第15話 夢の終わり

 ゆめた。ふかい森の中で、植物しょくぶつのモンスターとたたかう夢だった。

 そして、夢は一つのわりをむかえた。


   ◇


「え、えっと、本日ほんじつはおいそがしいなか、おあつまりいただき、ありがとうございます」

 レイトが緊張きんちょうして、みんなのまえ挨拶あいさつした。相変あいかわらず、かみがボサボサで、黒縁くろぶち眼鏡めがねで、いかにも普段着ふだんぎな、ラフでヨレた服装ふくそうだ。

 避難所ひなんじょさわぐわけにもいかないだろうと、あさ解散かいさんして、ひるにトウカていあつまりなおした。現実げんじつ用事ようじ優先ゆうせんする人もおおく、祝勝会しゅくしょうかい参加者さんかしゃは三十名ほどだ。

 その全員ぜんいんが、ひろ芝生しばふにわつどって、レイトに注目ちゅうもくする。手に手にみもののがれたかみコップをって、乾杯かんぱい音頭おんどつ。

「リーダーなんだから、もっとえらそうにしていいんだぜ、レイト司令しれい!」

 シバタが、たのしげなかる口調くちょう茶化ちゃかした。高校生で長身ちょうしん体格たいかくのいい、短髪たんぱつのイケメンスポーツマンだ。Tシャツにジーンズとラフな服装ふくそうで、さわやかな笑顔えがおまぶしい。

 れたレイトが、あかかおうつむき、ボサがみく。

「いや、まあ、と、とりあえず、乾杯かんぱいしましょう。乾杯かんぱい!」

『カンパーイ!』

 ひかえめにかみコップをかかげるレイトに合わせて、全員ぜんいんかみコップをかかげた。

 歓声かんせい拍手はくしゅわらごえひろがる。レイトがペコペコとあたまをさげながら、こちらにあゆる。

「トウカさん。きゅうにわしていただいて、みません」

「おになさらないで、レイトさん。みものもべものも食器しょっきも、すべみなさんに提供ていきょうしていただきましたから、わたくし場所ばしょ提供ていきょういたしましただけでしてよ」

 トウカが、御嬢様おじょうさま微笑びしょうこたえた。

 トウカは高校生で、あかるくやさしくて、たかくて、スタイルがくて、サラサラストレートのなが黒髪くろかみで、美女びじょだ。ふくは、御嬢様おじょうさまかんのある、フリルフリルしつつも清楚せいそなブラウスとスカートだ。

 トウカのいえは、閑静かんせい住宅街じゅうたくがいにある、ひろにわのある、大きな白い邸宅ていたくである。庶民しょみんおもえがく、お金持かねもちのいえである。

「そんなかしこまってないで、レイトもたのしくやりなさいよ。まちすくったおいわいなんだから」

 わたしは、手にしたかみコップからジュースを一口ひとくちんで、芝生しばふかれたレジャーシートにすわる。

 DFでは最強さいきょう戦士せんしだったわたしも、現実げんじつでは普通ふつうの中学生である。かたくらいまでのながさの黒髪くろかみの、小柄こがら華奢きゃしゃな、地味じみ文学系ぶんがくけい女子である。余所よそきのちょっといいふくで、おめかしはしている。

 わたしのとなりに、いもうとのセイナもすわる。ひとおおくて大人おとなおおくて委縮いしゅくして、わたしの背中せなかかく気味ぎみである。

「町をすくったなんてわれても、実感じっかんかないな。ボクたちは結局けっきょく、DFがなにかも、あのたたかいの意味いみも、セカンドたちのはなしでしからないんだ」

 レイトがレジャーシートのすみすわった。

 ミカがセイナのとなりすわる。クッキーを手にり、口にはこぶ。

 ミカは、おなじ中学校のとなりのクラスの女子である。黒髪くろかみポニーテールで、たかくて、むねが大きくて、テニス所属しょぞくする。半袖はんそでTシャツにたんパンにブーツと、普段着ふだんぎはじめてたかもれない。

 わたしもおなじクッキーを手にり、べる。レジャーシートには、ペットボトルやお菓子かしがたくさんならぶ。

炭酸たんさんはシュワシュワちて苦手にがてでちゅ。オレンジジュースがみたいでちゅ」

 セカンドが、炭酸たんさん飲料いんりょうがれたかみコップをかえしてきた。

「ざぁこ、ざぁこ。セカンドってば、本当ホントにオコチャマぁ。アタシはもう大人おとなだからぁ、炭酸たんさんくらい……ちょっ、なにこれ、シュワシュワしてっ、いたっ、いたっ」

 サードが、炭酸たんさん飲料いんりょうがれたかみコップをしつけてきた。

 セカンドとサードは、植物しょくぶつ集合しゅうごう意識いしきとかいうなぞ存在そんざいである。た目は、幼女ようじょと女の子で、人間にんげんえる。

 セカンドは、五、六さいくらいの幼女ようじょである。なが波打なみうしろかみで、白いはだで、白いレースの、フリルでかざられた白いドレスをる。

 サードは、十さいくらいの生意気なまいきな女の子である。ふわふわとしたくせながむらさき色のかみで、はだ日焼ひやけして、わらう口に八重歯やえばのぞく。

 きめこまかいのレースの、くろいリボンがきついた、黒いチューブトップに黒いミニスカートをる。両手りょうては黒いレースのなが手袋てぶくろつつみ、くつはヒールのたかい黒いブーツをく。

 わたしは、かみコップをりながら、サードをにらむ。サードに二度にどひどい目にわされたセイナが、背中せなかかくれる感触かんしょくがある。

「ちょっと、サード。敗者はいしゃのあなたがどうして祝勝会しゅくしょうかいにいるのよ?」

「ざっ、ざぁこっ! アタシだけ仲間なかまはずれとか、ひどぉいぃ。レイトッチからも、っちゃってやってよ!」

 サードがレイトの背中せなかかくれた。

 いつの仲良なかよくなったんだ、みたいな疑念ぎねん視線しせんあつまって、レイトのかお困惑こんわくかぶ。

たたかいはわったんだから、いいんじゃないかな。もうてきになることもない。ともだちになりたいって相手あいてを、過去かここだわって排除はいじょするなんておろかだ」

 レイトの口調くちょうは、つかれてはいても、おだやかだ。

 サードはかおにする。

「は、はぁ?! だっ、だれが友だちになりたいなんてったのよ、ざぁこ? アタシは友だちたくさんいるから、いまさらしいなんておもわないんだからねっ!」

 かりやすいかただ。

「ま、まぁ、ざぁこちゃんたちがぁ、どうしてもぉ、お友だちになりたいって言うならぁ、アタシはべつ拒否きょひったりしないんだけどぉ」

 れて赤面せきめんして、ちょっとうれしそうで、どんどん小声こごえになって、最後さいごほうはよくこえなかった。

 かりやすいかただ。

「だいたい、あなたたちって、結局けっきょくなんなのよ? どうして、人間にんげん姿すがたで、普通ふつう現実げんじつにいるのよ?」

 わたしは、サードをにらんだままいた。いまさらながら、不思議ふしぎなことばかりだ。

 DFの存在そんざい自体じたいなぞすぎるので、かんがえるだけ無駄むだだとってはいる。元凶げんきょうたるファーストのお使つかいにぎない二人にいても無意味むいみだろう、ともかる。分かっていても、くのを我慢がまんは、できない。

植物しょくぶつ集合しゅうごう意識いしきでちゅ」

 セカンドが、簡潔かんけつこたえながら、オレンジジュースをる。両手りょうてでしっかりとって、ちいさな口にはこぶ。

 幼女ようじょだ。完全かんぜんに幼女だ。

「それはもういた。りたいのは、黒幕くろまくのファーストってやつのことよ。つまるところ、そいつはなにがしたかったの?」

「ファーストは、最初さいしょ植物しょくぶつ集合しゅうごう意識いしきでちゅ。目的もくてきは、植物しょくぶつ生息せいそくいき人間にんげんからもどちゅことでちゅ」

 セカンドが、かみコップを口からはなして、簡潔かんけつこたえた。

 サードがうなずく。

 きっとそれが、セカンドとサードの事実じじつである。

 それももういたし、っている。知りたいのは、上手うまくは表現ひょうげんがたい、もっと本質的ほんしつてきな何かである。

推測すいそくいきないけど」

 レイトが、ひくいテンションで口をひらいた。

 全員ぜんいん注目ちゅうもくする。大人おとな同士どうし談笑だんしょうしていたグループも、こっちをる。

 レイトは、大勢おおぜい視線しせん委縮いしゅくする。DFではたよれるリーダーも、現実げんじつだと勝手かってちがうようである。

「えっと、その、ファーストさんも、あそびたかったんだとおもいます。セカンドちゃんやサードとおなじで、はじめておたがいを認識にんしきできる場所ばしょて、うれしかったんでしょうね」

根拠こんきょは何よ、レイト? ファーストって、神様かみさまみたいなものじゃないの?」

「そうよ、ざぁこ。ファーストさまはぁ、偉大いだいでいらっしゃるのよ」

 サードが腕組うでぐみして、がことのように自慢じまんした。

 わたしはおもわず舌打したうちした。こいつとだけは仲良なかよくできるがしない。

根拠こんきょは、人間にんげんがわ植物しょくぶつがわ戦力せんりょくだ。終始しゅうし片方かたほう圧倒的あっとうてき有利ゆうりなんてことはなかったし、一方的いっぽうてき戦況せんきょうも、絶対ぜったいてない状況じょうきょうもなかった。ずっとだれかが戦力せんりょくバランスを調整ちょうせいしてたかんじだった」

王樹おうじゅけたら、強化能力者バッファーのセイナちゃんがあらわれた。王樹おうじゅたおせるとおもったら、サードちゃんに勝負しょうぶをひっくりかえされた。サードちゃんはユウコちゃんよりつよくて、特殊とくしゅ能力のうりょくちで、それでもちはめられなかった、ってことだな?」

 シバタが補足ほそくした。

 レイトがうなずく。

 シバタも、レイトにちか頭脳派ずのうはである。イケメンスポーツマンなのにあたまもいい。うらやましい。

「ファーストさんは、人間にんげんかすだけなら、どうとでもできたはずだ。多勢たぜい無勢ぶぜいつぶせば簡単かんたんてただろうに、自分じぶんつくった特殊とくしゅ場所ばしょで、わざわざ互角ごかく戦力せんりょくで、参加者さんかしゃ被害ひがいないようにきそった。そういう意味いみで、ためしであり、あそび、ってこと」

 レイトの結論けつろんは、一定いってい説得力せっとくりょくがあった。なぞ相手あいてたいする推論すいろんだから、一定のうたがわしさもあった。

「あらあらまぁまぁ。なぞ植物しょくぶつなぞのガスも無害むがいだと、調査ちょうさ結果けっかていましてよ。かったですわね」

 トウカが、スマートホンでSNSをながら、やさしい微笑びしょうげた。

「となると、ファーストさんには最初さいしょから、侵食しんしょくするすらなかったのかもね。ボクたち人間にんげんがわ本気ほんきたたかうための理由りゆう用意よういして、本気のゲームをたのしみたかっただけなのかも」

「ふぅん。まぁ、結果的けっかてきに、わたしたちがって、サードたちがけたんだから、どうでもいいわ」

 わたしは、完全かんぜん理解りかいしたドヤがおで、納得なっとくした。レイトたちが何をいたいのかは、いまいち分からなかった。

「はぁ?! アタシはけてませんけどぉ?! 負けたのは王樹おうじゅだしぃ、この天才てんさい可憐かれんなアタシが負けるわけないんですけどぉ?!」

 サードが何故なぜおこった。

「レイトッチもなんとかってやってよぉ! ざぁこ、ざぁこ!」

 レイトの背中せなかに、サードがかくれる。したして威嚇いかくしてくる。

 たたかいのわったいまとなっては、子供こどもっぽい悪態あくたい微笑ほほえましい。DFでごした時間じかんが、なつかしくさえある。

「はいはいけてない負けてない。二人とも、お菓子かしべるでしょ?」

あまいお菓子かしなら、べるでちゅ」

あまくないのはダメよ、ざぁこ。わないと分からないなんて、本当ホント使つかえないざぁこね」

 おだやかなわらごえが、ひろにわひろがる。わたしは微笑ほほえんで、クッキーをわたす。

 もう、わってしまうのだ。現実げんじつつづくけれど、DFはわったのだ。

 自分じぶんも、クッキーを口へとはこんだ。サクサクとしたあまさと、大好だいすきなゲームがエンディングをむかえてしまったようなさびしさを、わたしは一緒いっしょみしめていた。


   ◇


 そのよる、わたしはゆめた。

 レイトと二人で、ふかい森の中にいた。

「ざぁこ、ざぁこ。ファーストさまのご指示しじでぇ、第二セカンドステージの説明せつめいをしてあげちゃうからぁ、ありがたくきなさいよ、ざぁこ」

 サードが生意気なまいきめポーズで、わたしをゆびさす。

 わたしは反射的はんしゃてきに、サードをゆびさしかえす。

「ちょっとっ、セカンドステージってなによ!? わたしたちがったでしょ?! あなたたちがけたでしょ?!」

 こしした日本刀にほんとうと、視界しかいはしのピンクいろかみかった。ここは、DFだ。

「はぁ?! アタシはけてませんけどぉ?! なんならぁ、この突剣レイピアでぇ、どっちが上かぁ、また分からせてあげちゃおっかぁ?」

 サードが何故なぜおこった。

「そういうのはいいから、説明せつめいしてもらえる?」

 レイトが、テンションのひく口調くちょうで口をはさむ。黒縁くろぶち眼鏡めがねおくのやるのない目は、これ以上いじょう衝突しょうとつ牽制けんせいするように、わたしとサードを交互こうごに見やる。

「レイトッチがそううならぁ、説明せつめいしてあげないこともないわ。第二セカンドステージの期間きかんは七日でぇ、人間側にんげんがわ勝利しょうり条件じょうけんはぁ、植物しょくぶつがわのボスの撃破げきはよ。くわしくはぁ、七日あるんだからぁ、自力じりき調しらべなさいよね、ざぁこ!」

 サードが生意気なまいきめポーズで、わたしをゆびさした。

 わたしは反射的はんしゃてきに、サードをゆびさしかえす。

「ほとんど説明せつめいになってないじゃない!」

「そういうのはいいから」

 仲裁ちゅうさいしようとするレイトを、わたしはしのけた。こしかたなき、さきをサードにけた。

「やってやろうじゃないの! どっちがつよいか分からせてあげるから、あなたもきなさい、サード!」

「ざぁこがイキっちゃってぇ、かわいいんだぁ。でもでもぉ、生意気なまいきなざぁこちゃんにはぁ、オシオキが必要ひつようだよねぇ」

 サードがこし剣帯けんたいからレイピアをいた。

 サードはわらっていた。わたしもわらっていた。レイトがあきがおで、でも、どこかたのしげにかたすくめた。

 たのしくてたのしくて仕方しかたなかった。またみんなと一緒いっしょあそべるんだと、うれしかった。

 ああ、ねがわくば、この時間じかん永遠えいえんつづきますように!



少女しょうじょかたなふかもり 最終話さいしゅうわ ゆめわり/END

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少女と刀と深い森 リュカギン @ryukagin

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