第34話 仕事初日
今日は記念すべき本店での仕事初日だ。私はお父さんに送ってもらって外門まで向かい、街中に入ってからは一人でロペス商会の本店までやってきた。
「おはようございますっ!」
昨日教えてもらった通りに裏口から中に入ると数人の従業員がすでにいたので、緊張しながら挨拶をする。あっ、ニナさんがいる。
私は知っている人がいたことに少しだけ安心して、強張っていた体から力を抜いた。
「レーナちゃんおはよう。早いのね」
「遅れちゃいけないと思いまして」
「良い心がけだわ。じゃあさっそくだけど色々と教えましょうか。そうだ、私がレーナちゃんの教育係になったからよろしくね。分からないことがあったらなんでも聞いてくれて良いわ」
「そうなのですね。ニナさんが教育係で良かったです」
「もう、レーナちゃんは本当に可愛いわね!」
「うっ……ちょ、……」
ニナさんは私が頬を緩めたら、可愛い動物に悶えるような表情をして私をギュッと抱きしめた。可愛いって言ってもらえるのは嬉しいんだけど……ニナさん、胸が大きいから……く、苦しい……
「おいニナ、レーナが苦しんでるぞ」
「え、うわぁぁ、レーナちゃんごめんね! 思わず可愛すぎて……」
「い、いえ、大丈夫です」
私はニナさんのちょっと苦しい抱擁から解放されて、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。ふぅ……空気が美味しい。
「本当にごめんね。……じゃあ気を取り直して、まずは更衣室に行きましょうか。新品の制服は仕立ててもらってるんだけど、別の店舗にレーナちゃんが着られるサイズの中古があって、昨日のうちに持ってきてもらったのよ」
「え、そうなんですか!? ありがとうございます。凄く嬉しいです」
制服を着るのはかなり楽しみにしていたので、予想外に今日から着ることができるという事実に、嬉しくて声が上擦ってしまう。
凄く着心地が良さそうでカッコいい制服なんだよね……レーナはチクチクする生地で作られた継ぎ接ぎとシミだらけのワンピースしか着たことがないから、パンツスタイルというだけで初体験だ。
そう、このロペス商会の制服は女性もパンツなのだ。男性よりも少しだけ細身のパンツに白くてふわっとした生地のブラウスを着て、男性のよりも丈が長めのジャケットを羽織っている。
これがめちゃくちゃカッコいいのだ。美人のニナさんが着ているとどこのモデルさん? ってほどに似合っている。
「レーナちゃんには絶対に似合うと思うわ。行きましょう」
楽しそうなニナさんに連れられて更衣室に入ると、更衣室の中にあるハンガー掛けに私の制服が掛けられていた。靴に靴下までちゃんとある……!
「ここに布を敷くからこの上で着替えましょうか。その靴を脱いでくれる?」
「分かりました」
「スラム街に住む人たちはそんな靴を履いてるのね」
「はい。森から取ってきた草でお母さんが作ってくれるんです。ただ雨の後はほとんど意味がない靴なんですけど」
「確かに防水性はなさそうね」
そんな会話をしながら靴を脱ぐと、ニナさんは濡れた布で私の足を綺麗に拭いて靴下を履かせてくれた。靴下を履く感覚久しぶりだ……!
それにこの世界には驚くことに、ゴムのような素材まであるらしい。靴下はふくらはぎの途中までの長さだけど、何かで止めたりすることもなく落ちてこない。
「下着はつけてるのかしら?」
「下だけは履いてます。でも上は何も着てません」
「じゃあ肌着も支給にしましょうか。えっと……」
更衣室にある棚の中をゴソゴソと漁ったニナさんは、とても肌触りの良いシンプルなキャミソールのようなものを渡してくれた。
「これもあげるわ」
「ありがとうございます」
「じゃあ私は後ろを向いてるから、肌着を着てその上に白いブラウスを着て、このズボンを履いてね。ベルトとかは私が付けてあげるからそのままにしておいて」
「分かりました」
いつも着ているワンピースを脱いで制服と比べてみると、新品の布と使い古した雑巾ぐらいの差がある。こうして比べると悲しくなる差だよね……
肌着を手に持ってみると、地球のものに例えたら綿100%の肌着って感じだった。それを着て次はブラウスを手に取る。おおっ、ブラウスは凄く繊細で柔らかくて、サラサラとした布が使われているみたいだ。ズボンは……かなりしっかりとした布だね。
いずれにしても、継ぎ接ぎなんてなくてとても綺麗で肌触りが良い服だ。やっぱり綺麗な服を着ると気分が上がる。
「着れました」
「……うわぁ、とっても似合ってるわ!」
振り向いたニナさんは私の姿を見て瞳を輝かせ、嬉しそうな笑みを浮かべながらそう褒めてくれた。
「ありがとうございます。とても着心地が良いです」
「この制服は良い生地を使ってるのよね。じゃあ私が整えて良いかしら?」
「もちろんです。よろしくお願いします」
それからニナさんにベルトの付け方を教えてもらってジャケットを羽織り、髪を綺麗に結び直してもらった。そして最後にピカピカに光っている革靴を履いたら、着替えは終了だ。
私は更衣室の中にある姿見に自分を映して、生まれ変わった自分に見惚れた。こうして一度綺麗になっちゃったら、またあのボロいワンピースを着てスラムに戻るのが嫌になりそうだ。
「とっても素敵よ。あとはこれも受け取ってね。商会員は全員が貸与される時計で、基本的には内ポケットに入れて持ち歩くの」
「ありがとうございます。凄く綺麗ですね」
時計は装飾なんてなくて実用一辺倒って感じだけど、それでも凹みや尖ってる部分などが一切ない金属というだけで凄く綺麗だ。
「時計の見方は分かる?」
「いえ、まだ教えてもらってなくて」
「それなら後で教えるわね。とりあえず内ポケットに入れておいて」
「はい」
そうしてニナさんに手伝ってもらいながら身嗜みを整えた私は、更衣室を出て休憩室に戻った。
〜あとがき〜
皆様お久しぶりです。
レーナの物語を楽しんでいただけているでしょうか。面白いと思っていただけていたら私にとってはそれが何よりも嬉しいです。
本日は一つお知らせがあるのですが、こちらの小説は明日から基本的に毎日1話更新とさせていただきます。2話更新は終了となりますが、毎日更新は続けますのでこれからも楽しんでいただけたら嬉しいです!
レーナ頑張れ。この世界観好き。もっと続きを読みたい。
などと思っていただけましたら、☆評価や応援コメントなどいただけると作者が飛び上がって喜びます。執筆の励みにもなりますのでぜひよろしくお願いいたします!
蒼井美紗
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