第十四章 夢に向かって

 早朝4:00


 準備を終えたジミーは車に乗り込む。


「ほな、行ってくるよ」

『最終戦頑張ってね』

『今日のレース応援に行けんけど、夢叶えてお嫁さんにしてもらうの待っとるけん』


 そう言いながら、


『あ!はいコレ、お弁当』

「ありがとう、愛してるよ」

「夢掴んで帰って来るわ!」

「ほな、行ってきます」


 ジミーは運転席から顔を出してジュリアにキスをし、手を振りながら車を発進させ会場に向かった。


 大会当日、天気は晴天に恵まれて、11月なのに暑いぐらい。

 この最終戦にあの四名のライダーがチャンピオン争いをするということで徳島県、《美馬モーターランド》には、前代未聞の観客動員数となった。


 各クラスの練習走行が終了し、ライダーやメカニックは決勝に向けて最終調整をする。


 そんななか、サーキット場に車が一台到着する。


 いかにも本職と若い衆らしき二人が車から降り、ドーナツ化現象を起こしながらジミーのピットへ向かう。


『よぉ~ジミー調子はどう?』


 その二人は、店のオーナーとスポンサーしてくれた社長だった。


「オーナー、社長、応援に駆けつけて頂きありがとうございます」

「緊張してますが、絶好調ですよ」

『ほな、良かったわ』

『俺は昨日、お前の店で前祝いで飲み過ぎて、二日酔いじゃわ』


 と、社長は笑う。


『ジミー、今日は頑張れよ』

『お前は約束通り、徳島の知名度上げたな』

『大会期間中、レースみてくれた人が夜、秋田町に飲みに出ててな』

『うちの店も繁盛したわ』

『お前に使った店の経費、元が取れたぞ』


 オーナーも笑いながら言う。


 二人の笑い話で、ジミーの緊張は少しほぐれた。


 そして、決勝30分前になり、


 ジミーのピットに、車椅子に乗った《ヤマハ・ファクトリー・レーシングチーム》の総監督である市原が来る。

 市原は、ジミーの兄貴的存在で子供の頃から一緒にレースをしていた。


『よ、調子は?』

「プレッシャー半端ないですよ」

『だろうな、俺は自分のチームの総監督としてうちのチームのトッチーにチャンピオンになってもらわないと困るのだが』


 笑いながら市原は言う。


『俺と同じ出身で、子供の頃からの仲やし、しかもここ地元で、ジミーにも勝ってもらいたい!なんか複雑な気持ちじゃわ』

『せっかくジミーが復活したからまた一緒にレースしたかったんやけど、この足じゃな』

『あっ!レース前にすまん』

『ま、堂々と応援できない複雑な気持ちやけど頑張れよ!』


 そう言うと、車椅子を漕いでピットを後にする。


 市原こそ、天才ライダーと言われ、世界GPのチャンピオン候補だったのだが、

 レース中のクラッシュに巻き込まれ、重傷を負い、一命を取り留めるも車椅子生活となったのであった。


 そして、各ライダーがスターティンググリットへ!


『さぁ!2023年いよいよ全日本モトクロス選手権最終戦、ここ徳島県美馬モーターランド』

『30分+1周で行われるこの国際A級クラス』

『本日、晴天に恵まれてコースはベストコンディション』

『昨日の予選で通過した、30台のマシンのライダーが、横一列に並び終えた』

『今年はあの四名のチャンピオン争いで、誰がチャンピオンになるのか、また新優勝者が現れるのか?』

『間もなくスタート、15秒前』


 エンジン音と共にMCよっちゃんの実況が入る。


【15秒前】のボードをレースクイーンにより提示され


 ・・・・・


 そして遂に、コースオフィシャルが【5秒前】のボードを出す。


 "爆音が会場に響き渡る"


『さぁ!スタート5秒前・・・』


 ・・・4・3・2・1


 “ガチャン”とスタートゲートが解除され、"我こそが"とライダーが一斉にスタートする。


『スタートしたぞ!』


 アクセル全開で1コーナーへ向かうライダー達・・・


『さぁ、ホールショットは大島だ!大島が』

『あぁっっっ!なんと1コーナーでクラッシュだーっ!』


 砂埃が舞う中、1コーナーで大クラッシュが起こる・・・


『2コーナーへ向かうトップは、大島』

『二位はトッチー』

『三位は?』

『おっと、Mr.チャンプとジミーの姿が無い』


 なんと、あの四名のチャンピオン争いのうちの二人が、クラッシュに巻き込まれていた。


『おおっ!クラッシュに巻き込まれていた、Mr.チャンプ再スタート』

『ジミーはどうした!?エンジンがかからない・・・』


 ジミーは、バイクを起こし、キックを踏み、再スタートをしようとするが、エンジンが目覚めない・・・


 諦めず、何度も何度も、キックを踏む。


 "ヴォ~ン、ヴォ~ン”と、やっとエンジンが目覚めた!


 ギヤを入れ、クラッチを離し、ジミーはアクセル全開で再スタートする!!


『やっと、やっと、掛かったぞ!』

『トップから約半周離されたジミー、再スタートしたぞ』

『コレはどうなる追いつくか?』


 ホールショットを取った大島が、トップを走る。


『このまま大島が逃げ切り、チャンピオンになるのか?レースはまだ始まったばかり』

『誰が栄光を掴むのか?楽しみだぜ』


 ジミーは、再スタートし、幸いにもマシンにダメージが無く快調に飛ばす!


『社長、めっちゃ出遅れたので今大会チャンピオンは難しいですかね?』

『いや!ゴーグル越しに映った瞳、あいつは諦めてないぜ』


 オーナーと社長は、ジミーを見守り、


『いけー』

『ばか!あの野郎飛ばし過ぎだ』


 そう言いながら坪井と京子は、ジミーにサインボードを出す。


 5周目


 変わらずトップは大島、トッチーと続く。


『流石ベテランライダー、トッチィーにロックオンされるも、今までの経験を生かしプレッシャーに負けじとトップをキープする』


 そこへ、遅れを取っていたMr.チャンプが三位まで追い上げて来た。


『おっと!Mr.チャンプ、スタートのクラッシュに巻き込まれたものの、勢いよく飛ばし、なんと三位まで浮上だ』

『このまま行くとトップに追いつくぞ、頑張れMr.チャンプ』


 各ライダー、夢に向かってゴールを目指す!!


 

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