第3話 戦闘能力特化型

 わたしは、ゆめを見ていた。夢の中で、ユウコとばれていた。

 不思議ふしぎな夢だった。ふかい森の中で、一振ひとふりの日本刀にほんとうを手に、植物しょくぶつのモンスターとたたかう夢だった。

 毎晩まいばん、同じ世界のゆめを見る。同じ夢の世界を、たくさんの人が共有きょうゆうしているともく。何ものかの啓示けいじだとか警告けいこくだとか陰謀いんぼうだとか、危険視きけんしする大人もいる。

 でも、普通ふつうの中二女子のわたしには、ゲームであそぶくらいの感覚かんかくしかなかった。


   ◇


「こんなに、人がいたんだ」

 わたしは、おどろいていた。

 ゆめの中の森『DFディーエフ』で、レイトたちと合流ごうりゅうした。シバタの遠隔えんかく指示しじしたがって森の中を移動いどうして、一時間じかんくらいはかかった。

 集合しゅうごう場所ばしょの、森の中にある広場ひろばには、五十人以上いる。大人もいる。同じく中学生くらいの子供もいる。

 各々おのおのが、思い思いの格好かっこうで、色々な武器ぶきつ。派手はでなパーティードレスに大きなかまの女の人や、中世ちゅうせいふうの全身甲冑かっちゅう着込きこんだ人、金髪きんぱつ逆立さかだてて色いエレキギターをつ男の人、白い学ランに短髪たんぱつの女の人、スーツにほそ眼鏡めがねのサラリーマンそのままの男の人もいる。

「かなり広い森だからな。広範囲こうはんい感知かんちできないと、合流はむずかしいと思う」

 レイトが、地図ちずに何かをみながらこたえた。

 レイトは、サバゲーみたいな迷彩柄めいさいがらふくに、ボサボサの黒い短髪たんぱつ黒縁くろぶち眼鏡めがねという地味じみな格好である。現実げんじつ世界と同じ、目立たない印象いんしょうを受ける。

「ユウコさんは、はじめてご一緒いっしょしますから、メガネさんに能力のうりょくを見ていただきましょうね」

 トウカが、満面まんめん笑顔えがおで、かたに手をいた。

 わたしは、肩を引かれるままにり向く。スーツにほそ眼鏡めがねのサラリーマン男性がいる。わたしを凝視ぎょうししている。

「こちらの世界では、わたくしたちは、ある程度ていど戦闘せんとう能力と、それとは別に、特殊とくしゅな能力をっていますの。私の特殊とくしゅ能力は、正確せいかく無比むひ高威力こういりょく投擲とうてきでしてよ」

 凝視ぎょうししてくるサラリーマンに引き気味ぎみのわたしに、トウカが笑顔えがお説明せつめいした。

「ボクは、広範囲こうはんい感知かんち能力のうりょく。メガネさんは、相手の能力を見ることができる」

「オレは、相手がとおくにいても言葉ことばつたえられる。ユウコちゃんは、何ができるんだい?」

 レイトとシバタが、自己紹介じこしょうかい感覚かんかくで能力を説明した。

 わたしは、首をかしげる。何だかよく分からないけれど、口をひらく。

「わたしは、戦闘せんとう能力が高いと思う」

 レイトたちが、首をかしげる。

「いや、戦闘せんとう能力とは別に、特殊とくしゅ能力があるんだ。あの王樹おうじゅひきいる本隊ほんたい遭遇そうぐうして無事ぶじだったんだから、何かあるんだろ?」

「まあまあ、おちになってくださいませ。ご自身の特殊とくしゅ能力に気づかないかたもいらっしゃいますわ。わたくしも、メガネさんにおしえていただくまでは分かりませんでしたもの」

 の空気が微妙びみょうだ。期待きたい新人しんじんが期待ほどではなかったかんじの雰囲気ふんいきだ。

 メガネがおどろいた口調くちょうげる。

「いいえ、本当に、特殊とくしゅ能力のうりょくがないようですね。どころか、感知かんち能力すらありません。戦闘せんとう能力のない特殊とくしゅ能力特化型とっかがた幾人いくにんか知っていますが、特殊とくしゅ能力のない戦闘せんとう能力特化型は初めて見ました」

 場の空気が、いよいよ微妙びみょうになった。すここまったように、各人かくじんかおを見合わせた。

戦闘せんとう能力が高いなら、一応いちおう精鋭せいえい部隊ぶたいに入ってもらいますか?」

後方こうほう支援しえん部隊の護衛ごえいでもいいんじゃないか?」

司令部しれいぶ護衛ごえいはいかがかしら?」

「感知能力がなくては、護衛ごえい任務にんむむずかしいですね」

 本人そっちのけで、相談そうだんしている。本人を目の前に、好き勝手かって言っている。

「でしたら、わたくし一緒いっしょに、精鋭せいえい部隊に配属はいぞくですわ。十人ほどの部隊で、集団しゅうだんせんかなめとなりまして、先陣せんじんを切るのが役目やくめになりますの。よろしくおねがいしますね」

 トウカが笑顔えがおで右手をし出した。

 握手あくしゅもとめられているのだろう。他にできることなさそうだしじつ戦闘せんとう部隊に入れておこう、みたいな話し合いをたりにしてしまったので、純粋じゅんすい歓迎かんげいはできそうにない。

「う、うん。よろしく」

 わたしは、困惑こんわく気味の笑顔えがおで、握手あくしゅわした。


   ◇


「リーダーから指示しじが来ましてよ。前方ぜんぽうやく五百メートルに、モンスターの集団しゅうだんがいますわ。精鋭せいえい部隊ぶたい正面しょうめんから交戦こうせん開始かいしおくれて右翼うよく左翼さよく部隊がはさちしてくださいませ」

 精鋭せいえい部隊隊長たいちょうのトウカから指示が出る。指示は、シバタが司令部しれいぶからトウカへとつたえる。全体のてき味方みかた配置はいち把握はあくし、作戦さくせんを決め、指示を出すのは司令部にいるリーダーのレイトである。

 位置いちかずが分かるのはすごい、と思う。こんな、木々にかこまれて視界しかいわるい森の中で、はなれた場所にてきがいると分かるのは、想像そうぞう以上にすごい。

 てそうなかずの敵に、有利ゆうり状況じょうきょう戦闘せんとう仕掛しかけられる。こっちから先制せんせい攻撃こうげきだってできる。

 わたしがミカと一緒いっしょにいたときは、こうはいかなかった。こっちが先に発見はっけんされて、近づくモンスターをミカが感知かんちして、不利ふりにはならないように対処たいしょするのがおおかった。結果けっか的に、どうしようもない不利におちいって、ミカがえた。

「ミカ……」

 思わず、つぶやいた。かなしくて、なみだが出そうになった。

 こちらからモンスターに攻撃こうげきするのは、モンスターのかずらして人間がわ被害ひがいらすためらしい。どうせおそわれるなら、こっちからおそってやろう、である。

 レイトたちも、わたしと同様どうように、このゆめの中の森の意味いみを知らない。なぜ自分たちがここにいて、なぜモンスターにおそわれるのか、何も知らない。自分たちの能力のうりょくの意味も、当然とうぜんながら知らない。

全員ぜんいん戦闘せんとう準備じゅんびはよろしくて? 王樹おうじゅはいませんから、気負きおいませんでも大丈夫だいじょうぶですわ。それでは、散開さんかいしてください!」

 トウカの合図あいずで、四十人の集団しゅうだんが十人ずつ四部隊ぶたいに分かれる。正面しょうめんから先陣せんじんを切る精鋭せいえい部隊、右にまわ右翼うよく部隊、左に回り込む左翼さよく部隊、後方こうほうにさがって支援しえんてっする後方支援しえん部隊の四隊である。

わたくしたち精鋭せいえい部隊は、正面から突撃とつげきして、てき陣形じんけいの中央をくずすのが役割やくわりでしてよ。おたがいにカバーし合うことをわすれずに、突撃とつげきしてくださいませ!」

 言うが早いか、トウカがけ出した。武器ぶきまで白銀はくぎん色の金属きんぞくの長いやりで、金色の長いかみみ込んで、露出ろしゅつおおい赤色のビキニアーマーで、美女びじょでスタイルが良くて、とても目立つ。かぜのように木々のあいだかろやかな走りも、とても素敵すてきだ。

 他の八人も、トウカにつづいて駆け出す。トウカほどではないが、派手はでかみ、派手なふく、大きな武器と、目立つ人が多い。

 この中では、ピンク色のかみにセーラー服に日本刀にほんとうの自分は、地味じみほうである。むしろ一番地味である。でも、派手か地味かに、たいした意味いみはない。

 わたしは、ける。木々の間を素早すばやい、び、木のみきって、さらに高くぶ。みきからみきへとび、一気に前へと出る。

 見えた。てきのモンスターは、丸太まるたたてにする防御ぼうぎょタイプだ。

 防御ぼうぎょタイプのたてが、よこに何枚もならぶ。ふとい丸太を立ててよこつないだ見た目の、頑丈がんじょうそうなたてである。たて一枚がたてよこ三メートルはあって、何枚ならんでいるのかも分からないくらいおおいから、森の中の前方はたてというか丸太というかでふさがれている。

不味まずいですわ! 全員、止まってくださいませ!」

 トウカがあわてた声をあげる。

「ユウコさん! たてタイプは簡単かんたんには突破とっぱできませんの! たぶん後方にいるてき遠距離えんきょりタイプの攻撃こうげきが来ますから、その前に後退こうたいしますわよ!」

 トウカの指示しじが、何となく理解りかいできた。かたい守りのたてタイプで守って、トゲトゲしたとかをばす遠距離えんきょり攻撃こうげきタイプがうしろから攻撃こうげきする陣形じんけいなのだろう。

 こっちは、精鋭せいえい部隊ぶたい敵陣てきじんの中にんで陣形をくず作戦さくせんだ。突破とっぱ困難こんなんたてタイプがてきにいると、敵陣の中に突っ込むという前提ぜんてい達成たっせい困難こんなんなのだ。作戦自体じたい遂行すいこう困難こんなんなのだ。

 レイトの感知かんちは、かず位置いち、人間か植物しょくぶつっぽいモンスターか、が分かるらしい。人間がだれか、どの種類しゅるいのモンスターかまでは分からないらしい。例外れいがい的に、異質いしつすぎる王樹おうじゅだけは分かるらしい。

「こんなザコにっ……」

 わたしは、王樹おうじゅのバケモノみた姿すがたを思い出す。ミカを消されたくやしさに、歯噛はがみする。ミカならきっと、突っ込めユウコっ、と指示をくれる。

 木のみきり、さらに高く跳躍ちょうやくする。赤いスニーカーでたて上端じょうたんふちみ、えてび、かたなりあげ、たてかまえるつっかえぼうみたいなモンスターへと、飛びおりながら振りおろす。

 両断りょうだんしたつっかえぼうが消えた。丸太のたても消えた。

 丸太をつないだたてはゴツイが、たてささえるモンスター本体はほそい。ゴツイたてくらべるとたよりない、見た目は本当に細い木のつっかえぼうである。

 左右のつっかえぼう素早すばやく。前方のたてを、向こうのつっかえぼうごと、袈裟懸けさがけに両断する。

 数秒すうびょうで、三体が消えた。所詮しょせんはザコだ。王樹おうじゅのときのぼう部隊ぶたいと比べれば、ザコすぎて何の手応てごたえもない。

「たぁっ!」

 力強ちからづよむ。素早く刀を振る。たてかまえるつっかえぼうが切れて、消える。

「みっ、皆様みなさま! ユウコさんにつづきますわよ! たてタイプの消えた箇所かしょから、突撃とつげきしてくださいませ!」

 トウカのあわてた声がこえた。


 結果けっか的に、作戦さくせん成功せいこうした。あのにいたモンスターの集団しゅうだんの、半数はんすう近くをたおせたそうだ。


   ◇


「まさか、これほどのつよさとは。戦闘せんとう特化型とっかがたを、見縊みくびっていました。もうわけありません」

 メガネがあたまをさげた。

「い、いえ。別に気にしては……」

 自分のおやくらいの年齢ねんれいの大人にあやまられるのは、背筋せすじがムズムズしてかない。森の中で切りかぶすわるのもれなくて、おしりもムズムズする。

「いやほんと、ビックリしたわ」

 後方支援しえん部隊ぶたいに、見たものを映像えいぞうとして他の人にも見せられる特殊とくしゅ能力のうりょくちの、大人の女の人がいる。『カメラ』とばれている。はい色のかみを右がわだけにらして、小さなまる眼鏡めがねをかけて、芸術家げいじゅつかっぽいカラフルさとおかたいレポーターっぽい窮屈きゅうくつさのじったスカートスーツで、不思議ふしぎ印象いんしょうの人である。

「これまであれだけ苦戦くせんしてたたてタイプを、あっさりきざんじゃうんだから。筋力きんりょくとかどうなってるのか、ちょっと体、さわっていい?」

 この無遠慮ぶえんりょに体をさわってくる変な大人の女の人、カメラのおかげで、わたしの戦闘せんとう能力の高さがみんなに周知しゅうちされた。わたし自身、ちょっとビックリした。精鋭せいえい部隊の全員が、わたしよりも一回ひとまわり以上よわいのだ。

 隊長たいちょうのトウカですら、人間の範疇はんちゅうよりちょっと上のうごきしかできない。垂直跳すいちょくとび十メートルとか、息切いきぎれなしで全力行動こうどう一時間とか、できないのである。投擲とうてきは人間ばなれしているといたので、特殊能力そっち系の強さなのだろうとは思う。

普通ふつうだわ。中学生女子の細腕ほそうでだわ」

 カメラが、半袖はんそでセーラー服から露出ろしゅつしたうでをニギニギして、おどろき気味に断言だんげんした。

「DF《ディーエフ》での強さは、現実げんじつ要素ようそとは無関係むかんけいですもの。筋肉きんにくと強さが比例ひれいしていましたら、わたくしはソフトボールもまともには投げられませんことよ」

 トウカが、カメラとはぎゃくうでをニギニギしながら補足ほそくした。

 二人とも、わたしの体に興味きょうみ津々しんしんだ。両腕りょううでり返しにぎられて、変な気分だ。

「あ、あの、失礼しつれい質問しつもんかもだけど、たてタイプに苦戦くせんしてて、王樹おうじゅたおせるの?」

 わたしは、当然とうぜん疑問ぎもんを口にした。

単純たんじゅんな力と力のぶつかり合いではてませんでしょうね。ですから、作戦さくせん特殊とくしゅ能力のうりょくたおしますのよ」

 トウカが、うでをニギニギしながら、微笑びしょうする。

ぎゃくに、ユウコさんがどんなにお強くても、ユウコさんお一人では、数百体のモンスターに守られる王樹おうじゅたおせないと思いますわ」

 トウカの意見いけんは、もっともだ。実際じっさいに、ユウコは王樹おうじゅたおそうとしたのに、王樹に近づくことさえできなかった。王樹のひきいるぼう部隊ぶたい攻撃こうげきに、完全にはばまれた。

「そのあたりのことって、くわしくおしえてもらえる?」

「ええ、もちろんですわ。おひる作戦さくせん会議かいぎがありますから、お時間があれば、いらしてくださいませ」

 微笑ほほえむトウカの姿すがたが、うすくなる。そろそろ、きる時間のようである。

「うん! 参加さんかする! 起きたら連絡れんらくする!」

 トウカが消える前にと、あわててこたえた。自身の必死ひっしさが、自分でも分かる声だった。


 そう、わたしは結局けっきょく、この世界せかいのことを、ほとんど何も知らない。



少女しょうじょかたなふかもり 第3話 戦闘せんとう能力のうりょく特化型とっかがた/END

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