ、他のレシピ開発に関しては確約はしないでいただけますか?」
「うん。可能性がある程度の話に留めておくよ」
そこまで話をしてふっと表情を柔らかくしたポールさんは、テーブルの上に乗った胸肉の卵とじ丼を見て残念そうに肩を落とした。
「これは今夜のために取っておいた方が良いね。実物があった方が話がスムーズに進むだろうし」
確かに実物は必要だよね……でも夜にまた温め直したらさすがに美味しさが半減する気がする。
「ポールさん、仕事が終わったらすぐ家に帰ってまた新しく作るので、それをご友人の下に持っていただいても良いですか? 出来立ての方が美味しいので……」
「大変じゃないかい?」
「はい。出来立てを持っていっていただける方がありがたいです」
「じゃあお願いしようかな。そういうことならこれはありがたくいただくね」
ポールさんはさっきまでの悲しげな表情から一転、楽しそうな笑顔で卵とじ丼を口に運んだ。
「レーナ、もう一つの相談はなんなんだ?」
幸せそうに卵とじ丼を食べているポールさんに苦笑を向けてから私に視線を移したジャックさんは、そう言って首を傾げた。
「もう一つはお母さんの仕事のことなんだ。昨日ジャックさんが火種を売る人なら資格がいらないって言ってたでしょ? それでお父さんは火種を売る屋台を始めることになったんだけど、お母さんがその屋台で食事を売る仕事をしたいって言ってて……それで、ポールさんが前に作ってくださった焼きポーツの肉巻きを、屋台で売っても良いのか相談したかったんです」
後半はポールさんに向けて発すると、ポールさんは悩むこともなく頷いてくれた。
「別に良いよ。僕は自宅で楽しんでるだけだし、あの味付けは他の応用だからね。でも焼きポーツを巻くっていうのは街中では珍しいと思うから、もしかしたら人気になるかも」
「ありがとうございます! 人気の屋台になるように頑張りますね。主にお母さんがですが」
「僕も気軽に買えたら嬉しいから頑張って。一応僕が作ってるレシピは後で教えるよ」
これでお母さんの屋台に関しても準備が進められる。問題なく全員が仕事を始められそうで良かったな……後はお兄ちゃんが採用されるかどうかと、二人の屋台が上手くいって稼げるかどうかだね。
「そういえば焼きポーツの肉巻きなんてあったな。あれはかなり美味かった記憶がある」
「ジャックさんも食べたんだっけ? 屋台で売れると思う?」
「そうだなぁ。手軽に食べられるし売れるだろうけど、あのタレがもう少し緩くない方が良いんじゃないか? タレを固くして垂れにくくした方がより売れる気がする」
確かに……! 屋台飯はそういうちょっとした工夫による食べやすさって大切だよね。
「ありがとう。お母さんに提案してみるよ」
「タレを固くするのも良いけど、焼きポーツの方に味をつけても良いかもね。それなら肉につけるタレは軽く塗るぐらいにできるかも」
「それもありですね。そういえば、焼きポーツにミルクを加えてみるっていうのはどうなりました?」
ポールさんが試してみると言っていた改良案について聞いてみると、ポールさんは微妙な表情を浮かべた。
「ミルクはあんまり合わなかったんだよね。それよりもハーブ系を混ぜた方が美味しいと思う。トウカで辛味を追加するとか。そうだ、後はナルも意外と合ったよ。ナルって食べたことある?」
「この前カッチェを食べた時にかけてもらいました。確かにあれは焼きポーツに合う気がします」
少し癖があるからいくつかの種類を作るのが良いかもしれない。ノーマルな焼きポーツとトウカ入りの辛いやつ、それからナル入りの少し癖が強いやつ。この三種類でいこうかな。
「色々なご提案をありがとうございます。お母さんと一緒に美味しい焼きポーツを作りますね」
「楽しみにしているよ」
そうしてポールさんへの相談を終えた私は、お昼ご飯に美味しい胸肉の卵とじ丼を堪能して、午後の仕事にも精を出した。
ポールさんの友人だという人に、興味を持ってもらえると良いな。
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