第37話 お店の案内
休憩室から廊下に出ると、右斜め前にドアがあるのがまず目に入った。このドアの先が店舗部分らしい。
「今の時間は……あと少しで開店ね。先に店内を案内しちゃいましょうか」
時計を見てみると、今は四の刻の十一時を少し過ぎた頃だ。今日はかなり早めに来たので、私の勤務開始時間である五の刻までまだ少し時間がある。ちなみにお店の開店時間も五の刻らしい。
ドアを開くとそこは、店舗にあるカウンターの中のようだった。そこでは他の従業員の人たちが忙しく準備を進めていて、ぐるりと店内を見回すと商品はすでに並べられているようだ。
「うちの商会が扱うのは高級食品が中心で、あっちの棚が生鮮品、向こうが調味料系のもの、そして向こうがスパイスや他国からの輸入品である珍しいものね。高いものは店舗に置いてあるのは少しだけで、後はカウンターの中と二階の倉庫に在庫があるわ」
高級食品が中心だという言葉通り、私が知っているものはほとんどないみたいだ。見たことがあるような野菜や肉も木箱に入れられていたりするから、ブランド品とか見た目は似てるけど希少なものとか、そういう市場で売ってるものとは一線を画すものなのだろう。
「スラム街支店で売っているようなものは、ここでは一切売っていないのですか?」
「売ってないわね。そういうものは市場に行けばどこでも買えるから、同じものを売っていても仕方がないのよ。市場のお店との差別化が大事よ」
確かにそれは大切だよね。市場の方が気軽に行けるし、同じものを売ってたらわざわざここにくる人は少ないだろう。
「私が知らない商品ばかりなので、どんなものなのか後で教えてもらえますか?」
「それはもちろんよ。後で商品の一覧が載った資料を渡すわ。それを読んで分からないところとか、読めない部分があったら聞いてくれれば良いから」
「ありがとうございます」
「じゃあ次に行くわよ。次はあそこにある部屋なんだけど」
そう言ってニナさんが示したのは、店舗のお客様入り口から見て右側の奥にあるドアだ。ちなみにカウンターは左奥にある。
「ここは応接室よ」
「おおっ、豪華ですね」
ギャスパー様の商会長室よりも見た目は華やかだ。ソファーとテーブルは装飾がされた優美なものだし、壁紙もおしゃれで生花が花瓶に生けられている。
「ここは大口の取引をしてくださるお客様と話をする場所よ。基本的にはギャスパー様が話をして、私たちはお茶やお菓子をお出しするの。そっちの扉がさっきの廊下に繋がってるわ」
店舗側の応接室への入り口から見て左側の壁にドアがあり、そこが廊下と繋がっているらしい。今度はそのドアを使って廊下に戻ると、休憩室があるのは左斜め前だ。目の前にはこの店舗の一階でまだ唯一入ってない部屋がある。
「ここはどんな部屋でしょうか?」
「ここは資料室よ。お客様の資料だったり、売り上げとか入荷についての資料とか、色々がまとめられてるわ。レーナは帳簿の計算確認の仕事もやるって聞いてるけど、それをやるのはこの部屋よ。テーブルと椅子もあるの」
ニナさんがドアを開いてくれたので中を覗くと、今は誰もいないようで窓からの光だけで薄暗い部屋だった。左右の壁には背が高い本棚が備え付けられていて、そこにはほぼ隙間なく資料が詰められている。
「ここの本棚に入りきらなくなったものは、二階の倉庫に移動するの。ここのものは基本的に店外持ち出し禁止だから覚えておいてね」
「分かりました。気をつけます」
「よしっ、じゃあこれで一階は終わりよ。次は二階に行きましょう」
階段は資料室から出て左手側の廊下の突き当たり部分にあり、二階に上がると廊下には四つのドアがあった。この前入ったギャスパー様の商会長室は、左奥にある部屋だ。
「右側の二つのドアは同じ部屋に入るドアで、ここが倉庫よ。あまり使わない道具とか、店舗に入りきらない長期保存可能な商品が入れられてるわ。そして左側の手前が会議室で、奥が商会長室ね」
ニナさんは商会長室以外の部屋はドアを開けて中を見せてくれた。会議室はテーブルと椅子が置かれた極々シンプルな部屋で、倉庫はかなりものが詰まっていた。でも雑然としている感じはなく、すべてのものが綺麗に整えられているところから、このお店の高級感が伝わってくる。
「これで案内は終わりよ。何か質問はある?」
「いえ、今のところは大丈夫です。案内ありがとうございます」
「確かにまだ何もしてないものね。これから働く上で分からないことが出てきたらなんでも聞いてね」
「分かりました。その時はよろしくお願いします」
私がそう言って軽く頭を下げると、ニナさんはにっこりと楽しそうな笑みを浮かべて「さて」と話に一区切りをつけた。
「さっそくだけどレーナちゃんには仕事をしてもらいましょうか。実は今日の午前中にやってもらう仕事は決まってるのよ。説明するから休憩室に戻りましょう」
おおっ、ついに仕事開始だ。私はどんなことをするのかとわくわくしながら、階段を降りて行くニナさんを追いかけた。
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