第12話 決戦前朝

 わたしは、ゆめを見ていた。夢の中で、ユウコとばれていた。

 不思議ふしぎな夢だった。ふかい森の中で、一振ひとふりの日本刀にほんとうを手に、植物しょくぶつのモンスターとたたかう夢だった。

 そんなゲーム感覚かんかくたたかいに、きゅうまち命運めいうんたくされるとか、とんだ無茶むちゃりだ。

 でも、わたしには、たくさんの仲間なかまがいる。わたしたちには、地味じみだけどたよれるリーダー、レイトがいる。

 不思議ふしぎと、けるがしなかった。みんなと一緒いっしょなら、てるとしんじられた。


   ◇


「あうっふぅ。レイトのはなしむずかしすぎるのよ~」

 わたしは、目をました。大きく欠伸あくびをして、ベッドからからだこした。

 情報じょうほうりょうおお一晩ひとばんだった。

 植物しょくぶつ集合しゅうごう意識いしき人間にんげんため神様的かみさまてき存在そんざいのファースト、幼女ようじょのセカンドちゃん、生意気なまいきなサード、DFディーエフのぞみの反映はんえいされる場所ばしょで、現実げんじつまちけて勝負しょうぶする。一度いちど完敗かんぱいして全滅ぜんめつしたけれど、レイトもトウカもシバタもメガネもカメラもはくラン隊長たいちょう精鋭せいえい部隊ぶたい数人すうにん復活ふっかつしている。セイナがいて、そしてだれよりも復活ふっかつのぞんだミカがいる。

「よしっ!」

 わたしは、りょうほほたたいて気合きあいをれて、ちあがった。

「……にしても、ザーザーうるさいわね」

 カーテンをけた。

 あめっている。土砂降どしゃぶりである。

 植物しょくぶつ集合しゅうごう意識いしきとやらとの決戦けっせんは、今夜こんやだ。人間にんげんがわ敗北はいぼくすれば、この大雨のあとに、なぞ植物しょくぶつまちおおうのだ。

 表情ひょうじょうめ、とびらけて廊下ろうかへとる。階段かいだんをおり、リビングルームにはいる。

「おはよう、おねぇちゃん」

 いもうとのセイナは、テーブルで朝食ちょうしょくべている。小学生で、小柄こがら華奢きゃしゃで、なが黒髪くろかみ美少女びしょうじょである。学校はやすみなので、ピンクいろのパジャマ姿すがたである。

 わたしは、小柄こがら華奢きゃしゃで、かたくらいまでのながさの黒髪くろかみの中学生である。このタイミングはいつも色のパジャマ姿すがたである。

「おはよう、セイナ」

 テレビには、あさのニュースがながれる。

「うわっ。このあたり、大雨おおあめ警報けいほうてるわ」

 かってはいても、ショックだ。不安ふあんだ。

学校がっこう避難ひなんするから、ユウコも準備じゅんびしなさい。避難所ひなんじょ一晩ひとばんまるつもりでね」

 キッチンから、母親ははおやこえこえた。

「えーっ?! この雨の中を学校までくの? 面倒めんどいよー」

 わたしは、まごうことなき本心ほんしんこたえた。

文句もんくわないの。小学校か中学校かきなほうえらんでいいから、はやくしなさい。ともだちがほうとかでもいいのよ」

 母親ははおやが、あきれたような、たのしそうなこえげた。

 わたしは、セイナとかおを見あわせる。セイナがつぶらなひとみまるくする。わたしの目も、ビックリしてまるくなる。

「それだ!」

 手にしたスマートホンの、メールアプリを起動きどうした。

「えっと、レイトに、避難所ひなんじょはどこにすればいい?っと、送信そうしん

 わたしの手元てもとを、セイナがのぞむ。

「ねぇ、おねぇちゃん。おな場所ばしょねむれば、DFの同じ場所ばしょからスタートできるんだったよね?」

「うん。集合しゅうごう時間じかんはぶければ有利ゆうりになるとかなんとか、レイトがってたがする」

「あっ! おねぇちゃん、返事へんじたみたいだよ」

 レイトからの返信へんしんひらく。

「えっと、可能かのうな人は中学校に避難ひなんしてほしい、ね。おかの上は地形的ちけいてき有利ゆうり……? ……よしっ!」

 わたしは、つづきをまずにメールをじた。どうせむずかしいことはからない。分からないことはレイトにまかせておけばいい。

「セイナ! いそいで準備じゅんびするわよ。はやく学校にあつまらないと」

「うん! 分かった!」

 リビングルームをて、階段かいだんけあがった。てんがわたしたちに味方みかたしてくれているような、希望きぼうひかりが見えたがした。


   ◇


 かよれた中学校の、見慣みなれた体育館たいいくかんの、見慣みなれない白いパーテーションの中の、見慣みなれない白いマットに荷物にもつく。

 DFでしか面識めんしきのない人たちと現実げんじつうだろうから、余所行よそいきのちょっといいふくた。セイナも余所行よそいきのちょっといいふくだ。

 セイナはかわいい。いもうとながらかわいい。余所行よそいきのふくで、かわいさ五割ごわりしだ。

「まずは、レイトと合流ごうりゅうしないとね」

 レイトは、もういるだろうか。まだだろうか。

「DF関係者かんけいしゃかたがいらっしゃいましたら、こちらまでおこえがけおねがいします」

 おぼえのあるこえが、パーテーションで仕切しきられた通路つうろ移動いどうしながら、かえす。

 レイトの声だ。びかけだから、ひくいテンションではない。った声だ。

「レイト、こっち!」

 わたしは、こえをかけながら、通路つうろへとる。声のどころを見て、ちょっとおどろく。

「おお、ユウコさん、セイナさん、おはようございます」

 メガネが丁寧ていねいあたまをさげた。DFでの姿すがたまったおなじ、短髪たんぱつ七三分しちさんわけにした、スーツにほそ眼鏡めがねのサラリーマン男性だんせいだ。

 ここが現実げんじつゆめか、一瞬いっしゅんだけ戸惑とまどう。

『メガネさん、おはようございます』

 二人ふたりならんであたまをさげかえした。DFのときとおな姿すがたのメガネは、目印めじるしとして最適さいてきだ。

「ユウコにしてははやいな。セイナちゃん、おはよう」

 一緒いっしょにいるレイトが、こちらにかるく手をった。

 レイトは、わたしたちのDFでのリーダーだ。小柄こがらで、かみがボサボサで、黒縁くろぶち眼鏡めがねで、くらそうな、もとい、勉強べんきょうのできそうなタイプの同級生どうきゅうせいだ。相変あいかわらず、いかにも普段着ふだんぎな、ラフでヨレた服装ふくそうだ。

 レイトも、見た目をかざらない性質たちだから、現実げんじつでも見つけやすい。

 DFではかみ装備そうびの見た目をきにできるから、着飾きかざるタイプの人を現実げんじつ見分みわけるのはむずかしいとおもう。御嬢様おじょうさまかんがなくなる露出ろしゅつ美女びじょのトウカとか、男装だんそう麗人れいじんするはくラン隊長たいちょうとか、別人べつじんレベルになるカメラとか、っていてもおどろく。

「あっちのすみあつまってもらってるから、一緒いっしょっておいてくれ」

かった。みんなてくれるといいね」

 わたしは、しめされたほうへとあるしながら、レイトへと微笑びしょうした。なんだか、レイトとはなせるだけで、たのしい気分きぶんだった。


   ◇


「えっと、リーダーをさせていただいてます、レイトです。それでは、今夜こんや決戦けっせんそなえて、状況じょうきょう確認かくにんわせをおこないます。自由じゆう参加さんかですので、退席たいせきもご自由にしていただいてかまいません」

 ボクは、かしこまって挨拶あいさつした。

 DFでリーダーをしているからと、現実げんじつ数十人すうじゅうにんまえにするのは緊張きんちょうする。ここでは普通ふつうの中学二年生である。年上としうえ大半たいはんだし、大人もおおい。

みなさん、メールでのきゅうなおねがいに、あつまってくださってありがとうございます」

 もちろん、ボクのためにあつまったわけではない。

 自分じぶんたちのまち命運めいうんかっていること、大雨おおあめ警報けいほう避難ひなん余儀よぎなくされたこと、ほかにも色々いろいろ要因よういんあつまった。どうせ避難ひなんするのだからと、ついでにあつまった人もおおいだろう。

「オレたちの代表だいひょうえらばれたんだろ! もっとえらそうにしたらどうだ!」

 イケメンスポーツマンのシバタが、茶化ちゃか口調くちょう野次やじばした。

 ボクのまえならんですわ数十人すうじゅうにん集団しゅうだんから、ドッとわらいがあふれた。

 おもわずかおあかくなる。人前ひとまえ苦手にがてである。

「やめてください、シバタさん。ボクなんかがどうして人間にんげんがわ代表だいひょうえらばれたのか、ボクも不思議ふしぎなのに」

「それは、レイトしゃんが、一番いちばん分別ふんべつがあっちぇ、一番いちばん接触せっしょくちやすそうだったからでちゅ」

 セカンドが、たか可愛かわいらしいこえで、舌足したたらずにこたえた。

 セカンドは、植物しょくぶつ集合しゅうごう意識いしきの一人で、人間にんげんとの共存きょうぞんのぞ共存きょうぞん代表だいひょうだ。ボクたちの協力者きょうりょくしゃだ。もっと簡単かんたん説明せつめいするなら、フリルつきの白いドレスをた、ふわふわのながく白いかみ幼女ようじょだ。

「ざぁこ、ざぁこ。アンタみたいなざぁこが代表だいひょうだなんて、アンタらの確定かくていね。まぁ、アタシがアンタらみたいなざぁこにけるわけないけどぉ、キャハハハッ!」

 サードが、くろなが手袋てぶくろつつまれた手を口元くちもとへとえて、高飛車たかびしゃ高笑たかわらいした。

 サードは、植物しょくぶつ集合しゅうごう意識いしきの一人で、人間にんげんとの抗戦こうせんのぞ抗戦こうせん代表だいひょうだ。ボクたちのてきだ。生意気なまいき性格せいかくわるい女の子だ。

 ふわふわとしたくせながむらさきいろかみで、はだ日焼ひやけして、わらう口に八重歯やえばのぞく。きめこまかいのレースの、くろいリボンがきついた、黒いチューブトップに黒いミニスカートをている。両手りょうては黒いレースのなが手袋てぶくろつつみ、くつはヒールのたかい黒いブーツをく。

「これからわせをするから、てきサイドの人はせきはずしてくれ」

 ボクはサードにはなった。こいつがなんでいるんだ、みたいな疑念ぎねんこえた。

「ヤダヤダァッ! アタシも一緒いっしょするぅ! 仲間なかまはずれはヤダァッ!」

 サードが、肢体したい左右さゆうよじって駄々だだねた。

「いや、仲間なかまじゃないだろ?」

 困惑こんわくする。こいつはなんなんだ、みたいな疑念ぎねんかおる。

「すみません。どなたか、サードの排除はいじょをおねがいします」


 体育館たいいくかんとおくのすみに、にらむサードが見える。

 排除はいじょ全力ぜんりょく抵抗ていこうされたので、こえこえない距離きょりまではなれる、で妥協だきょうした。抵抗ていこうする女の子を大人二人がかりで無理矢理むりやり、は絵面的えづらてき不味まずい、との判断はんだんだ。かれて不利ふりになるはなしではないので、問題もんだいもあるまい。

なんだったんですかね」

自分じぶんうごけるからだになって、うれちかったんだとおもいまちゅ。人間にんげんみなしゃんとはなちたり、あそんだりちゅるのも、新鮮しんせん体験たいけんでちゅ。サードがはしゃぐ気持きもちもかりまちゅ」

 セカンドが、ちらちらとサードのほうを見ながらこたえた。

われてみれば、植物しょくぶつ集合しゅうごう意識いしきでしたね」

 ボクも、サードのほうをちらちらと見る。目がたびに、サードが反応はんのうする。

 ちがかたちになったり、はじめての体験たいけんをしたり、どんな感覚かんかくなのだろう。ずっとワクワクしたりドキドキしたり、たのしくてたのしくて仕方しかたないかんじだろうか。

「はははっ、あそびか。まち命運めいうんかったり、人間にんげん植物しょくぶつたたかいっても、たしかにあそびだよな。オレも、ずっとワクワクしっぱなしだし、みんな一緒いっしょたたかえるのがたのしいんだ」

 イケメンスポーツマンのシバタが、茶化ちゃかすような口調くちょうで、さわやかにわらった。

「そうですわね。わたくしも、DFで皆様みなさま出会であえましたこと、感謝かんしゃしておりましてよ。DFのおかげで、私がのぞむ私にちかづけましたことも、がた経験けいけんですわ」

 御嬢様おじょうさまのトウカが、やさしく微笑びしょうした。

「わたしも! わたしも、ずっとたのしい! みんなに迷惑めいわくかけてへこんだりもしたけど、またみんなとたたかいたいって、毎朝まいあさおもう!」

 ユウコが、笑顔えがおこえをあげた。

 全員ぜんいんが、だいなりしょうなり微笑ほほえむ。

 重苦おもくるしい空気くうきはない。気負きおいのかげりもない。

 全員ぜんいんが、いまこのえた幸運こううんっている。実感じっかんしている。

「えっと、それでは、今夜こんや決戦けっせんまでの各自かくじ行動こうどうかんして、いくつかおねがいさせてください。面倒めんどうごとは、リーダーのボクがすべまかされます。みなさんは、のぞむままに、全力ぜんりょくくしてください」

 ボクも、ちいさく微笑びしょうした。笑顔えがおなんて苦手にがてで、表情ひょうじょうとぼしいといつもわれているけれど、ユウコと目が合って、なぜだかいつもよりも自然しぜんわらえたようながした。



少女しょうじょかたなふかもり 第12話 決戦けっせん前朝ぜんちょう/END

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