第11話 友との再会

 不思議ふしぎ気分きぶんだった。

 わたしは、ゆめていた。一週間いっしゅうかんくらいぶりの夢だった。

「あなたは、ゆめの中の森に復活ふっかつすることをのぞみまちゅか?」

 幼女ようじょ特有とくゆうの、たか可愛かわいらしいこえで、舌足したたらずなしゃべりだった。

 五、六さいくらいの女の子である。なが波打なみうしろかみで、白いはだで、白いレースの、フリルでかざられた白いドレスをている。

 しろ空間くうかんに、わたしと幼女ようじょの二人だけがいる。おたがいにって、見つめあう。わたしは幼女ようじょを見おろし、幼女ようじょがわたしを見あげる。

 へんゆめだ。そう、これは夢だ。わたしが見ている夢なのだ。

 ゆめなのだから、どうこたえても、どうでもいいがする。幼女ようじょあそびにきあって承知しょうちしても、面倒めんどうだと拒否きょひしても、どうでもいい。どうせ、目がめたらすべわすれてしまうだろう。

ゆめの森ねぇ……」

 わたしは、かんがえる。こしこぶして、いかにもなやんでるふうに、大仰おおぎょうう。

 ゆめの森とえば、あさっぱらに不審ふしんなメールがとどいていた。名前なまえらない不審者ふしんしゃからの不審ふしんなメールに、そんな言葉ことばいてあった。

たとえば、わたしがとんでもなくつよくなれて、ゆめの森を自由自在じゆうじざいけまわれるなら、きっとたのしいわよね。たとえば、わたしが、日本刀にほんとうりまわして、森に巣食すくうモンスターどもをたおせるなら、大事だいじ仲間なかまたちをまもれるのなら、きっとうれしいわよね」

 不審ふしんなメールに、そんなこともいてあった。わたしが、きんつよさの、最強さいきょう戦士せんしだと、明記めいきしてあった。

 不思議ふしぎめぐりあわせである。なぜか、むねがワクワクとおどる。期待きたいからだあつくなる。

 こんなゆめを見るのなら、不審者ふしんしゃだからとブロックしなければかった。べつのメールがないかと、チェックしておけば良かった。

「……だから、わたしのこたえは、イエスよ!」

 わたしは、たからかに宣言せんげんした。まよいなんて、あるわけがなかった。


   ◇


 わたしは、ゆめを見ていた。夢の中で、ユウコとばれていた。

 不思議ふしぎな夢だった。ふかい森の中で、一振ひとふりの日本刀にほんとうを手に、植物しょくぶつのモンスターとたたかう夢だった。

 毎晩まいばん、同じ世界のゆめを見る。同じ夢の世界を、たくさんの人が共有きょうゆうしているともく。何ものかの啓示けいじだとか警告けいこくだとか陰謀いんぼうだとか、危険視きけんしする大人もいる。

 でも、普通ふつうの中二女子のわたしには、ゲームであそぶくらいの感覚かんかくしかなかった。


   ◇


 ふかい森の中にいる。DFディーエフぶ、不思議ふしぎ場所ばしょである。植物しょくぶつっぽいモンスターどもとのたたかいの一週間いっしゅうかんを、はっきりとおぼえている。

 ながいピンクいろかみきあげる。紺色こんいろのスカートのプリーツをなおす。白いセーラーふくの、えり朱色しゅいろのリボンをただす。

 こしにある日本刀にほんとうさわる。おりのあかいスニーカーの、爪先つまさき地面じめんたたいてきなおす。

 この姿すがたが、く。たかぶる。たのしい気分きぶんになる。

「おねぇちゃん! おねぇちゃんもるって、しんじてたよ!」

 いもうとのセイナが、きついてきた。セイナも、DFに復活ふっかつしたようだ。

 セイナはDFでもかわいい。わたしとおなじピンク色のながかみの、みだ。ピンク色のミニスカートの、魔法まほう少女しょうじょっぽい衣装いしょうだ。

 おりの白猫しろねこのヌイグルミをかかえている。かわいい。小学生で小柄こがら華奢きゃしゃで、なにもかもがかわいい。

『そこのお二人ふたりさん。集合しゅうごう場所ばしょ案内あんないするぜ。えず、適当てきとう方向ほうこう移動いどうしてみてくれ』

 あたまの中に、シバタの思考しこうこえた。

「オーケイ。誘導ゆうどうねがいね」

 こっちの思考しこうつたわらないとっていて、わたしはおもわず返答へんとうした。


   ◇


 ふかい森の中にある広場ひろばに、シバタの誘導ゆうどう辿たどく。トウカとシバタと、ほかにも大勢おおぜいの人があつまっている。

 さがす。いたいともが、かつてあずけてたたかい、その犠牲ぎせいにわたしをまもってえた戦友せんゆうがいる。数十人すうじゅうにんいる中を、期待きたい不安ふあん狭間はざまで、きそうな目で、必死ひっしさがす。

「……ミカ!」

 いた! ミカがいた!

 青髪あおがみのポニーテールで、たかく、いつも半袖はんそでTシャツにたんパンにブーツの、あかるくて運動部うんどうぶっぽい活発かっぱつな、どう学年がくねんの女子である。むねが大きい。武器ぶきは、両手りょうてにぎる大きな両刃りょうばおので、いまつえのようにてる。

 わたしは、ミカにる。びつくようにきつき、大きなむねかおめ、きしめる。うれしすぎて、おもわず、こえしてく。

「うぇ~~~ん」

ひさしぶり、ユウコ。あんなにはなしてくれたのに、しんじてあげられなくてゴメンね」

 ミカが、まずそうに微笑びしょうした。

「でも、ユウコがはなしてくれてたおかげで、ここにもどってこれたわ。ありがとう」

 ミカが、やさしく、わたしのあたまでた。

「またえたから、ゆるす」

 わたしはがおをあげて、ミカを見あげた。

「だいたいそろったみたいなので、大事だいじはなしと、能力のうりょく確認かくにんと、部隊ぶたい編成へんせいと、作戦さくせん説明せつめいをします。みなさん、あつまってください」

 広場ひろばに、やるかんじられない、テンションのひくこえこえた。リーダーのレイトだ。デリカシー皆無かいむのクラスメートだ。

 いつもの、サバゲーみたいな迷彩柄めいさいがらふくに、ボサボサのくろ短髪たんぱつ黒縁くろぶち眼鏡めがねという地味じみ格好かっこうである。現実げんじつ世界せかいおなじで目立めだたない。

 レイトのまえに、五十人くらいの人があつまる。

予想よそうよりも復活ふっかつぐみおおいようで、うれしいです」

 うれしさのかんじられない、テンションのひく口調くちょうだった。

 レイト、トウカ、シバタ、メガネ、カメラ、はくラン隊長たいちょうがいる。精鋭せいえい部隊ぶたい面々めんめんも、数人すうにん確認かくにんできる。わたしとセイナもいる。

「まずは、特別とくべつ来客らいきゃく紹介しょうかいします」

 レイトが、ちょっとだけ恐縮きょうしゅくして、二人の女の子を紹介しょうかいした。

 全員ぜんいんざわめいた。セイナが、わたしの背中せなかかくれて、セーラーふくにしがみついた。

 白い女の子と、くろい女の子だ。白い女の子は、ついさっき、DFへの復活ふっかついてきた幼女ようじょだ。たぶん、この全員ぜんいん見覚みおぼえがあるはずだ。

 黒い女の子は、見覚みおぼえがない。白い幼女ようじょと、雰囲気ふんいきている。

 ふわふわとしたくせながむらさき色のかみで、はだ日焼ひやけして、わらう口に八重歯やえばのぞく。きめこまかいのレースの、くろいリボンがきついた、黒いチューブトップに黒いミニスカートをている。両手りょうては黒いレースのなが手袋てぶくろつつみ、くつはヒールのたかい黒いブーツをく。

「この二人は、ボクたちがDFとぶこの場所ばしょつくった黒幕くろまく関係者かんけいしゃです。白い子は、人間にんげんがわ協力者きょうりょくしゃでセカンドさん。くろい子は、モンスターがわ代表者だいひょうしゃでサードさんです」

 全員ぜんいんざわついた。レイトが右手みぎてたかかかげて、みな発言はつげんせいした。

「ボクから、くわしい説明せつめいをさせていただきます」

 やるかんじられない、テンションのひく口調くちょうだった。

 こえ抑揚よくようがなさすぎてはなし重要性じゅうようせいかりづらいな、とたぶん全員ぜんいんおもった。


「……ということです。信憑性しんぴょうせいは、この状況じょうきょうではかんがえても無意味むいみだと判断はんだんします。賛同さんどうしかねるかたは、このあつまりから離脱りだつしていただいてかまいません」

 レイトのはなしは、突拍子とっぴょうしもないものだった。

 植物しょくぶつ集合しゅうごう意識いしきとか、かみちか存在そんざいとか、のぞみの反映はんえいされる空間くうかんとか、現実的げんじつてきなファンタジーだ。いままさにDFにいる人間にんげんでなければ、検討けんとうするまでもなく否定ひていしただろう。

「こりゃまた、いきなりのきゅう展開てんかいだな」

 イケメンスポーツマンのシバタが軽口かるくちたたいた。わらって茶化ちゃか口調くちょうだった。

 全員ぜんいんざわつく。おたがいにかおあわせ、疑問ぎもんを口にする。困惑こんわくするもの同士どうし問答もんどうして、こたえをられるはずもない。

 わたしは、しがみつくセイナの手をやさしくして、はなれさせる。くろい女の子のまえへとすすて、こしさやから日本刀にほんとうく。

「レイトのはなし意味いみ不明ふめいだけど、このサードってのが、かわいいセイナをこわい目にわせた、ってのはたしかなのよね?」

おおいユウコなら、そうるとおもったよ」

 レイトはおどろかなかった。あきがおで、どこかたのしげに口元くちもとゆるめた。

「あれあれぇ? 今日きょう挨拶あいさつだけの予定よていだったけどぉ、ざぁこちゃんがやるならぁ、相手あいてしてあげちゃってもいいのよぉ? いざたたかいとなってぇ、腰抜こしぬけのざぁこちゃんがづかなきゃだけどぉ、キャハッ!」

 くろい女の子、サードがこし突剣レイピアいて、わたしへとけてかまえた。

 感動かんどう再会さいかいいわ広場ひろばが、一転いってんして空気くうきめた決闘けっとうへとわった。わたしのこころいかりがえた。この勝負しょうぶなに意味いみがあるとして、かわいいいもうとまもること以外いがいは、どうでもかった。


   ◇


「おねぇちゃん! 頑張がんばって!」

 セイナの応援おうえんが、わたしの背中せなかとどいた。

 力がみなぎる。かわいいいもうと声援せいえんというだけでも力がみなぎる。強化能力者バッファーセイナの強化バフで、さらにみなぎる。

 わたしは、このの人の中で、一番いちばんつよい。自惚うぬぼれでも傲慢ごうまんでもなく、つよい。

 かたなつか両手りょうてつ。さきをサードにける。呼吸こきゅうととのえ、集中しゅうちゅうする。

 サードがニヤニヤと嘲笑あざわらう。レイピアの剣先けんさきをこちらにけて、ゆらゆらとらす。

「たぁっ!」

 素早すばやみ、かたなりあげ、気合きあい一閃いっせん、サードの脳天のうてん目掛めがけてりおろした。

 サードが、しゃかまえるように半身はんみき、刀をけた。同時どうじに、レイピアの剣先けんさきが、わたしの左肩ひだりかたへとされた。

 あわてて上半身じょうはんしんひねって、レイピアをける。レイピアがはやい。サードのうごきが速い。

 刀身とうしんひるがえし、サードのこしたかさを横薙よこなぎする。

 サードが、ヒールのたかいブーツで、こおりの上をすべるようなステップで、軽々かるがる後方こうほうへとけた。八重歯やえばのぞかせて、生意気なまいき嘲笑ちょうしょうのままだ。

「くっ!」

 くろいブーツの電光石火でんこうせっかみに、残像ざんぞうすらともなうレイピアの剣先けんさきに、動揺どうよううめきがれた。無理むりけようとして、体勢たいせいくずれた。

 目でうのがやっとの、レイピアの華麗かれい連続れんぞくきを、必死ひっしける。かすって、セーラーふくやプリーツスカートがける。けた刀身とうしんこすって、金切かなきおんらす。

 きがはやい。けるのが精一杯せいいっぱいで、反撃はんげきできない。サードは、わたしよりもはるかに速い。

「きゃっ?!」

 わたしは、かかとを木のっかけて、ころんだ。尻餅しりもちをついた。

 目のまえには、レイピアの剣先けんさきがある。そのこうに、サードの嘲笑ちょうしょうがある。

「ざぁこ、ざぁこ。このアタシにとうなんて、百億年ひゃくおくねんはやいのよ、ざぁこ。キャハハハハッ!」

 サードが、くろなが手袋てぶくろつつまれた手を口元くちもとへとえて、高飛車たかびしゃ高笑たかわらいした。

「……くっ」

 くやしさに、口元くちもとゆがんだ。かわいいいもうと強化バフもらったのにけるとは、おもってもみなかった。

勝負しょうぶはサードのち、でいいだろ?」

 とおめから見守みまもっていたレイトが、サードにこえをかける。

今日きょうはルールの説明せつめいだけのはずだ」

 サードが、ほこったみのまま、レイピアをこしかわベルトへとなおす。かおはレイトのほうへとけ、八重歯やえばのぞく口を大きくひらく。

「キャハッ、よくきなさい、ざぁこ! 決戦けっせん明日あした、ざぁこの勝利しょうり条件じょうけん王樹おうじゅ撃破げきは敗北はいぼく条件じょうけん主力しゅりょくメンバーの全滅ぜんめつよ!」

 セカンドが、淡々たんたんぐ。

人間にんげんみなしゃんが敗北はいぼくちた場合ばあいは、みなしゃんが地域ちいき植物しょくぶつ領域りょういきになりまちゅ。具体的ぐたいてきにどうなるかは、ちゅでにどこかで見聞みききちてるはずでちゅ」

 また、ざわつく。いままでよりも大きく、さわがしく、こえ危機感ききかんちる。

 大雨おおあめなぞ植物しょくぶつなぞのガスのことだと、子供こどもでも連想れんそうできる。しかも、自分じぶんたちがまち植物しょくぶつ占領せんりょうされ、人間にんげんされることを意味いみする。

 けたら参加権さんかけん関連かんれんする記憶きおくうしなう、みたいなペナルティのうちは、まだ他人事ひとごとのゲーム感覚かんかくだった。

 しかし、現実げんじつ生活せいかつかってしまっては、そんなあそ気分きぶんではいられない。精神的せいしんてきめられて、こころ余裕よゆうのこらない。いままでみたいに気軽きがるにはたたかえない。

 全員ぜんいん戸惑とまどい、蒼褪あおざめる。わたしもきっと蒼褪あおざめている。

みなさん、深刻しんこくかんがえなくても大丈夫だいじょうぶです。てばいいだけです。勝算しょうさんもあります」

 レイトが、ひくいテンションでげた。不安ふあんはないとばかりにいていた。

「で、でも、レイト。わたし、強化バフあって、このサードって子に、てなかったわ」

 わたしは地面じめんすわんだまま、不安をかくせぬ表情ひょうじょうでレイトを見あげた。

 いつのにか、セカンドもサードもいなくなっている。ようんだ、ということか。

「サードさんは、ユウコさんよりも随分ずいぶんはやくていらっしゃいますのね。ですが、あのタイプはわたくしがお相手あいてしますから、問題もんだいはありませんことよ」

 トウカが、自信じしんちた微笑びしょうで、手をべる。

 わたしは漠然ばくぜんとした安心感あんしんかんに、しっかりと手をり、ちあがる。

 そうだ。わたし一人でたたかうのではない。みんなと力を合わせて、たたかうのだ。

「では、みなさんの能力のうりょく確認かくにん部隊ぶたいけをおこないます。こちらに、一列いちれつならんでください」

 レイトのこえは、テンションひく淡々たんたんとしていた。

 でも、わたしたちは、その中にひそめた懸命けんめいさをっていた。つために努力どりょくしまぬ、える熱意ねついかんじていた。



少女しょうじょかたなふかもり 第11話 ともとの再会さいかい/END

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