第13話 最終決戦 前編

 薄暗うすぐら体育館たいいくかんの、たか天井てんじょうに、バチバチとあめはげしくちつける。まどそとくらで、ザーザーとつよ雨音あまおとる。

 避難所ひなんじょとなった中学校ちゅうがっこう体育館たいいくかんで、大勢おおぜいの人が一晩ひとばんごす。わたしも、レイトも、DFディーエフたたか仲間なかまのほとんどが、この避難所ひなんじょあつまっている。

「おやすみ、レイト。緊張きんちょうしてねむれない、なんてわないでよ?」

 ならぶパーテーションで仕切しきられた通路つうろで、わたしはレイトに手をった。

「ユウコこそ、さっさとろよ? 興奮こうふんしてつけなかった、はしだぞ」

 レイトが、ひくいテンションで、すこしだけわらった。

かってる。まかせて」

 わたしは笑顔えがおこたえて、自分じぶん今夜こんやまるスペースにはいる。

 おやも、いもうとのセイナも、すでによこになっている。セイナのとなり寝転ねころんで、タオルケットをかぶる。

「ねぇ、おねぇちゃん」

 セイナが小声こごえはなしかけてきた。

「なぁに、セイナ?」

 わたしも小声こごえこたえた。

「手、つないでもいい?」

「もちろん、いいわよ」

「ありがと、おねぇちゃん」

 セイナと手をつなぐ。目をじる。

 いよいよ、王樹おうじゅとの決戦けっせんのときがくる。むねおどる。緊張きんちょうするし、興奮こうふんもする。

 レイトには、まかせて、なんてったけど、すぐにつけそうにはなかった。


   ◇


 わたしは、ゆめを見ていた。夢の中で、ユウコとばれていた。

 不思議ふしぎな夢だった。ふかい森の中で、一振ひとふりの日本刀にほんとうを手に、植物しょくぶつのモンスターとたたかう夢だった。

 そんなゲーム感覚かんかくたたかいに、きゅうまち命運めいうんたくされるとか、とんだ無茶むちゃりだ。

 でも、わたしには、たくさんの仲間なかまがいる。わたしたちには、地味じみだけどたよれるリーダー、レイトがいる。

 不思議ふしぎと、けるがしなかった。みんなと一緒いっしょなら、てるとしんじられた。


   ◇


 ゆめの中で、ふかい森の中にいる。DFとぶ、不思議ふしぎ場所ばしょである。

 木々きぎかこまれた、ひらけた広場ひろばになっている。小高こだかおかの上のようで、眼下がんかふかい森がひろがる。

 人があつまっている。数十人すうじゅうにんいる。おもい思いにかみかざり、着飾きかざり、武器ぶきつ。

 わたしは、ながいピンクいろかみきあげる。紺色こんいろのスカートのプリーツをなおす。白いセーラーふくの、えり朱色しゅいろのリボンをただす。

 こしにある日本刀にほんとうさわる。おりのあかいスニーカーの、爪先つまさき地面じめんたたいてきなおす。

「ユウコ! こっち!」

 集団しゅうだんの中にいるミカが、大きく手をりながら、こえをかけてきた。

 ミカは、青髪あおがみのポニーテールで、たかく、いつも半袖はんそでTシャツにたんパンにブーツの、あかるくて運動部うんどうぶっぽい活発かっぱつな、どう学年がくねんの女子である。むねが大きい。武器ぶきは、両手りょうてにぎる大きな両刃りょうばおので、いまつえのようにてる。

「ミカ! いまく!」

 わたしは小走こばしりで、ミカにった。

 ミカはこん作戦さくせんで、精鋭せいえい部隊ぶたい隊長たいちょうつとめる。まあ、ミカの実力じつりょくかんがみれば、当然とうぜんである。ミカはすごい。

 はくラン隊長たいちょうは、右翼うよく部隊ぶたい隊長たいちょうになった。白ラン隊長も実力者じつりょくしゃだし、当然とうぜんだ。

 わたしは精鋭せいえい部隊ぶたい所属しょぞくし、主戦力しゅせんりょくの一人として、最前線さいぜんせん中央ちゅうおうつ。気負きおいや緊張きんちょう皆無かいむではないが、信頼しんらいできる仲間なかまたちがいるから、不安ふあんはない。

「あっ! レイト!」

 レイトをつけて、手をった。

「おう、ユウコ。ユウコにしては、はやかったな」

 レイトが目線めせんだけをこちらにけて、いつものひくいテンションでこたえた。

 レイトは地図ちずひろげて、むずかしいかんがえごとをする表情ひょうじょうをしている。リーダーとしてやること、かんがえることがおおいにちがいない。

 いまも、だれかとはなしている。

王樹おうじゅっぽいのの周囲しゅういは、見えるかぎ全部ぜんぶ棒持ぼうもちモンスターだとおもうっす。森の中だから確実かくじつとはえないっすが、あのたかさととが具合ぐあいは、棒持ぼうも以外いがいはないっす」

「じゃあやっぱり、王樹おうじゅ周囲しゅういだけで棒持ぼうもちが五百体ごひゃくたいはいますね。偵察ていさつありがとうございました。あとは、後方こうほう支援しえん部隊ぶたい行動こうどうしてください」

了解りょうかいっす」

 不穏ふおん言葉ことばいてしまった。

 棒持ぼうもちモンスターは、王樹おうじゅ本隊ほんたい主力しゅりょくだ。前回ぜんかいまでは、王樹おうじゅ本隊ほんたいにも二百体ほどしかいなかった。それが五百体もいるなんて、てき総力戦そうりょくせんかまえなのだろう。

みなさん! 早速さっそく作戦さくせん行動こうどううつります! 部隊ぶたいごとにかれて集合しゅうごうしてください!」

 レイトがこえった。

 事前じぜんに、部隊ぶたいけも作戦さくせん説明せつめいんでいる。全員ぜんいん各自かくじ役割やくわり把握はあくしている。すぐにあつまって、レイトのまえならぶ。

「えっと、王樹おうじゅ本隊ほんたい主力しゅりょくが、棒持ぼうもちモンスター五百体ほどと増強ぞうきょうされています。でも、今回こんかい戦闘せんとう時間じかんなが確保かくほできているので、慎重しんちょうてきかずらすたたかかたをして大丈夫だいじょうぶです。じゃあ、セイナちゃん、強化バフをおねがいします」

「は、はいっ!」

 レイトのまえにセイナがすする。

 いもうとのセイナは、わたしとおなじピンクいろながかみの、みだ。ピンク色のミニスカートの、魔法まほう少女しょうじょっぽい衣装いしょうだ。

 おりの白猫しろねこのヌイグルミをかかえている。かわいい。小学生で小柄こがら華奢きゃしゃで、なにもかもがかわいい。

 セイナの緊張きんちょうが、表情ひょうじょうかる。わたしは、満面まんめんみで手をる。目のったセイナも、ちょっとだけみをかえしてくる。

「みっ、みなさんっ! 前線ぜんせんにはれませんけど、皆さんの勝利しょうり無事ぶじを、いのってますっ! まちを、家族かぞくを、大事だいじな人たちを、絶対ぜったいまもりましょう!」

 セイナのかわいい応援おうえん同時どうじに、力がみなぎった。セイナの能力のうりょくによる強化バフだ。

 みんなおなじで、全身ぜんしんに力がみなぎったと、雰囲気ふんいき変化へんかかった。それほどまでの、空気くうきの変化だった。

『うおーっっっ!!!』

 全員ぜんいんが、雄叫おたけびをあげた。ふかい森に、ひびいた。広場ひろばに、熱気ねっきちた。

各隊かくたいに、判断力はんだんりょくのある隊長たいちょう短距離たんきょりテレパシストを配属はいぞくしてあります。本陣ほんじん指示しじだけでなく、各隊かくたい連携れんけい活用かつようしてください。では、作戦さくせん開始かいしです」

 レイトが、テンションのひく口調くちょうげ、あるす。

 レイトのかたを、シバタがつかむ。

「えっと? どうかしましたか、シバタさん?」

「おいおい、それはないだろ、リーダー? 最終さいしゅう決戦けっせんなんだから、みんな士気しきがバーンとぶちあがるような、一言ひとことくらいはあっていいだろ?」

「えぇ……?」

 レイトが困惑こんわくした。シバタが意地いじわるそうなみをかべた。

 たぶん、わたしもふくめて全員ぜんいんが、みでレイトに注目ちゅうもくする。レイトはれてあかかおで、ボサがみく。

「……えっと、それじゃあ、リーダーをさせてもらってます、レイトです。リーダーといっても、全体ぜんたい配置はいちかる能力のうりょくと、戦術せんじゅつ多少たしょうくわしい程度ていど理由りゆうえらばれました。まれてから十四年くらいの子供こどもだし、DFにるようになってから二週間にしゅうかんほどしかってません」

 レイトの口調くちょうはテンションがひくい。抑揚よくようすくなくて、やるかんじられない。

「でも、その二週間にしゅうかんで、できることはすべてやって、可能かのうかぎりをかさねたつもりです。みなさんと一緒いっしょかさねた二週間にしゅうかんがあれば、どんなてきだろうとかならてると確信かくしんしてます。宿敵しゅくてき王樹おうじゅと、サードをたおして、ともあかるいあさかえましょう」

 レイトが、右のこぶしそらへとかかげた。

『うおーっっっ!!!』

 全員ぜんいんが、信頼しんらいみで、あつ雄叫おたけびをあげた。ふかい森の中のひらけたあおい空へと一斉いっせいに、右のこぶしかかげたのだった。


   ◇


 おかをくだり、王樹おうじゅ本隊ほんたい正面しょうめんへとた。

 てき主力しゅりょくは、上端じょうたんとがったたかい木のみきみたいなモンスターである。

 あしは、あるのかないのかからない。はなく、うでみたいなふとえだが一本だけえる。

 枝のさきにはながくて太いやりみたいな木のぼうにぎる。『棒持ぼうもちモンスター』とか、りゃくして『棒持ぼうもち』とかぶ。

 たくさんならんでいる。木々きぎてきおおくて、ならびのはしは見えない。おくにも、何列なんれついるのかからない。

 王樹おうじゅ本隊ほんたいは、ふかい森の中では木々のまばらな位置いち陣取じんどる。視線しせん射線しゃせん確保かくほし、棒持ぼうもちのなが武器ぶきかすためである。

 しかし、配置はいち種類しゅるい把握はあくし、先制せんせい成功せいこうしてしまえば、障害物しょうがいぶつすくなさゆえに人間にんげんがわ接敵せってき容易よういとなる。

王樹おうじゅは、棒持ぼうもちのあつまもりのおくかな。棒持ぼうもちの周囲しゅういはザコが守ってるけど、この精鋭せいえい部隊ぶたいなら問題もんだいない」

 ミカを先頭せんとうに、精鋭せいえい部隊ぶたい十名が、しげみのかげかくれてしゃがむ。十メートルほどさきに、トゲトゲした低木ていぼくモンスターの集団しゅうだんがいる。

 作戦さくせん前回ぜんかいとほぼおなじである。うす土色つちいろぬのかぶったトウカが、王樹おうじゅ討伐とうばつ本命ほんめい精鋭せいえい部隊ぶたいひそむ。ほか隊員たいいんは、棒持ぼうもちモンスターを殲滅せんめつする気概きがいたたかう。

 王樹おうじゅまもりをどこまでうすくできるか、の勝負しょうぶである。守りを限界げんかいまでうすくして、トウカのやり至近距離しきんきょりから王樹おうじゅへとむ。王樹おうじゅさえたおせれば、人間にんげんがわちとなる。

「あんなザコなら楽勝らくしょうまかせてよ、ミカ」

「ユウコはちょっとって」

 わたしがこたえるよりもはやく、ミカがした。

 ミカは両刃りょうば大斧おおおの両手りょうてにぎり、低木ていぼくモンスターの集団しゅうだんはしへとむ。大きなむねらし、上体じょうたいひねり、うでひねり、大斧おおおのおもいっきりいて、モンスターどもを両断りょうだんする。

 大斧おおおのからひろがった衝撃波しょうげきはが、モンスターの集団しゅうだん両断りょうだんした。まばらな木々ごと両断して、した。

 強化バフありとはいえ、ザコてきとはいえ、何体なんたいたおしたどころじゃない。半径はんけい十メートルの半円はんえんくらいの範囲はんいで、てきんだ。

 ほか隊員たいいんたちも、低木ていぼくモンスターの集団しゅうだんむ。あっとに、視界内しかいないの低木モンスターが全滅ぜんめつして、棒持ぼうも集団しゅうだんへと接敵せってきする。

「ユウコ! ここからはおねがい!」

「うん! まかせて!」

 わたしは、うれしさにたかこたえて、精鋭せいえい部隊ぶたい先頭せんとうへとた。目のまえ棒持ぼうもちモンスターの集団しゅうだんへと、りあげたかたなを、袈裟懸けさがけにりおろした。

 棒持ぼうもち三体を両断りょうだんした。えた。

 棒持ぼうもちが消えた空間くうかんへとむ。べつ棒持ぼうもちに接敵せってきし、つよみ、刀を横薙よこなぎにる。

 棒持ぼうもち二体を両断りょうだんした。消えた。

 さらにおくへとけ込む。

「ユウコ! もどって!」

 後方こうほうから、ミカのこえこえた。

 ミカのこえは、不思議ふしぎみみはいる。熱中ねっちゅうしていても、まえしか見えていなくても、ミカの声だと分かる。

「うん! もどる!」

 わたしはこたえて、まえいたまま、後方こうほうへとねた。単独たんどく深入ふかいりしちゃダメな作戦さくせんだったとおもした。

 精鋭せいえい部隊ぶたい配置はいちへともどる。ミカとかたならべる。

 配置はいち長方形ちょうほうけいちかい。てき部隊ぶたいせっするへん中点ちゅうてんを、わたしが担当たんとうする。長方形の中央ちゅうおうかくれるトウカを、全員ぜんいんかこんでまもる。

「セイナの強化バフがあるから、いきおいだけでけそうじゃない?」

 わたしは調子ちょうしって、軽口かるくちたたいた。

「さすがに五百体はおおすぎかな。でも、もっとかずらせば、いきおいで突破とっぱもできるとおもう」

 ミカが微笑びしょうして、冷静れいせいこたえた。

かった! じゃあ、まずはかずらそう!」

 わたしは、はしゃぐこえ同意どういした。ミカと一緒いっしょたたかえるだけで、とても、とても、うれしくて、たのしかった。


   ◇


戦況せんきょうはどうだい、レイト司令しれい?」

 シバタが、かる口調くちょうでボクをた。

てき戦力せんりょくを、順調じゅんちょうけずってます。まだしばらくは、現状げんじょう継続けいぞくです」

 ボクは、おさえた声音こわねこたえた。

 ボクもシバタも、サバゲーみたいな迷彩柄めいさいがら地味じみふくだ。ボクはさらに、ボサボサのくろ短髪たんぱつ黒縁くろぶち眼鏡めがねと、人間的にんげんてきにも地味じみだ。シバタはイケメンスポーツマンで、人間的には派手はで部類ぶるいだ。

移動いどうします」

 ちあがり、あるす。本陣ほんじんのボク、シバタ、護衛ごえい二人のけい四人で、森の中を移動いどうする。

 この戦闘せんとうはじまってから、本陣ほんじんちかくをてき反応はんのうがウロウロしている。たった一体いったいで、うごきがはやい。サードがこちらの本陣ほんじんさがしているのだとかんがえられる。

「セイナちゃんたちのほうにも、移動いどう指示しじをおねがいします」

 今回こんかいは、前回ぜんかい敗北はいぼく反省はんせいで、セイナとその護衛ごえい二人を本陣ほんじんとはべつ行動こうどうさせている。本陣ほんじん四人とセイナぐみ三人にけたことで、サードに発見はっけんされる確率かくりつはさがる。

了解りょうかい。でも、遠隔えんかく指示しじのタイムラグがきびしいんじゃないか?」

 シバタが、イケメンスポーツマンのみで、真面目まじめな目をしていた。

「そうですね。リアルタイムでげられる本陣ほんじんはともかく、セイナちゃんたちのほうげきれないとおもいます。サードに発見はっけんされるのがさきか、王樹おうじゅたおすのが先か、時間じかんうん勝負しょうぶです」

 ボクは、このさき可能性かのうせい予想よそうしながらこたえた。

かくたいに、進攻しんこういそがせたほうがいいか? 王樹おうじゅ辿たどいたとして、強化バフえてちゃ意味いみないよな」

「いいえ。想定そうていはしてたので、かくたいへの指示しじはそのままです。ボクが、全力ぜんりょく攻撃こうげき指示しじはやめる判断はんだんは、必要ひつようでしょう」

「ははっ。セイナちゃんがピンチってったら、ユウコちゃんがあせってぱしりそうだな。だまっといたほう正解せいかいか」

 シバタが、茶化ちゃか口調くちょうわらった。

「それはそうですね」

 ボクもわらった。司令官しれいかんとしては不謹慎ふきんしんだとかっていても、ユウコのあせかおおもかべてしまって、ゆるめずにはいられなかった。

 まち未来みらいかったたたかいの重責じゅうせきが、すこしだけかるくなるのをかんじていた。



少女しょうじょかたなふかもり 第13話 最終さいしゅう決戦けっせん 前編ぜんぺん/END

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