第14話 最終決戦 後編

 ボクは、ゆめを見ていた。夢の中で、リーダーとばれていた。

 不思議ふしぎな夢だった。ふかい森の中で、たくさんの人たちを指揮しきして、植物しょくぶつのモンスターとたたかっていた。

 ゲーム感覚かんかくころも、まち命運めいうんかかっても、ボクのやることはわらない。勝利しょうり目指めざすだけだ。仲間なかましんじて、最善さいぜんくすだけだ。


   ◇


「リーダーから指示しじ! 全員ぜんいん後退こうたい! とりあえず、交戦こうせん状態じょうたいから離脱りだつしろって!」

 ミカがこえをあげた。

 唐突とうとつだった。たたかいは有利ゆうりすすみ、棒持ぼうもちモンスターを順調じゅんちょうらしていた。現状げんじょう戦闘せんとう中断ちゅうだんするなんて、意味不明いみふめいだ。

「どうしたの、ミカ?」

 わたしはミカにいた。かんがえるまでもなく、リーダーのレイトからの指示しじ理由りゆうを、ミカがるわけがない。

「どうしてだろ? とりあえず離脱りだつしよう、ユウコ。たぶん、リーダーから説明せつめいがあるとおもう」

 全員ぜんいんうなずき、隊列たいれつたもって、すこしずつさがる。棒持ぼうもちの、ながぼう攻撃こうげきびてくる。ミカが大斧おおおのをぶんまわして、はらう。

かった!」

 わたしは、ミカよりまえる。ってくる棒持ぼうもちの一体いったいを、かたなりおろしで両断りょうだんし、す。

いまのうちにさがって! わたし一人なら、簡単かんたん離脱りだつできるから!」

「おねがい、ユウコ! 迷子まいごにはならないようにね!」

 ミカのこえが、背後はいごからこえてくる。

 二人でたたかっていたころおもされて、たのしい。今をミカと一緒いっしょたたかえることが、うれしい。

「ユウコ! 前方ぜんぽう五体だけたおしたら、木をたてにしながらさがって! それで離脱りだつできる!」

 後方こうほうから、ミカの声がこえた。

了解りょうかい、ミカ! 楽勝らくしょうよっ!」

 わたしは、たか元気げんきよく、返答へんとうした。


   ◇


「なあ、レイト司令しれい。どうしてサードは、セイナちゃんをさないんだ?」

 シバタが、不安顔ふあんがおくびかしげた。さわやかイケメンのシバタの不安顔はめずらしい。

 配置はいち変動へんどうから推測すいそくするに、数分すうふんまえにセイナがサードにつかまった。遠隔えんかく指示しじ不利ふりはあっても、発見はっけんされるのが予想よそうよりもはやすぎた。サードがてき位置いち把握はあくするたぐい能力のうりょく可能性かのうせい考慮こうりょすべきだ。

 セイナの護衛ごえい二人はえた。セイナは何故なぜえず、王樹おうじゅ本隊ほんたい方向ほうこうへと、サードと一緒いっしょ移動中いどうちゅうだ。

 強化バフ継続けいぞくしている。強化能力者バッファーのセイナはえていない。サードがセイナをさない理由りゆうは、いくつか推測すいそくできる。

理由りゆうは、サードが愚鈍ぐどん場合ばあいと、狡猾こうかつ場合ばあいで、複数ふくすうかんがえられます」

 ボクは、冷静れいせいつづける。ここまでは、想定そうていしてある。

愚鈍ぐどん場合ばあいは、もっとあそびたいとか、まだ満足まんぞくしてないとかです。狡猾こうかつ場合ばあいは、強化バフうしなったボクたちがげて長期戦ちょうきせんになるのをきらったか、こちらの戦意せんい完全かんぜんって勝敗しょうはいけっするか、あたりだとおもいます」

「……なるほど。たしかに、こっちはセイナちゃんがえただけじゃあ、けにはならないもんな」

強化バフ有無うむだけで勝敗しょうはいまる、とかんがえる相手あいてなら、らくてたでしょうね。強化バフがなくても、ユウコかトウカさんなら王樹おうじゅたおせる可能性かのうせいがある、とボクもサードもかってます」

「ふぅん。トウカだけじゃなくて、ユウコちゃんも、か。レイト司令しれいの中で、ユウコちゃんの評価ひょうかがいつのにかあがったみたいだけど、そこにあるのは信頼しんらいか、それ以上いじょう感情かんじょうかな?」

 シバタが勘繰かんぐみをかべた。

「ここは、のぞみの反映はんえいされる空間くうかんです。ユウコののぞみは、ここでのたたかいをとおしてわりました。いまのユウコは、間違まちがいなく、最強さいきょう戦力せんりょくです」

 ボクは、抑揚よくようすくなくこたえた。

「いやはや、オレらの司令官しれいかん本当ほんとうに、方法ほうほうしかかんがえてないのな。で、こっちの戦意せんい完全かんぜんるとなると、なにをしてくるかな? セイナちゃんを人質ひとじちおどす、とかか?」

「それから、たすけようとしたところで公開こうかい処刑しょけい、ですね。セイナちゃんをまもろうと一致団結いっちだんけつして、士気しき最高潮さいこうちょうたっした瞬間しゅんかんに、守りたい対象たいしょうたのみの強化バフ同時どうじうしなう。その様子ようす後方こうほう支援しえん部隊ぶたいのカメラさんに中継ちゅうけいさせれば、全員ぜんいん戦意せんいが、ほぼ間違まちがいなく、完全かんぜんれます」

 事態じたい理解りかいしたシバタのかお蒼褪あおざめる。

「……そりゃ不味まずい。で、どうする、レイト司令しれい? いまはなしを、前線ぜんせん隊長たいちょうたちにつたえればいいか?」

「今のはなしと、予想よそうされるサードの能力のうりょく、セイナちゃんの公開こうかい処刑しょけい可能性かのうせいを、かく部隊ぶたい隊長たいちょうつたえてください。対応たいおうは、前線ぜんせん把握はあくしている隊長たいちょうたちにまかせます。みなさんなら、この最悪さいあくのピンチを、最大さいだいのチャンスにえてくれるはずです」

 ボクは冷静れいせいだった。いつもとわらないテンションのひく口調くちょうで、絶対ぜったい信頼しんらい自信じしんこころにあった。


   ◇


 サードは、王樹おうじゅひきいる植物しょくぶつがわ本隊ほんたい合流ごうりゅうした。

 人間にんげんがわ強化能力者バッファーらえた。たかれ木タイプのモンスターに、荒縄あらなわでグルグルきにしばりつけた。

「ざぁこ、ざぁこ。つかまって人質ひとじちにされるマヌケなざぁこは、いまどんな気持きもちぃ?」

 れ木タイプのえだち、すぐよこ人質ひとじちはなしかけた。

 人質ひとじちの女の子が、恐怖きょうふ表情ひょうじょうらせる。それでも、くっしないとばかりに、反抗はんこうの目でにらかえしてくる。つぶらなひとみには、なみだかべる。

 背後はいごは、王樹おうじゅがそそり立つ。前方ぜんぽうは、いばらタイプのモンスターがおおう。周囲しゅういは、棒持ぼうもちモンスターがあつかこむ。

 鉄壁てっぺきまもりである。

 これから実行じっこうする作戦さくせんで、ちがまる。天才てんさい司令官しれいかんサードさま華麗かれい指揮しきで、植物しょくぶつがわ大勝利だいしょうりまくがおりる。

 完璧かんぺき結末けつまつである。

「さぁて、っと。それじゃあぁ」

 サードはちいさく咳払せきばらいする。つづけておおきくいきう。

『ざぁこ、ざぁこ! ざぁこどものふだちゃんは、アタシのよこ拘束こうそくされてるわよぉだ! この切り札ちゃんをされたくなければ、大人おとなしく降伏こうふくしなさぁい!』

 サードのこえが、大音量だいおんりょうで、ふかい森にひびいた。

 大音量がしずまって、森に静寂せいじゃくもどる。人間にんげんがわ後退こうたいしてから、戦闘せんとうはない。おとがなくなるくらいに、なにうごかない。

 サードは意地いじわるみをかべる。人質ひとじちの女の子の、くやしさにゆがかおを、たのしげに見つめる。

 この状況じょうきょう人間にんげんがすることは、だいたいまっている。

みなさんっ! わたしにかまわず、たたかってくださいっ!」

 人質ひとじちの女の子がさけんだ。

 それだ。それでいい。それでこそ、この状況じょうきょう人間にんげんだ。

「わたしはえても、気持きもちはみなさんと一緒いっしょです! 大事だいじな人たちをまもるために、たたかってください! わたしも、気持ちだけでも、みなさんと一緒いっしょたたかいます!」

 健気けなげな女の子の覚悟かくごが、ふかい森にひびく。かぜかせて、らす。

 サードは嘲笑ちょうしょうで、ジッとつ。一分いっぷんにもたない、ほんの数十秒すうじゅうびょうである。

『うおーっっっ!!! かならずっ!!! たすけるっ!!!』

 周囲しゅういから、雄叫おたけびがあがった。ふかい森に、ひびいた。熱気ねっきが、せた。

「ひっ……?」

 猛々たけだけしい雄叫おたけびに、サードは一瞬いっしゅんおびえた。ビクッとかたふるわせ、後退あとずさって、えだからちそうになった。

「ざ、ざぁこっ! ざぁこがイキっちゃっても、こ、こわくなんてないんだからねっ!」

 戦闘せんとう再開さいかいされた、と喧騒けんそうかる。枝葉えだはけ、木々を穿うがおとが、あちこちでる。はげしく、けたたましく、森にあふれる。

「ふ、ふぅん。ざぁこどもにしては頑張がんばってるみたいだけど、集団しゅうだん配置はいちがなんとなくかる能力のうりょくで、丸見まるみえなんだから。って、これ、ホントにレイトッチの劣化版れっかばんじゃん」

 サードは、このたたかいのまえに、集団しゅうだん配置はいちがなんとなくかる能力のうりょくもらった。レイトの、すべてのてき味方みかた位置いちが分かる能力が、うらやましかったからだ。

 もらった能力のうりょくはレイトの劣化版れっかばんだが、十分じゅうぶん使つかえる。見える。

 いまサードがいる王樹おうじゅ本隊ほんたいに、人間にんげん集団しゅうだんが四つ接触せっしょくして、もうとしている。もっとふかし込むみぎ正面しょうめん人間にんげんがわ主力しゅりょくで、もっとあさひだり正面しょうめん後方こうほう支援しえん部隊ぶたいなのだろう、とまで予想よそうできる。

 主力しゅりょくおもわれる集団しゅうだんも、たいしたことはない。あれでは、棒持ぼうもちのまもりを突破とっぱするまえけてしまう。右と左からはさんでくる集団しゅうだんは、主力ほどの力もなさそうだし、にする必要ひつようもない。

 それにしても、後方こうほう支援しえん部隊ぶたいまで投入とうにゅうしての総攻撃そうこうげきとは、なみだぐましい努力どりょくだ。人質ひとじちとなったふだすくおうと、必死ひっしなのだ。

「じゃあさぁ、その人質ひとじちちゃんを目のまえされたらぁ、ざぁこどもはどんな反応はんのうをしてくれちゃうのかなぁ?」

 サードは、意地いじわるみをかべた。嘲笑ちょうしょうで、人質ひとじちの女の子を見た。

 女の子は、サードの思惑おもわくづいて、ハッとして、さけぼうとする。こえまえに、サードの小さな手が、女の子の小さな口をふさぐ。

「さあ! いよいよ、アタシの天才的てんさいてきなショーのフィナーレよ! ざぁこどものこころをバッキバキにって、華麗かれいなる勝利しょうりめてあげちゃうんだから!」

 サードがこし突剣レイピアいて、たかかかげる。

 呼応こおうして、棒持ぼうもちの集団しゅうだん一部いちぶうごく。サードの前方ぜんぽうから退しりぞいて、まもりのそとからの視線しせんとおみちつくる。

 みちさきには、人間にんげんがわ後方こうほう支援しえん部隊ぶたいおもわれる集団しゅうだんがいる。その中に、見たものを映像えいぞうとして伝達でんたつできる能力者のうりょくしゃがいるはずである。

 必死ひっしまもろうとした強化能力者バッファーえる瞬間しゅんかんを、映像えいぞうを、人間にんげんがわ全員ぜんいん共有きょうゆうすることになる。それで、全員ぜんいん戦意せんいくじかれ、絶望ぜつぼうして、けをみとめるにまっている。

「これでっ! アタシのっ! ちよっ!」

 サードはレイピアをかまえた。こんな小柄こがら華奢きゃしゃで、うごけもしない相手あいてなんて、一突ひとつきでわりだ。


   ◇


 サードのレイピアがくだけて、そらう。そのさきの木のみきに、カーンとたかおとで、銀色ぎんいろやりさる。

よわいフリをしただけで後方こうほう支援しえん部隊ぶたいだとだまされますなんて、リーダーさんの分析ぶんせきどおりに、まだまだ子供こどもでいらっしゃいますのね」

 トウカが、やりはなったまえのめりの体勢たいせいで、ほこらしげに微笑びしょうする。まれたきん色のながかみが、あかいビキニアーマーが、露出ろしゅつした白いはだが、日の光にキラキラとかがやく。

「さすがトウカさん!」

 わたしはした。棒持ぼうもちモンスターどものまもりの隙間すきま、そのおくのセイナとサードを目指めざしてした。

 セイナはれ木みたいなモンスターに、グルグルきに拘束こうそくされている。

 となりのサードはうごかない。きっと、トウカの高速こうそく必中ひっちゅうやり武器ぶき破壊はかいされて、なにきたか理解りかいできず、呆然ぼうぜんとしている。

 わたしとセイナのあいだには、いばらみたいなひくいモンスターどもがめられて、はばむ。ザコではあるが、かずおおい。

「ユウコ!」

 わたしよりもはやく、ミカがいばらモンスターの集団しゅうだん突入とつにゅうする。両刃りょうば大斧おおおの両手りょうてにぎり、大きなむねらし、全身ぜんしんおもいっきりく。大斧おおおのからひろがった衝撃波しょうげきはが、モンスターの集団しゅうだん両断りょうだんし、る。

っけぇっ!」

「ありがと! ミカ!」

 わたしは、ミカのかたりて跳躍ちょうやくした。のこいばらモンスターどもをした。

 かたな両手りょうてにぎる。りあげる。眼前がんぜんの、れ木みたいなモンスターにりおろす。

 ななめに両断りょうだんされたモンスターがえる。セイナが解放かいほうされて、足場あしばうしなったサードともども地面じめんちる。

 二人のあいだって、わたしはさらにまえへとむ。

「おねぇちゃんっ!」

 セイナのうれしげな、たかくかわいらしいこえ背中せなかとどいた。

 力がみなぎる。強化バフ以上いじょうの力が、わたしの全身ぜんしんみなぎる。

 眼前がんぜんには、王樹おうじゅそびつ。最大さいだい最強さいきょうクラスの大型おおがたモンスターであり、植物しょくぶつがわのボスである。

 胴体どうたいは、木のみきからみ合って球体きゅうたいになっている。球体から、四本の脚状あしじょうふとい木がえる。

 うでは、おなじく球体から、太いえだが八本ほどびる。それぞれの枝のさきに、丸鋸まるのこみたいないわ円盤えんばんがついている。

 球体のうえに、まれた王冠おうかんっている。まさに、モンスターどもの王の威風いふうの、バケモノである。

勝負しょうぶよ! 王樹おうじゅ!」

 わたしは、りおろしたかたなやいばひるがえした。

 王樹おうじゅ枝先えださき丸鋸まるのこが、八枚はちまいすべて、わたし目掛めがけてりおろされた。

 かたなななめにりあげて、丸鋸まるのこ五枚をはらう。のこり三枚のあいだを、躊躇ちゅうちょなくる。

 かたかすった。セーラーふくけた。いまさらにすることではない。

 全身ぜんしん全霊ぜんれいで、つちへこむほどつよみ、ぶ。王樹おうじゅたかくまでびあがり、かたな頭上ずじょうたかくにりかぶる。

 不思議ふしぎ感覚かんかくがある。ついに、王樹おうじゅ決着けっちゃくをつける瞬間しゅんかんむかえる。

 最初さいしょは、ミカの敵討かたきうちだった。いかりがあった。

 つぎは、えた仲間なかまたちのために、みたいな心持こころもちだった。後悔こうかい義務感ぎむかんがあった。

 いまとなっては、ミカも復活ふっかつして、えた仲間なかまたちも復活ふっかつして、王樹おうじゅたたか理由りゆうはそこにはない。かつてのおも感情かんじょうも、ない。

 でも、いまは今の理由りゆうがある。これまでよりもはるかにつよい理由が、おもいが、わたしに、ある。

「はああああぁぁぁぁっっっっ!!!!!」

 わたしは、王樹おうじゅ胴体どうたいへと、跳躍ちょうやくいきおいをせて、一直線いっちょくせんに、かたなりおろした。結果けっかは、かっていた。確信かくしんしていた。


   ◇


 わたしはきた。

「おねぇちゃんっ!」

 セイナもきた。

 避難所ひなんじょ体育館たいいくかんの、白いパーテーションでかこまれた滞在たいざいスペースだ。

 通路つうろへとす。まどそとあかるい。

「ユウコ!」

 通路つうろにレイトの姿すがたえた。ほかにも何人なんにんも、体育館たいいくかん出口でぐちかっていた。

「レイト!」

 わたしはレイトに手をり、合流ごうりゅうする。一緒いっしょ体育館たいいくかんる。

 れている。あさ青空あおぞらが、そらてまでひろがる。

った! わたしたちが、った!」

 わたしは、両手りょうてたかかかげて、空高そらたかくへとさけんだ。爆発ばくはつしそうなうれしさと、あふれる歓喜かんきを、全身ぜんしんあらわした。

 レイトも、みんなも、歓声かんせいをあげた。まちが、世界せかいが、あかるい光につつまれていた。



少女しょうじょかたなふかもり 第14話 最終さいしゅう決戦けっせん 後編こうへん/END

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